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第11話 洞窟ダンジョン、徹底制覇(2)

 ぼぉぉぉっ……


 オニヤンマ・フェアリーが、襲いかかってきたサソリ型モンスターに向かって炎を吐いた。

 モンスターは逃げる暇さえなく、炎に焼かれ、崩れていく ――

 ツルギがひょい、とドロップアイテムをつまんだ。


「おっ、サソリの黒焼き、ゲットぉ!」


「なにに使うんだ、そんなもん」


 この洞窟ダンジョン。初心者向けのモンスターがそこそこいるんだが、ぜんぶ、ツルギがタブレットD E W召喚したオニヤンマ・フェアリーが焼き払ってくれるんだよな。

 便利なんだけど、そのたびに少しずつ、感動エネルギー・ゲージが減っていくのが気になる。

 最初は少し入ってたいいねも、すぐに飽きられて反応がなくなってしまった。夜中だけに、視聴者も少ないし。

 なにかして、感動いいね・コメント集めないと。ゲージはじりじり、ゼロに近づいている。

 けど…… 焦ってパフォーマンスしたあげくにスベっちゃうと、恥ずかしい。

 しかたなく、ぼくとツルギは、のんびりコメント欄と雑談しながら進んでいく。


 >> 便利だな召喚

 >> だが……退屈だ

 >> ひますぎ


「ごめんなッ、みんな! いきなり、超使えるフェアリーなんて召喚しちゃって!」


「メンタル強いな、ツルギ……」


 >> ミウたんに歌ってほすぃ

 >> ミウたんは?

 >> 女王様はお休み中ですww

 >> いや調教中かも

 >> わいも踏んでほすぃ


 >> サエリたんもいないな

 >> 王女さまはお休み中でいらっしゃいます

 >> 寝顔見守りたい

 >> わかりみ

 >> わかりみしかない


「サエリたんに比べるとミウたん、扱いひどくね? どんな子たち?」 と、ツルギ。


「うーん。明日には会えるわけだし、ぼくは、ノーコメントで」


 >> ノブちんが保身に走ったw


「当然ですよ、そんなの」


 >> ww

 >> センセーなにしてるん?


「あっ、先生には…… 言わずに出てきちゃいました」


 >> 怒られるぞww

 >> それな

 >> あぶない

 >> まあ魔王になれるやついるからww

 >> 厨2魔王


「やめてくださいよ……」


 ツルギが不思議そうな顔をぼくに向けた。


「魔王? ノブちんが?」


「ああ、ぼくのDEWが 『革の本』 で……」


 >> キレたら魔王になる

 >> 無能とパーティーを追放された記録係、実は魔王だった件

 >> 厨2だけどなww


 ぼくとコメント欄で、昼間のダンジョン制覇のことをツルギに説明する。


「えっ、なにそれ!? ガチで魔王になんの!? 最強じゃん!」


「いやまあ、成功確率、低いから……」


「見たい! 見たい! 見せろ!」


「うーん…… まあ、また機会があれば、たぶん?」


「みなさんッ ノブちんがぶちキレて魔王覚醒するアンチコメント、お願いしゃあすッ!」


 >> 無能

 >> 無能

 >> 無能

 >> 無能

 >> 死んだ目w


「いや、さすがにこの流れではムリだって」


 特になにごともなく、洞窟ダンジョンの最奥に近づいたとき。

 なにか悲鳴のようにも聞こえる音色が、かすかに流れてきた ――


「バイオリンかな?」


「わからん! けどそうじゃねッ?」


 かすかに聞こえる音色は、ぼくとツルギが洞窟ダンジョンの最奥部に近づくにつれ、大きくなってきた。

 耳の痛くなるような高音で、速いパッセージが繰り返されている。


「なんか攻撃的だよね」


「それなッ…… これ、高確率でDEWじゃね?」


「でもノースキル科は、ツルギで最後のはず…… しかも、2人いない?」


「だなッ 2重奏っぽい!」


 俺とツルギは耳を澄ませた。高い音がいくつか、凄まじい速さで渦を巻き、そこに弦を爪ではじくような音が加わる …… ひとりでひいているとは、とても思えないんだが。

 コメント欄は 『違w 1人だってww』 『いや二重奏だろ?』 の2派に別れている。


 >> 重音

 >> だから2人だろ?

 >> スキル持ちじゃね?

