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第19話 地下ダンジョン、徹底制覇(5)

「わぁぁぁあッ! ぎゃはははははッ!」


 叫びながらツルギが笑う。


「うっわぁぁぁぁぁああああああっ!」


 気づいたらぼくも、思い切り大声をあげている。

 インフェルノ・プリドラの炎で無理やりあけたこの穴、いったい、マンションでいうと何階ぶんの高さになってるんだろう ―― 落ちてる途中の気分は、鬼畜なジェットコースターに乗ったときのアレだ。

 めちゃくちゃ高いところからいっきに落とされるときにかかるG重力で耳のなかに真空ができる…… 同時に、心臓がぎゅうっと締めつけられて底から冷えていくような、感覚。

 それを何十秒間か味わっていたとき。


 ―― きゃぁぁぁぁぁぁぁぁあ……!

 はるか上から、ミウが最高音を奏でるのが聞こえてきた。その悲鳴に半分かきけされた、サエリの 「すごい…… 連続ブリゼ…… しほうだい……」 という声も。

 ふたりとも、ぼくたちのあとに穴にダイブしたんだな。


 >> サエリたん、すごい落ち着きっぷり

 >> てか踊ってる!?

 >> 空中バレエ!

 >> 回った! サエリたんが回った!


 >> 2500いいね 達成しました


 >> 連続32回転……

 >> 天才だったか

 >> いやスキル持ちならもっと速く回れてるって

 >> うっせーわ

 >> サエリたんをディスるな

 >> スキル持ちが好きなら観んなよ


 このスピードでも奇跡的に飛んでいったりしてないモノクルでコメント欄を眺めていたら、落下の恐怖から逃れられる ―― そう気づいた直後。


 ぼすっ ぼすっ


 ぼくとツルギは仲良く、最下層(?)の床に着地した。床はやや湿っていて、ふかふかというよりぼそぼそ…… まぎれもなく、キノコだ。


「あッ、ノブちん、あぶないッ」


 ツルギがぼくを突き飛ばし、まわりの繊維がぶちぶちっとちぎれた。

 そこに、ミウとサエリが落ちてくる ――


 >> ツルギ、ナイス

 >> ぶつかったら確実にタヒんでたな、ノブちん

 >> そっ(´,,•ω•,,)_||””お線香

 >> ↑やめれw

 >> ノブちんはともかく、ミウたんサエリたんにケガがなくてよかた

 >> 禿同


 いや、まあ、それはそうだけど ――


 ぼくは改めて部屋を見回した。ミウ、サエリ、ツルギの3人も、頭を巡らせて周囲を確認している。

 どこからも光が差していないのに、ほのかに明るい空間…… よく見れば、壁や床を織りなす繊維 ―― 菌糸のひとつひとつが、ぼんやり光っているのだ。


「なにもないわね」 と、ミウが首をかしげる。


「残念ッ! ボス部屋、ハズレかッ!」 と、ツルギ。


「いや、そうとも限らないんじゃないかな…… ほら」


 ぼくは足元を指差した。つられて足元を見たツルギとミウの表情が固まり、サエリがつぶやく。


「きんし……?」 


「うん。落っこちたとたん、ナチュラルに捕食…… というか、繁殖かな? されかけてるね、ぼくたち」


「ちょっと、いやよ! なにそれ!」


 ミウがあわてて膝を曲げ、足を覆いかけていた菌糸を払う。


「あ、それしないほうが 「なんで……っ げほげほげほげほっ」


「菌糸が体内に侵入したら、大変だから……」


 ぼくは、涙目になって咳き込むミウの背中を、とんとん軽く叩いてあげた。

 菌糸の大部分はいまの咳で体外に排出されたはずだが、念のために革の本専用DEWにも書き込んでおこう。


『―― 幸い、ミウの体内には菌糸は入らなかった。

 それにしても、このままでは動くだけでも危険だ…… かといって、じっとしているとキノコに取り込まれてしまうだけ。

 どうしよう?

 ―― そのとき、抜け穴から、かすかに羽ばたきの音が聞こえた。

 ツルギの召喚獣たち ―― ライトニングフェアリーやフェアリー・クリーンエア、それにインフェルノ・プリドラが、抜け穴を通って、ぼくたちに追いつこうとしてくれてるみたいだ。

 なるべく早く、来てくれると助かる……!

