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14 優等生

 授業中、こっそりと高名瀬さんの行動を観察してみた。


 顔はまっすぐ黒板を見つめ、開かれた教科書とノートが並んだ机の上は整頓されており、休みなく板書を書き写している。


 ――の、だが。

 左手は机の引き出しの中に突っ込まれており、引き出しの中を覗き込んでみれば、怪しい布製の巾着が。

 その巾着の中に手を突っ込んで、何やらもぞもぞ動かしている。


 ……高名瀬さんまさか、ブラインドタッチでゲームやってる!?

 えっ、出来るもんなの、それって!?

 どんだけやり込んでるの!?

 そのゲームのことプログラムレベルで理解してなきゃ無理じゃない!?

 そもそも、楽しいの、そのプレイスタイル!?


 ……っていうか、あれ?

 なんか、巾着からコードが一本伸びて………………高名瀬さんのブラウスの中に入り込んでるぞ!?


 おいおい、嘘だろ……


 高名瀬さん、自分のコンセントで充電しながらゲームしてないか、今!?

 あの人、自分の身体の秘密隠すつもりないのかな!?


 っていうか、あのゲームのACアダプターって、結構大きいサイズだったよね!?


 身を乗り出して胸元を確認してみる。


 ぐぐっと…………もうちょい………………


 ……身を乗り出して、クラスメイトの横乳ガン見している僕って、不審者?

 うわ、ちょっとヘコむわぁ……


 とりあえず、斜め後ろから確認した範囲では、一切胸元に違和感はなかった。



 ……隠せるんだ、あのデカいACアダプター。

 驚きの収納力だな、あの谷間。

 ACアダプター隠し切れるのかぁ。


「鎧戸さん! 何をごそごそしてるんですか!?」


 あ、やべっ。

 教師に指摘されてしまった。


「高名瀬さんがどうかしましたか?」


 おぉう、しかも高名瀬さんを見ていたのがバレちった。

 マジで視線ってバレるんだな。


「いや、あの……」


 高名瀬さんの秘密は話せないし、もういっそのこと「こいつ、おっぱいでっけぇ!」って思って見てましたと言ってしまうか。


「あの」


 僕が、このクラス内での社会的な死を覚悟して口を開こうとした時、高名瀬さんが挙手をして立ち上がった。


 引き出しの中の巾着を手に持って。


 ……まさか、自分からバラす気なのか?

 僕をかばうために!?


 やめるんだ高名瀬さん!

 そんなことしなくてもいい!


「たぶん、わたしがごそごそしていたのが気になったんだと思います」

「ごそごそ……何をしていたんですか?」


 この女性教師は少々神経質なところがあり、指摘する時はビシッとしてくる怖い先生なのだが……高名瀬さん、どうするつもりだ?


「これを」

「その巾着はなんですか?」

「手作り湯たんぽです」


 湯たんぽ?

 いやいや、ゲーム隠しですよね?


「中に使い捨てカイロが入っています。わたし、極度の冷え性で指先が痛くなってしまうので」


 と、巾着の中から使い捨てカイロを取り出してみせる。

 ……巾着の中で息を潜めるゲーム機など、存在しないかのような表情で。


「そうですか。分かりました」

「紛らわしいことをしてしまって申し訳ありません」

「もう結構です。座りなさい」

「はい」


 教師に言われ着席する高名瀬さん。

 使い捨てカイロを巾着に入れ、巾着を引き出しの中へしまい込むと、ブラウスの隙間からコードを引っ張り出して素早く巾着の中へ収納、そしておそらくゲーム機本体に接続した。したよね、今、絶対!?


「あまり他人のことをジロジロ観察しないようになさいね、鎧戸さん」

「……申し訳ないです」


 叱られ、ペコリと頭を下げる。


 顔を上げると、高名瀬さんがこちらを振り返っていて――


「だから言ったじゃないですか」


 ――と、口パクで訴えてきて、ほっぺたを膨らませた。


 この人が被っている優等生の仮面、分厚いなぁ。

 改めて、高名瀬さんという女子生徒のすごさを実感してしまった。


 高名瀬さん、物凄く――こすい。







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