授業中、こっそりと高名瀬さんの行動を観察してみた。
顔はまっすぐ黒板を見つめ、開かれた教科書とノートが並んだ机の上は整頓されており、休みなく板書を書き写している。
――の、だが。
左手は机の引き出しの中に突っ込まれており、引き出しの中を覗き込んでみれば、怪しい布製の巾着が。
その巾着の中に手を突っ込んで、何やらもぞもぞ動かしている。
……高名瀬さんまさか、ブラインドタッチでゲームやってる!?
えっ、出来るもんなの、それって!?
どんだけやり込んでるの!?
そのゲームのことプログラムレベルで理解してなきゃ無理じゃない!?
そもそも、楽しいの、そのプレイスタイル!?
……っていうか、あれ?
なんか、巾着からコードが一本伸びて………………高名瀬さんのブラウスの中に入り込んでるぞ!?
おいおい、嘘だろ……
高名瀬さん、自分のコンセントで充電しながらゲームしてないか、今!?
あの人、自分の身体の秘密隠すつもりないのかな!?
っていうか、あのゲームのACアダプターって、結構大きいサイズだったよね!?
身を乗り出して胸元を確認してみる。
ぐぐっと…………もうちょい………………
……身を乗り出して、クラスメイトの横乳ガン見している僕って、不審者?
うわ、ちょっとヘコむわぁ……
とりあえず、斜め後ろから確認した範囲では、一切胸元に違和感はなかった。
……隠せるんだ、あのデカいACアダプター。
驚きの収納力だな、あの谷間。
ACアダプター隠し切れるのかぁ。
「鎧戸さん! 何をごそごそしてるんですか!?」
あ、やべっ。
教師に指摘されてしまった。
「高名瀬さんがどうかしましたか?」
おぉう、しかも高名瀬さんを見ていたのがバレちった。
マジで視線ってバレるんだな。
「いや、あの……」
高名瀬さんの秘密は話せないし、もういっそのこと「こいつ、おっぱいでっけぇ!」って思って見てましたと言ってしまうか。
「あの」
僕が、このクラス内での社会的な死を覚悟して口を開こうとした時、高名瀬さんが挙手をして立ち上がった。
引き出しの中の巾着を手に持って。
……まさか、自分からバラす気なのか?
僕をかばうために!?
やめるんだ高名瀬さん!
そんなことしなくてもいい!
「たぶん、わたしがごそごそしていたのが気になったんだと思います」
「ごそごそ……何をしていたんですか?」
この女性教師は少々神経質なところがあり、指摘する時はビシッとしてくる怖い先生なのだが……高名瀬さん、どうするつもりだ?
「これを」
「その巾着はなんですか?」
「手作り湯たんぽです」
湯たんぽ?
いやいや、ゲーム隠しですよね?
「中に使い捨てカイロが入っています。わたし、極度の冷え性で指先が痛くなってしまうので」
と、巾着の中から使い捨てカイロを取り出してみせる。
……巾着の中で息を潜めるゲーム機など、存在しないかのような表情で。
「そうですか。分かりました」
「紛らわしいことをしてしまって申し訳ありません」
「もう結構です。座りなさい」
「はい」
教師に言われ着席する高名瀬さん。
使い捨てカイロを巾着に入れ、巾着を引き出しの中へしまい込むと、ブラウスの隙間からコードを引っ張り出して素早く巾着の中へ収納、そしておそらくゲーム機本体に接続した。したよね、今、絶対!?
「あまり他人のことをジロジロ観察しないようになさいね、鎧戸さん」
「……申し訳ないです」
叱られ、ペコリと頭を下げる。
顔を上げると、高名瀬さんがこちらを振り返っていて――
「だから言ったじゃないですか」
――と、口パクで訴えてきて、ほっぺたを膨らませた。
この人が被っている優等生の仮面、分厚いなぁ。
改めて、高名瀬さんという女子生徒のすごさを実感してしまった。
高名瀬さん、物凄く――