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第4話 廃墟ダンジョン、徹底制覇(2)

「これから、防衛芸術高校第一期生による、初のダンジョン掃討動画の生配信が行われます」


 ダンジョン掃討とは ―― 文字通り、人の住む土地に急に現れたダンジョンを消して、元通りに戻すこと。

 この世界に現れるダンジョンは、魔界が侵食してきたものだ。まあ、魔界のモンスターが家ごと、無断でいきなり引っ越してきたと思えばいい。

 だから、ラスボス家主を倒せばダンジョンは消える。

 ―― ダンジョン出現は大迷惑だが、特撮ものを見ているような面白さもあるから、その掃討動画配信は大人気だ。

 防衛芸術高校でも、生徒によるダンジョン掃討の動画を配信する ―― と、入学手続きの際に顔出しの許可を求められた。

 まさか、入学式前のオリエンテーションで生配信されるとは思わなかったけれど。


「顔出しは、ふたりとも大丈夫でしたね」


「「はい」」


 鷹瀬先生がリュックから、カメラつきドローンと、モノクル片眼鏡つきのイヤーフック耳かけ式マイクを取り出した。 


「私たち無才能ノースキル科にとって、動画配信は大変、重要です」


「わたしたちのD指向性EエネルギーW兵器感動いいね・コメントエネルギーで動くからですね」


 城浦さんの優等生な回答に、鷹瀬先生は 「その通りです」 とうなずく。


「今回の動画配信の目的も同じ。なるべく感動いいね・コメントを多く集め、そのエネルギーでダンジョン内のモンスター及びラスボスを倒してダンジョンを掃討、私たちの教室を取り戻します ―― なにか質問は?」


「はい」


「折田さん、どうぞ」


「ぼくはダンジョン配信をしたことがありません。この配信でいきなり、感動いいね・コメントを集められるかは、ちょっとわからないです」


「それについては、心配ありませんよ。

 配信は、N日本DダンジョンH配信K協会と自衛隊広報センターのダンジョン配信課が共同で行っており、カメラの操作やテロップ入れなどは、そちらでしてくれていますから」


「つまり、ぼくたちは配信を気にせず、ダンジョン攻略するだけで、いいんですか?」


「基本はそうです。なお、あなたたちのニックネームは、ノブナガとミウで登録していますから、配信時は、それで呼びあうようにしてください」


「えっ……」


「いやですか、ノブナガさん」


「ちょっと…… でもまあ、いいです」


「わかりました、ありがとう」


 ほんとは、名前コンプレックスがある…… 『ノブナガ』 なんて有名人すぎるっていうか。

 まあ、動画配信に出演するんだったら、印象強い名前のほうがいいよね。

 折田先生が城浦さん ―― ミウのほうに首を回して尋ねる。


「ミウさんは?」


「大丈夫です」


「よかったです。さて、配信画面は、こちらのモノクルマイクで確認できます。試してみてください―― では、配信開始」


 鷹瀬先生がぼくとミウとに、それぞれ、モノクルつきのイヤーフック耳かけ式マイクを渡してくれる。

 モノクルマイクを装着し、言われた通りにスイッチを入れると ―― モノクルに配信画面が映し出された。画面の真ん中に、ドローンが撮影するぼくたちの姿。

 背景は、ここ。廃墟の門だ。 

 画面左側には、通常の動画配信にはない、ゲージのようなもの。小さく 『感動エネルギー』 とある。戦闘時にはこのゲージを見ながら、作戦を考えればいいんだな。

 ゲージの上側には、大きなテロップ。


【生配信 防衛芸術高校ダンジョン掃討作戦 / 無才能ノースキル初心者がどこまでやれる!?】


 すでに、コメントも入っている。


 >> ノースキル? 大丈夫?

 >> 新開発のDEWがいいねコメントで動くって話だろ

 >> は? いいね集めるのに無能使う?

 >> それな

 >> 普通に芸術スキル持ちにやらせれば、よくね?

 >> 防芸の本科どうした

 >> 首もげるww

 >> 無能救済措置ww

 >> 無能のために予算使うなよな


 ミウの眉間が、くっきり川の字を描く。


「好きで無才能ノースキルなんじゃないわよ!」


「コメント内容は気にしないでください」 と、鷹瀬先生。

 テロップは 【作戦会議中……】 となっており、ぼくたちの音声はまだ入ってない。


「世間には無才能者ノースキルやダンジョン掃討の動画配信そのものに好意的でない人もいますが、どんなコメントも、私たちにとってはエネルギーですから」


 割りきれ、ってことか…… まあ 『無能救済』 と言われても、異論の唱えようがない。実際、そうなんだろうから。


「ちなみに初回配信なので、自衛隊の各基地内で上映会を行い、非番の者もできるだけ観るよう通達してもらってます」


「つまり、視聴者はある程度、いるんですね」


「はい。いいね・コメントもなるべく入れるように勧めていますので、内容もですけど、ウケも気にしなくていいです。ミウさん、ノブナガさんは、今回は、ダンジョン内での行動とDEWの扱いに慣れてください」


