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第16話 地下ダンジョン、徹底制覇(2)

【生配信 防衛芸術高校ダンジョン掃討作戦 / ノースキル科:先生、早く来て! 思い上がったヒヨコたちが忠告を無視してC級ダンジョンへ!果たして生きて出られるのか!?】


 ツルギ、ミウ、サエリ、ぼくの順に連れだってケーブルカーの車外に出ると、同時に、モノクルの画面左上にテロップが流れた。

 どうやらN日本DダンジョンH配信K協会のスタッフさんは、学校や自衛隊の意向によらず、ぼくたちがダンジョンに入ると配信を始める方針みたいだな。

 見物者がいるほうが安全、って判断もあるのかもしれない。


 >> 悪い子はいねがー!

 >> 悪い子はいねがー!

 >> 悪い子はいねがー!


 コメント欄はなぜだか、なまはげだらけになってる。


 >> センセーまじで早く来て

 >> C級かってに探索はやばい

 >> 悪いことは言わない。やめとけガキども


「すみません、みなさん」


 ぼくはカメラ付きドローンに向かって頭を下げた。配信画面には、ぼくが大写しになってる。


「ご心配、ありがとうございます」


 >> 礼はいいからやめろ

 >> てかいちばん心配なのはノブちんやぞw

 >> 記録係

 >> 役立たずw

 >> いやノブちんは魔王様になればいいんだよww

 >> 厨2魔王覚醒キボンヌw 


「まあ…… 頑張ってみます」


 ぼくが再び頭を下げたとき。

 ツルギが召喚用ペンダブ専用DEWの画面をタッチした。


「フェアリー・ライトニングホタル、召喚!」


 コメント欄から 『ネーミングww 』 とのツッコミが入るなか、光り輝くフェアリーが勢いよく飛びだし、あたりを照らす。

 ―― ぼくたちがいるのは、床から天井まで、黒っぽいヒダのある柔らかな素材におおわれた、ホールだった。

 真ん中にはぼくたちが乗ってきたケーブルカーが、まるで迷子のようにぽつんとたたずんでいる。

 壁や床には、ところどころぼんやりとした不思議な明かりが差している ―― ぼくたちがケーブルカーのなかから見てトンネル照明だと思っていたのは、これだったんだ。

 そして、ホールの周囲には、10以上の道がついていた。道は複雑に折り曲がり、つながっていて…… まるで網の目のようにも見える。


「迷宮……?」


 サエリがつぶやき、ミウがうなずいた。


「これまでより、広そうね?」


「C級だから……」


 ぼくはひそかに前世の記憶を探る。

 ―― そうだ。この広大な地下迷宮は、前世では、背信行為をはたらいた地方の小役人を入れるための牢だった。

 囚人が逃げても外には出られないよう、多層構造になっていたはず ――

 ぼくがダンジョンのことを思い出そうとしている間にも、ツルギは調子よく解説を始めていた。


「トンネルだったはずが、なぜだか地下迷宮に……ッ! このロマンを追い求めるのか!? 次回 『道に迷ったのはケーブルでなく俺たちだったッ!? 4年後に白骨死体で発見の危機、迫る!』 デュエルスタンバイっ」


「勝手にぼくたちを道に迷わすなよな」


 そうだ、この迷宮のラスボスは、たしか ――

 ぼくは専用DEW  『革の本』 に、状況の書き取りを始めた。

 ミウも、さっと姿勢を正す。


「じゃ、まずはわたしの歌で浄化する 「あ、ミウ、それは」


 やめたほうがいいかも、とぼくが言おうと思ったときには、ミウはもう、息を深く吸いこんでしまっていた ――


「…………っ」


「ミウ!」 「ミウたんッ!?」 「ミウ……?」


 ぼく、ツルギ、サエリがそれぞれ呼び掛けるなか。

 ミウが、床に崩れるように座りこんだ。その大きな目は、虚空を見つめて止まっている。


 >> めまい?

 >> 悪いこと言わないからケーブルカーで待機

 >> てかセンセー早く!