 羽ばたきの音は、どんどん大きくなってきた……  もうすぐだ…… クリーンエアが、真っ先にとびだした!』


「みんな、口と鼻! 覆って!」


 ぼくが注意した、数瞬後 ――

 フェアリー・クリーンエアの出現で巻き起こった旋風に、ぼくたちの身体は簡単に吹き飛ばされていた。 『静音・微風』 モード、いつのまにかオフになっているな……


 続いてとびだしてきたインフェルノ・プリドラが、すさまじい勢いで床に炎を吐いてまわる ―― 

 青みがかった火が部屋いちめんに広がる。床と壁を覆いつくしていた菌糸が、炎に抵抗するようによじれながら縮み、黒く焦げていく……

 次々と舞い上がる灰はことごとく、フェアリー・クリーンエアの大きく開いた口に吸い込まれる。

 その翼から送られる大量のきれいな空気がぼくたちの身体を持ち上げ、部屋を渦巻く地獄のような熱気からぼくたちを守ってくれるんだ ――


「ありがたいけど、ぼくが革の本専用DEWに書いたより、ものすごく乱暴だよね!?」


「まッ、細かいことは気にすんなッ! 俺たちが無事なら、上出来じゃねッ!? あーあと、クリーンエア! 俺らが程度でよろしくッ」


 ツルギの指示で、クリーンエアの風がほんの少しだけおさまった。

 ぼくたちの足元にだけ強い風を吹かせて、身体が浮くように調整してくれてる ――

 何度も言うけど、ツルギってほんと、強いよな。


「でも…… ほんとうに、上出来……」


 サエリがめずらしく口を挟んで、ほめたとおり。

 炎がすっかり消えたあと ――

 になった床は、ライトニングフェアリーの放つ光のなか、ルビーのような深い赤に輝いていた。

 コメント欄が 『きれい』 と 『キモい』 で真っ二つに別れている。 『きれい』 は色のほう。

 で、『キモい』 はこれだろう。


 どくん…… どくん…… どくん……


 床は、ゆっくりと脈打っていたのだ。


「なんなのよ、これ!?」


 ミウが気持ち悪そうに、つまさきで床をつつく…… とたんに、ミウの靴が触れた部分から、無数の菌糸が噴水のように伸びてきた。


「きゃっ!」


 ミウがとびのいたあとをすかさず、インフェルノ・プリドラの炎がきれいに焼き払う。まだ熱気の残る空気を、今度はフェアリー・クリーンエアがガッツリと吸い込む。

 ―― これ、ボス戦には有利そうだな……


 ぼくは 『いかにも状況から推察した』 ふうを装って、口を開いた。前世の知識として知ってるとか、言えるわけがないもんね。


「たぶん、このダンジョンのボスは、このダンジョン自体、ってことじゃないかな」


 >> なぬ!?

 >> ボス、巨大キノコ!?

 >> 言われてみれば

 >> ありよりのありでは、ある


 ツルギが、床に直接触れないよう気をつけつつ足先で下を示す。


「てことはッ、このッ、コイツがラスボスの核ってことでッ! あってるッ!?」


「うん。たぶん、そのはずだから…… これ壊せば、ダンジョン掃討、完了だろ」


「よしッ、壊そうッ!」


「いやいやいや、ちょっと待ってね、ツルギ!?」


「そうよ! 相手はさわると、菌糸出してくるのよ!?」


 ミウは、つまさきをドレスのすそでゴシゴシふいている。さっきの菌糸、よほど気持ち悪かったんだろう。

 それはともかく ――

 漫然まんぜんと攻撃して核を壊せるほど、C級ダンジョンのボス戦は甘くないはずだ。

 ぼくたちは輪になって、対策を練ることにした。


「―― ツルギの召喚モンスターのおかげで、菌糸や胞子は大丈夫そうだけど、火傷の危険があるよな」


「あと…… この核…… 燃えないね……」


「それッ! 燃えたら、簡単だったのにねッ!」


 ツルギが悔しそうに顔をしかめた。


「けど、サエリのビームは使えるんじゃないかしら」 と、ミウ。


「うん、だよね…… あとは、ミウの超音波攻撃」


「そんな攻撃、ないわよ!」


「えーと…… なんか、そういう系のない?」


「…… やってみるわ」


 >> あとはノブちんが魔王覚醒するだけw

 >> 魔王覚醒みたい

 >> ワイも

 >> みんなでディスるかw

 >> 無能無能無能無能無能……


 コメント欄のみなさんには悪いけど、その程度じゃムリな予感しかしない。


「おまえのかーちゃんでべそ」


「ツルギ、悪いけどそのネタ、初回から飽きてるんだ」


「えッ、俺ッ! ノブちんからそんな目で、見られてたのッ!?」


 相談の結果。

 ボス戦 (核破壊) のアタッカーはサエリとミウになった。ぼくは革の本専用DEWでサポートにまわり、ツルギは新たに強力な召喚モンスターを描いて、最後にトドメを刺す ――


「よしッ、じゃまッ、いきぁすかッ!」


 ツルギが右手の甲を差し出し、ミウとサエリとぼくは顔を見合わせた。


「なんなの、これ?」 「…… これが…… 青春……」 「いや恥ずかしいやつだな、ツルギ」


「ええッ、よくねッ、こういうの!? やろーよッ」


「…………」


 サエリの手がそっと、ツルギの手の上に置かれた。

 ぼくとミウは再び、目を合わせる。

 ―― どうする?


 >> いーからやっとけ!

 >> ええなあ、青春……

 >> とっととやれよww


 まあ、これでウケるなら、これくらいは……

 ぼくは覚悟を決め、なるべく触れる面積が小さくなるように気をつけながら、サエリの手の上に自分の手を重ねた。異性のキレイな手をベタッと触るのには、なんか抵抗があるんだ……

 ―― なんならボス戦より、よっぽど緊張する……!


「ほらッ! ミウたんも、早くッ」


「もう! 今回だけよ!?」


 ぼくの手の上に置かれたミウの手は、ちょっと汗ばんでて温かかった。


「「「「ダンジョンボス討伐作戦、スタート!!!!」」」」


 ぼくたちは声をそろえ、戦闘態勢に入る ――


 >> 3000いいね 達成しました!

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