「わかりました!」


 はきはきとミウが言う。

 自信に満ちた顔…… このままじゃ終わらせない、とか、思ってそうだ。


 ぼくたちが動かなくて、暇なんだろう。

 コメント欄は、無才能者ノースキルの起用についての議論で盛り上がってる。


 >> ダンジョン掃討いよいよヤバいってことだろ

 >> ほい資料。 https://www. m……

 >> お しごでき

 >> そもそもダンジョン用の戦闘スキル持ち少ないしな

 >> うわ発生数多ッ掃討数少なッ

 >> 少ないのはダン掃志願者だろww

 >> ぶっちゃけダン掃部キツいぞ

 >> うっかり強力な戦闘スキル持っちゃったら、民間で警備員でもやってダン掃は休日バイトだな

 >> ブラックダン掃ww

 >> スカウトされても入るな#ダン掃

 >> 人材不足の実態おつw


「―― わたしたち、人材不足だからこの学校防衛芸術高校に合格したってことですか」


 ミウの眉間はもはや、渓谷みたいになっている。

 鷹瀬先生が、きっぱりと首を横に振った。


「いいえ。きちんと、それぞれの天性をかんがみたうえでのことです」


「「天性??」」


才能スキルによらない、生来の志向性、と考えてください…… さて、コメント欄はいったん、閉じてしまいましょう」


 鷹瀬先生にうながされ、ぼくとミウはモノクルの画面をいったん、閉じた。


「コメントに一喜一憂するより、まずは、自分のパフォーマンスの質を上げることを、第一目的にしてください ―― ミウさん」


「はい」


「ミウさんの 『真紅のドレスD E W』 は、ミウさんの 『歌』 の天性を利用した攻撃を行えます。仲間の治癒や補助、防御結界など…… いろいろな使い方を試してみましょう」


「わかりました」


 次に鷹瀬先生は、ぼくに顔を向けた。


「ノブナガさん」


「はい」


「ノブナガさんの 『革の本D E W』 による 『現実改変』 の効力は、実のところ不確定です」


「どうりで。説明書を読んでもわからなかったわけですね」


 『現実改変』 は、DEW 『革の本』 固有の疑似スキル ―― 持ち主が本に書いたことに合わせて現実を変えられる。

 ただし、成功すれば。

 成功するには、現状からそう解離せず、現実に起こりうる範囲のことを書かなければならない ――

 説明書を読んだときに 『結局はクソなんじゃ』 と思ったことは、さすがに黙っておいたが、鷹瀬先生は 「すみません」 と頭を下げてくれた。


「ですが、私たちは期待してもいるんです。 『革の本』 は、たとえば絶対絶命の戦局を変えることのできる、唯一無二の鍵となるのでは、と」


「そんな大それたこと…… 現実と解離したらダメなのに、できますかね?」


「ですから。私たちは、まず、ノブナガさんに 『書く力』 を身につけてほしいのです。視聴者を感動させ、ような……」


 難しすぎる。

 ほかの人たちは、どう思ってるんだろう……

 ぼくはモノクルのスイッチを入れ、配信画面を開いてみた。

 いつのまにか 【作戦会議中】 のテロップは外れている…… この会話、聞かれていたんだろう。

 コメント欄は予想どおりだ ―― 


 >> 無理ゲーww

 >> ↑首もげるww

 >> 無能なのにかわいそう


 誰からも、絶対に無理だと思われている…… 見たら、かえって決意ができた。

 感動いいね・コメントを呼びこみ、現実すら改変させるほどの書く力…… ぼくだって、簡単に身につけられるなんて思っていない。

 まっさきに 『難しそう』 って考えちゃったし。

 だけど。

 ノースキルになったことがない、明日が来なくなるほどの絶望を知らない、知ろうともしないやつらに。

 バカにされ嘲笑あざわらわれて、ナメられたまま退場だなんて ―― 悔しすぎる。


「やってみます」


 ぼくは、鷹瀬先生の顔を見て、しっかりと 『革の本』 を抱えなおす。

 鷹瀬先生はうなずき 「私も、なるべくサポートします」 と言ってくれた。


「では ―― いよいよ…… 【北緯34.72761】【東経135.21275】発生ダンジョン【廃墟】 に突入します」


 鷹瀬先生を先頭に、ぼくたちは、崩れかけた門のなかへと足を踏み入れた。

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