想いは、日に日に強くなり、もう手に負えないほど
今夜の夕飯はカレーだ。ただし、衛人には特別、気取ったものは作れない。もちろん、普段から自炊はしているが、得意料理と呼べるほどのものはないし、カレーだって、ルウの箱の裏側を読みながら、その通りにしか作ったことはない。大きめの鍋に、肉と野菜を炒めて、煮込んで、ルウを溶かしただけのものだ。
千里は辛いものが苦手だというので、ルウは甘口を買った。カレーの味は、なんともパンチのないもので、遠い昔――幼い頃に食べたような、懐かしい味のカレーができあがったが、千里はそれを大喜びであっという間にたいらげてくれた。
食事のあとは、胃袋が落ち着いてくるのを待ってから、順番に風呂へ入る。もうこの家で、千里と過ごすようになって、六日。この家にいると、夕飯のあと、途方もなく長く続く夜を持て
そして、夜が長いと、人間は必ず余計なことを考える。ついでのように欲望も強まった。もしかすると、
「俺は千里に化かされてるのか……。それとも――……」
本気で、千里を愛してしまったのだろうか。どちらか判別できず、衛人は重いため息を
千里がフツウの人間なら、もう想いを伝えてしまっていたかもしれない。それほどには惚れている。だが、この好意を気付かれたら最後、千里は衛人のもとを去ってしまうだろう。居場所を失い、新しい居場所を見つけるために、人を
いやだ……。離したくない……。そばにいてほしい……。千里に、そばにいてほしい……。
こんなにも強い執着と独占欲を感じたことなどない。呼吸ができているのが不思議なほどに、胸が苦しくなる。まだ出会って数日ほどの男に、どうしてこんなに入れ込んでしまっているのか。しかも、相手はただの人間ではなく、半妖なのだ。
人をたぶらかし、
あぁ……。ここ三日、ほとんど千里に触ってない……。触りたいな……。
二日目の夜、千里を助けるときに
強い欲望を
今、居間は明かりが消え、暗闇に包まれている。夕方、閉めたはずの雨戸は少しだけ開き、そこに千里のシルエットが見える。彼は縁側に腰掛けて、外を眺めていた。
「千里……?」
「あ、衛人さん」
衛人がやってきたことに気付くと、千里のシルエットが暗がりの中で、手招きをする。衛人は
「蛍……」
「はい。夕べまでは飛んでいなかったのに、今夜はすごくにぎやかだったので……。蚊が入るかな、と思ったんですが、つい開けてしまいました」
「いいよ、大丈夫。綺麗だな、蛍」
闇夜に無数の蛍が飛び交うのを眺めながら、衛人は頬を
なんだか……、すごく心地がいいな……。
この調子なら、千里に好意を気付かれないまま、そばにいられるかもしれない。それも悪くないだろう。このまま一生片想いだとしても、千里がここにいてくれるなら、そのほうがいい。だが、ちょうどそう思った時だった――。
「衛人さん……」
不意に。愛おしい声に名を呼ばれ、重みに寄り掛かられて、ドクン――と心臓が
「千里……? どうし――」
「衛人さん……。僕ね、ここに来て本当によかったです……」
「え……」
「衛人さんに会えてよかったです」
今、穏やかになったばかりの欲望が、再び急激に
衛人を魅了する千里の
千里が、この家からいなくなる――。
「なーに言ってんだよ、急に――」
衛人は慌てて立ち上がり、千里から離れた。触れ合ったのは、たった数秒だった。だが、そのたった数秒でも、千里が衛人の感情を知るには十分だったかもしれない。それほど今、衛人は千里への愛おしさを
「衛人さん……」
「もう寝ようか。雨戸閉めるぞ」
「だめです、待って――」
雨戸を閉めようとした手を取られて、また慌ててその手を振り払い、千里と距離を取る。千里は悲しげに一度、目を