「さ、上がって」
「お邪魔します」
流石に家に帰る訳には行かないので、
幸いお金はあるので、今日はともかく明日からはネカフェにでも泊まろうかなと思っている。
服はコインランドリーで洗えばいいし、荷物は最低限に纏めてバイト先のロッカーにでもしまえばいいからな。
そんな事を考えながら、幼馴染である希の家に上がり、リビングへと案内される。
「おかえりー、ってちょっ、
リビングでゆっくりしていたのは、久しく会っていなかった希のお母さんである、母娘揃って美人だね。
恐らく俺の顔面の惨状を見て驚いているのだろう。
傷だらけだからであって、決して醜悪な顔ではないと信じている。まぁそこに触れるような人ではないだろうけど。
「まぁなんとか。お久しぶりです、
まったくなんともなっていないし、正直大丈夫ではまったくないが、心配かけたくないので、そういう事にしておく。
変に心配掛けたくないのだ。
「久しぶりね。あぁ、こんなに傷だらけになって。かっこいいお顔が台無しじゃない」
「ちょっとお母さん、変な事言わないで」
「悪かったな変な顔で」
「ちょっ、別にそう言う事じゃないよ!」
久しぶりに希の家に上がらせてもらった事もあり、希も少しテンションが上がっている様子だ。もう小学生以来になるかな。
俺も少しだけテンションが上がったが、取り敢えず結希さんにも事情を説明した。
自分では手に負えない事で困った時は、大人に頼るべきだ。俺はまだ子供だからね。
親身になって事情を聞いた結希さんは、涙を浮かべてそっと抱き締めてくれる。母娘揃って同じことしますねと思いつつ、気恥ずかしくもある。
「そういう事なら、問題が解決するまでここに居ていいのよ?なんならずっと居てもいいし」
「それは願ってもないことです、ありがとうございます」
ありがたい提案に、素直に頭を下げておく。正直言って渡りに船だ。いくらバイトしていて貯金があるとはいえ、ずっとネカフェ暮らしとなるとお金が尽きることだってありうる。そうなれば野宿になってしまう。
できたらそれは避けたかったので、図々しいとは思いつつ甘えさせてもらう事にした。
「もう、そんなに
「あーっと…」
「ほらほらお母さん、晴政が困ってる」
久しぶりに会ったこともあって、結希さんがすごくグイグイくるので困ってしまう。撫でたり抱き締めたりとすごい。
とにかく距離が近いです奥さん!旦那さんがいるので自重して欲しい所である。不倫疑惑は勘弁してつかぁさい。
めっちゃ美人やしこっちだって勘違いしてまうで。やわっこいしたまんねぇ。
俺の荷物だが、明日改めて持ってくることにした。明日は学校を休むので、バイトに行く前に荷物を持ってきたいところだ。
ちなみに希は問題解決する為になにかしらの証言を集めるらしい。スクールカーストトップの人間なので、人を動かすのは容易だろう。
一晩明けて次の日、平日なので両親ともに外出しており家は留守であった為、早々に荷物を
さて、あっちはどんな感じだろうか。
──────────
私はあのクソ女が晴政をハメた証拠を集めるため、友人に頼んでそいつらの集まりに潜入してもらい、証言を集めてもらうことにした。
その子も
どうやら相当言いたい放題言っていたらしくかなり
聞きたい内容もしっかり録音もしてくれたみたいなので、その内容を確かめてみたが、中々に胸糞悪いものだった。
『実際どうなの?あれって』
『あれ?』
裏木の友人と思しき女の問いかけに、裏木が疑問符をつけて返す。
『ほら、
『あー、あんなの嘘に決まってんじゃん』
ヘラヘラとした言葉に、裏木は一切悪びれることなく、笑いながら返した。本当に信じられない。
『えーマジー?だとしたらあんたカレのこと嫌いすぎでしょー』
『そんな事ないよー?好きな方ではあるし』
『そんなこと言って、カレ酷い顔してなかった?』
『そーだねー。いやーパパにボコボコにされててさー、マジヤバかった』
コイツらはいったいどうして、こうもヘラヘラしていられるのだろうか?聞けば聞くほどイライラしてくる。音声だけだというのに、醜悪な顔をしているのが想像できてしまう。
『あー、パパってあれ?いくらでやってんの?』
『ゴムありで五万とかくれるよ、金持ってるしー』
『えー!ちょっとあたしにも紹介してよー!』
『いいけどー、また今度ねー?』
話を聞く感じ、裏木がしていたのはパパ活らしい。晴政を捨てて、そっちを取ったってこと?
天秤にかける相手が酷すぎる、本当に信じられない。
『っていうか、なんでバレたの?』
『いやー、ヤリまくってたらハル君帰ってきちゃってさー、それでバレちゃった』
『え?カレの家に連れ込んだの?』
『ううん、彼のお父さんだよ』
その答えに、私は思わず目を剥いた。クソといっても流石に限度があるだろう。つまり晴政は、自分の恋人と父親に裏切られたってことになる。
その心情は私には分からない。ただ辛いという言葉だけでは語れないだろう。察するに余りある。
『そういう事だったんだ、カレかわいそ』
『そうだねー、可哀想だからまたヨリ戻さないとね』
『いや流石に無理でしょ』
『大丈夫大丈夫!ハル君一途だから、私が大好きって言えば喜んで戻って来てくれると思うよ!私も大好きだしー!』
ざっと聞いたところこんなものだった。まだ少々続きはあるが特に気になるものでは無い。
晴政を軽んじ、軽薄な好きという言葉を吐いてヘラヘラとするその態度にとても腹が立つ。
しかし、頭の緩いこの
自分の認識の甘さのせいで痛い目に逢うのは間違いないだろう。
私は口角が上がるのを抑えられなかった。