 >> なんでここにスキル持ちがいるんだよ

 >> しかも夜中やし

 >> 重音≠重奏な


 コメント欄の争いを見ながら、さらに進む…… ふいに、なにかが腐ったような臭いが強くなった。

 ラスボスかな? そろそろダンジョンも最奥だし。


 ―― ほら、いた。


 しゅぅぅぅぅぅ…… しゅうううううう……


 それっぽい、スプレーの噴射音を大きくしたような鳴き声。

 フェアリーの灯りに照らされていた地面に、巨大な影がよぎる。

 影の主は、3つの頭をもつ蛇 ―― 頭のひとつひとつが、ぼくたちなど丸呑みしてしまいそうなほど、大きい。

 もたげた鎌首から、それぞれに、腐ったような臭いの息を漏らしている。

 禍々しいまでに6つの赤い目と、チョロチョロと出入りする3つの長い舌、見え隠れする牙 ―― それらが狙っているのは、背の高い女子だった。

 年齢は、ぼくやツルギより少し上っぽい。ふわっとした長い髪。涙袋の大きい、ぱちっとした目に、通った鼻筋、大きめの口 ―― もし日常生活で出会ったなら、おそらくぼくは 『自信が服着て歩いてる』 と思っただろう。

 けど、いまなら 『闘志がバイオリンを奏でている』 だな。

 彼女はひとり、クリスタルのバイオリンをかまえ、ひたすら右腕を動かしていた。左手が、目にも止まらぬスピードで弦の上を走る。

 耳の鼓膜から頭にキリキリと突き刺さるような、高音・高速のパッセージがつむがれていく。

 その音色にあわせるように、バイオリンから虹色の光が放たれ、大蛇を撃つ。


「すご……」


「けどッ ダメージほっとんど、なくねッ!?」


 大蛇が彼女を攻撃できないのは明らかに、その演奏のおかげだろう。

 だが弦木の言うとおり、大蛇を倒すには程遠い感じがする ―― と、ここで。

 画面左上のテロップが、変わった。


【防衛芸術高校ダンジョン生配信/

 緊急コラボ! 本科エース&ノースキル科新入生!】


【本科(ダンジョン駆除科)/

 キセ(新3年生)】


「エースなんだ……」 「なぬッ スキル持ちかッ!?」


 ぼくとツルギは、ほぼ同時に呟いた。

 ―― 防衛芸術高校には2コースある。 『ノースキル科』 と、芸術系スキル持ちの生徒が通う 『ダンジョン駆除科』 通称 『本科』 だ。

 ノースキル科は山の中で寮生活だが、ダンジョン駆除科はふもとの街で普通に通学 ―― ほぼ接点もないし、会うのは入学式のときくらいだと思っていた。


「こんなところで、会うなんて」


「てかッ、こんっなとこで! なにしてんだキセちゃん!?」


「それな」


 コメント欄にはキセの視聴者が流れてきているようだ。


 >> コラボってなに?

 >> キセ様だけでいいのに

 >> 無能に用はない


 ツルギが口笛を吹いた。


「おっ、固定ファンがいるッ…… さっすが本科新3年・エース!」


「ツルギのメンタルが強すぎる」


 >> うるさいぞ無能ども

 >> 無能は黙ってみてろ

 >> キセ様の邪魔すんなよ、無能ども


「だってさ…… どうする、ツルギ?」


「うーんッと…… キセちゃんのDEWの疑似スキルなにか、知ってるひと?」


 >> 千弦の音色

 >> 羨ましがっていいぞ無能ども

 >> キセ様は、どんな曲でも弾きこなせるすごいスキルをお持ちだ!


「おッ、すごいっすね! うらやまッ! ねー、ノブちん!?」


「ツルギ、ノリの良さが自尊心超えてるな……」


 と、ここで。ぼくたちノースキル科の配信を最初から見てくれていた自衛隊のパイセン先輩がたが、反撃をしてくれた。


 >> キセファン傾聴力ぜろ

 >> 質問はDEWスキルだろ

 >> エースのファンどもが無能すぎて草


 >> いま言おうと思ってたんだよ!

 >> たしか、絶妙絶音 だったかな

 >> キセキのDEWスキル

 >>  いいか、よく聞け…… キセ様のクリスタル・バイオリンは音波を操る

 >> モンスターの鼓膜から入った音波が、脳を破壊し行動不能にするのだ!

 >> じゅうぶんに発達した科学は魔法と区別がつかない


「あッ、なるほどッ! 俺、いまいち攻撃が効かないわけ、わかっちゃった!」


 >> 無能がなに言ってる

 >> 負け惜しみってやつかww

 >> いいか、つまり、あの大蛇の脳内では、キセ様の音波が暴れまくってるとこなんだよ!


「いやー、それ、無いと思うッす!」


「キセさんのファンの前で、それ言えるツルギが怖い」


 やっぱりというべきか、ツルギの発言のせいでコメント欄は大荒れだ。

 ぼくたちの視聴者パイセンがた、入る余地、なし。

 が……

 非難コメントの嵐にもめげることなく、ツルギはこう、言い放ったのだった。


「だって、蛇には耳が、ないッすから!」


 ―― コメント欄が、急激に、静かになった。


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