 コメント欄の数々の発言も、いまのミウの目には入っていないようだ。

 その喉の奥から漏れるのは、いつものソプラノではなく、ささやくようなかすれ声。どうしても声がでないのを、無理やりしぼり出しているみたいだ。


「ママ、パパ…… どうして、ここにいるの?」


 もちろん、ミウのご両親は実際にはこの場にいない。これは、幻覚だ……


「というか、なんで、今ごろ来たの?」


 ミウの口調は、責めているようでも、期待しているようでもある。


「ノースキル科だなんて世間様に恥ずかしくてって、入学式に来てくれなかったくせに。どうして、いまさら……?」


 それ、幻覚だよ ―― ぼくはミウに掛けようとしていたことばを、慌ててのみこんだ。

 そうか…… ミウは平気なふりをしていたけれど、本当はご両親に入学式に来てほしかったんだ。

 ミウの幻想のご両親は、ミウになんと答えたのだろう。

 ミウは 「うん、頑張るから……」 と、涙ぐんでいる。

 ツルギがぼくに、小声できいてきた。


「ねーノブちんっ。これって……?」 


「たぶん、この迷宮。願望を幻覚にして見せるガス…… みたいなトラップが、道のあちこちに、しかけてあるんじゃないかな?」


 本当のところはちょっと違うのだが、微妙にぼかしておく。

 ―― ぼくはキレたらDEW革の本の力で魔王になれる設定ではあるけれど、前世が魔王であったことは言ってないからだ。

 バレてもイタすぎる厨2、って思われるだけだろうしな……

 サエリが、まだ幻想の両親と話しているミウを、じっと見つめる。


「じゃあ…… ミウは……」


「そっか……ッ、ミウたん……ッ」


 ツルギがちょっと、涙ぐんだ。


「俺は両親いないけど、いたら、きっとッ…… 式に来てほしいとか、思うんだろうね……ッ」


 ツルギは両親いないのか…… 初耳だが、そこツッコんでいいものか。

 いや、スルーするとそれはそれで 『なんでこんな重大ごと、スルーするの!?』 みたいになりそう……

 ぼくが迷ってるあいだに。

 サエリは、あっさりとツルギにきいてしまっていた。


「ご両親…… どうしたの……?」


「母親はッ、俺が産まれたときに死んでッ、それで心折れた父親はッ、俺を施設に預けたのッ!」


 うわっ、これまた反応に困る重たい事情きた……!

 なんでそんな事情をあっさり言っちゃうんだよツルギ!?

 ところが、またしてもサエリはあっさりうなずく。


「そう…… サエリの親は…… ふたりとも、仕事だし、遠方だしで…… 入学式、こなかった……」


「へえッ!? 意外と、世間一般の親もッ、そんなもんなんだねッ!」


「うん…… もう高校生だし……」


「そっか、そっかッ」


 うなずきあう、ツルギとサエリ ―― って、遠方で仕事持ちの母親が入学式に普通に来てくれたぼくは、どんな顔してこの話題に付き合えばいいんだ!?

 いたたまれないよ……!


「とっ、とりあえず! ぼくたちも幻覚ガス吸っちゃわないようにマスク…… なんて、用意してないよね……」


「いまは…… 前なら、いつも持ってたけど……」


 サエリが首を横に振ると、ツルギが 「あーッ、コロナのときかッ」 と頭を抱えた。


「さすがに昔過ぎッ…… ん? まてよ? もう1回なにか召喚したら、よくねッ!?」


 ツルギが召喚用ペンダブ専用DEWを持ちなおし、画面に再びペンを走らせ始める。


「ちょっと待て、ツルギ。感動エネルギーの貯金、さっきのライトニングフェアリーで……」


 ぼくは画面の左端に目をやった。


「あれ。感動エネルギーゲージ、めちゃ増えてる……」


 >> ミウたん!

 >> ミウたん……!(号泣)

 >> 親に来てほしかったんだな、入学式

 >> これからはミウたん、わいが親の代わりに見守ったる!

 >> わいも!

 >> (*’ω’ノノ゙☆パチパチ


 >> 300いいね 達成しました


 >> いやキモいわ、おまえら

 >> ミウたんを親代わりに見守り隊!結成!

 >> わい会員1号!

 >> わいが1号や!

 >> ( ゚∀゚)つ会費 ☆500エネ注入しました☆

 >> あっ……

 >> 1号はわいやw

 >> ☆1000エネ注入しました☆

 >> 1号はわい!

 >> イタすぎる争いw

 >> ( っ・ω・)っ入学祝い ☆2000エネ注入しました☆

 >> 負けるなよガキども…… ☆500エネ注入しました☆

 >> 親なんて、大したことねーからな! ☆1000エネ注入しました☆


 ―― コメント欄が、すごいことになってる……!


 ぼくは慌てて、画面に向かって頭を下げた。


「えーと、みなさん、たくさんの会費? や入学祝いを、どうもありがとうございます! う、嬉しいです」


 >> どいたま!

 >> どいたま!

 >> ノブちん、気遣いさんだなw

 >> どいたま!

 >> 厨2魔王も頑張れよw


「ありがとうございます!」


 ぼくはもう一度、深々と頭を下げた。

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