目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

06 高名瀬さんの秘密その7

「高名瀬さん。ゲームはほどほどにした方がいいですよ?」

「大丈夫です。やるべきことはすべてやった上で、ゲームの時間を捻出していますので」


 いや、授業中ゲームやってんでしょ?


「中間試験は、全教科トータル点数で学年三位でした。期末試験でも、全教科すべてトップ5に入ってみせましょう」


 勉強には自信があるらしい高名瀬さん。


「あぁそうか。高名瀬さんは、頭のいいバカなんだね」

「聞き捨てなりませんね!? わたし、賢いですよ!?」

「あぁその返しは、ちょっとあたまわるっぽいな」


 というか、高名瀬さんは負けず嫌いなのだろうか。


「ちゃんと夜とか寝てる?」

「ご心配には及びません。こんな話を知っていますか? 人は、人生の3分の1を睡眠時間に使うらしいです。ですので、年老いて寝たきりになった後、思う存分眠ればペイできます!」

「出来ないと思うな!?」


 あぁそうか、やっぱり高名瀬さんはちょっとバカなんだ。

 人生百年だとして、七十歳から三十年間ほど眠り続けるつもりなのだろうか。


「そんなに面白いの、そのゲーム?」

「面白いかどうかと言われればYESですが、娯楽というよりも生き様であると、わたしは考えます」


 すごく立派そうなことを言っているように聞こえるが、発言内容はバカだこの人。


「僕も昔クリアしたよ、ペアモン」


 まぁ、それなりに楽しめたけれど、何年経ってもドハマりし続けるほどだとは思えない。


「クリアした……と、おっしゃいましたか?」


 ……あ、なんか地雷踏んだっぽい。


「何をもってクリアとするのか。それは決して個人が決められるものではないのです」

「いや、エンディングを見たらクリアでしょうよ」

「では、鎧戸君はご存知ですか? 伝説のレアモンを」


 ペアモンというゲームの中には何匹かのレアペアモン=レアモンというキャラがいて、伝説のレアモンと呼ばれる四匹のペアモンはその中でも入手難易度が極めて高い最難関と言われていた。

 伝説のレアモンは四匹ともラストダンジョンで一度だけバトルできるのだが、滅茶苦茶強くて勝つだけでも苦労するというのに、勝利した後仲間に出来るかどうかは運次第。

 一部の噂では255分の1の確率だとすら言われていた。


「もしかして、四匹全部仲間にしたの?」

「当然です」


 当然なんだ。


「しかも、四匹の内、オスメス二匹ずつ仲間にしてペアリングさせています」

「えっ!? 伝説のレアモンってペアリング出来るの!?」


 ただでさえ入手困難な上に、性別は固定だと思っていたからペアリングなんか出来ないものだと決めつけていた。


「ふふふ、そうなんです」


 おぉっと、高名瀬さんが物凄くドヤ顔をさらしている。

 語りたくて仕方がないようだ。


「伝説のレアモンを255分の1の確率で仲間に出来るということはもはや周知の事実ですが――」


 噂程度に聞いていただけですけどね、こっちは。


「さらに65535分の1の確率でメスが仲間になるんです!」

「えっ?」

「驚きましたね!? 驚きますよね! 分かります! わたしも当初は伝説のレアモンはすべてオスだと思っていました。ですが、仲間にした時のステータスに若干の差異があることに気付いて、最高ステータスの伝説のレアモンを仲間にしようと何百、何千回やり直してしていたところ、なんとメスのレアモンが現れたんです! メスが出てきたということは、これ、ペアリングが出来るということですよね!? ペアリングは、ペアモン同士の格が違い過ぎると発生しません。だから、誰もが伝説のレアモンはペリング出来ないと考えていました。ですが、伝説のレアモンのメスが存在するのであれば、伝説のレアモンをペアリングして、伝説を超える超レアモンを仲間にすることが可能なのです!」


 熱い!

 高名瀬さんが熱い!


 物凄いゲーマーなんだな、高名瀬さん。

 こんなに熱中出来るなんて。


 でも、僕が驚いたのはそんなことじゃなくて。


「僕、昔一回普通にプレイした時に、伝説のレアモンを二匹仲間にしたんだけど、どっちもメスだったから、伝説のレアモンにはメスしかいないのかと思ってた」


 そっか、基本はオスなのか。

 で、メスってそんな厳しい確率でなきゃ出ないんだ。へぇ~。


「……初プレイで伝説のレアモンを二匹、ですか?」

「そうそう。ドラゴンタイプのヤツと、天使タイプのヤツ」

「伝説のレアモンのトップ2じゃないですか!? しかも、両方メスだったんですか?」

「うん。だから、そういう設定なんだと思ってた」


 夏休みにアニメ映画をやってたけど、映画館に見に行くほどのファンじゃなかったから、キャラの設定までは知らなかった。

 なので、あの伝説のレアモンはずっとメスなんだと思っていたけど、どうやら違うっぽいな。


「…………」


 少々レトロなゲーム機を握りしめて、高名瀬さんは僕を見つめ、たっぷりと数分間沈黙してしまった。


 見つめ、というか、睨み?

 めっちゃ見られてる。

 視線逸らして……もう一回見てみても、うわっ、まだ見てる。


「……まぁ、わたしは伝説のレアモンオールメスを達成しましたけどね」


 なんだろう!?

 え、どーゆー負け惜しみ!?

 全部メスじゃペアリング出来なくて、超レアモン登場しないじゃん!?


 そして、ちょっと不機嫌になってますよね、高名瀬さん!?

 あなたの言うクリアってどこなんですか!?

 もう卒業しましょう、そのゲーム!

 この程度で不機嫌になるくらいなら!


「ちなみに、超レアモン、あと一匹メスを引き当てればオールコンプリートです」


 それまでやめそうにないな、これは。


 高名瀬さんって……




【高名瀬さんの秘密その7】


 高名瀬さんは、超負けず嫌い。







この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?