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二話 案外孤立しないもんだね

 ゴミのような視線という挨拶を受けて今日も元気げんき溌剌はつらつ、学校へ向かおう!

 ジリジリとした暑い日差しの道を歩いて学校に到着した。案の定教室に入れば、嫌な視線の嵐。

 ゴミを見る目で見られたい人向けですね、残念だが俺にはそんな趣味はないので大損である。


 そしてやはりというか奴はそこにいて のうのうと被害者ヅラしてやがった。元カノの裏木うらき 莉乃りのだ。

 まぁアイツはそこそこ可愛いからな、ここで好感度を稼いで自分の彼女にしようなんて輩もいるだろうし、単純に仲がいいなんて奴もいる。


「おいおい、DV男がきたぞー!」


 クラスのチャラ男がそんなことを叫ぶ、お前こないだ俺に因縁つけてきたヤツやないか、なにやってんだ。

 周りのヤツらもそれに反応してヒソヒソと何か話してやがる。まじふざけんな。

 だかま、そんな時に悪意なく近付いてくるやつもいる。彼は仲間かもしれない男、篠恵しのえ 良月いづきだ。


「おはよ…ってうわ、すごいことになってるね、大丈夫?」


 恐らく俺の顔を見たのだろう、昨日父に殴られたことでとてもみにくいい事になっているはずだ。

 良月の問いに答えるために、俺は自分の顔を指差して言った。


「もしこれを見て大丈夫だと思うのなら、よっぽどの節穴だと思うぞ」


「それなら僕の目は節穴じゃなさそうだね、どう見ても大丈夫には見えないもの…それはそうと、色々と言われてるみたいだけど、そっちはどうなの?」


 良月のことは信じていいと思うが、果たしてどうなのだろうか。まぁ俺は正直にあったことを話すだけなんですけどね。


「あぁ、なんか俺がDVしてたとかなんとか大嘘こかれてな」


「だろうね。君がそんなことするわけないからおかしいと思ったよ」


 この感じだと、こいつは仲間と思っても良さそうだ。

 まぁ入学する前に知り合ってここまでやって来たから、そういうもんかもしれんけど?

 いうてまだ一年と数ヶ月しかたってないが、それだけ良い関係が築けている証拠でもある。


晴政はるまさ!」


 良月と話していると、見覚えのある美少女が俺の名前を呼んだ。

 ここ暫く関わりのなかった、幼馴染の観納みのう のぞみである。

 あー、絶対色々言われる奴ですねクォレハ…、嫌なイメージが頭をぎるが無視するわけにもいかない。


「あぁ、希。おはよう…」


「おはよう…って大丈夫!?すごい怪我…」


 振り向いた俺の顔を見た希は口元に手を添えて、俺の頬を指先でなぞる。

 随分と心配してくれるな、予想外だ。


「こいつにも言ったが、これを見て大丈夫だと思うならその目は節穴だと思うっす」


 良月を指差しながらおどけたように言ってみる。

 希は正直あんまり信用出来ない。最近ロクに関わってないしねー。

 なによりクラスでも俺の事色々と言ってたっぽいしな、いやまぁ内容はちょくちょくとしか聞き取れなかったけど……名前は度々出てた。

 そもそも度々聞こえる内容が内容だけに、今も悪く言われてるんじゃないかって戦々恐々としてるよ。


「そうだよね…あぁもう、今日は学校休んで病院行こ?私も付き添うから」


「は?」


 なんかとんでもない事言い出した、こんな状況ではあるが学校を休む訳にはいかない……





「大丈夫?歩ける?」


「流石にそこまで酷くねぇやい」


 とかなんとか言いつつ結局休みました。良月からも今日は一旦帰れ言われてですね……

 確かに顔面も口の中も傷だらけで、左腕は真っ青だし、引き摺り回されたせいで右脚も捻挫ねんざしているが、病院行くほどではない。

 中学の頃に色々あってこれくらいは慣れっこ…と思ったけどここまでではなかった気もする、今回は一方的だったからなぁ。


 取り敢えず学校の通り道にある公園のベンチに、ジュース片手でやって来ました。

 二人仲良く座っておしゃべりだね。


「それで、なんであんな事になってんの?」


「あんな事、とは?」


 雑談おしゃべりって雰囲気じゃねぇわ、どっちかってぇと取り調べである。俺は犯罪なんてしてはいないが、嘘であれDVした男の言う事なぞ信じるだろうかと思う。

 でも、もしそうであれば二人きりで話そうとは思うまい。


「晴政は本当にDVなんかしたのかって、その傷と関係あるんじゃないの?」


「おぉ中々鋭いな…確かに関係あるよ。ちなみにDVなんて一切してねぇよ、円満なカップルだったと思い込んでたくらいには仲良しだった」


 取り敢えず昨日あった出来事を話した。みるみると希の顔が怒りに染まっていく。


「…とまぁそんなとこ。多分前々からあいつらデキてたんじゃねぇかなって思うよ」


「何それ、酷すぎる…」


 希は怒りながらも俺の事を心配してくれ、そっと抱き締めてきた。

 思い返すとココ最近、アイツとハグなんてしてなかったな……とっくに俺の事なんて好きではなかったのだろう。

 その割には俺の家に来ていたから、つまりクソ親父とはラブラブってか?腹立たしい。


「ごめんね、私がもっと正直ならこんな事にはならなかったのに…」


「っていうと?」


 白々しくとぼけてみる。今の言葉を聞くまではただの幼馴染以下だと思っていたが、もしかしてコイツは……


「私が素直に晴政を好きだって言えばよかったなって、私が彼女になれば絶対そんな事にならないから…」


 懺悔ざんげでもするかのように暗い雰囲気で告げる言葉は、酷く心に突き刺さる。

 ふと、昨日から希薄きはくになりつつあった感情を感じた。


 それは驚きとか喜びじゃない、怒りである。


 だってこっちからすれば今更何言っちゃってんのって感じですよ。

 あんだけみんなの前で、俺の事を興味ないとか異性として見てないとかそんなこと言ってたのに…ってね。

 まぁ照れ隠しのつもりなんだろうけど、今更そんな事言われても鬱陶うっとうしいだけだが、折角せっかくなのでその罪悪感を利用してみることにした。


「なんだよそれ…なんで今更…」


「ごめん…晴政との関係を皆に馬鹿にされたくなくて、誤魔化しちゃってた。そんな事してたらいつの間にかアイツと付き合ってて、ずっと後悔してて…ってそんな事言ってちゃダメだよね、ごめん。それは私の自業自得だもん」


 少しだけ俯いて、ショックをしているふうを装う。出来るだけ彼女から罪悪感を引き出させるように努めた。

 あくまで俺はショックを受けて、落ち込んでいなければならない。実際ムカついているが。


「こっちで色々探ってみるよ、晴政が無実だってこと、皆に証明して見せるから」


「…うん」


「今日はどうするの?このまま家に帰る?」


 しまった!あんな事があった家に帰るのって結構しんどい。

 完全に失念していた、明日はバイトもあるのだから体は休めなければならない。ネカフェにでも泊まろうか。


「あーいや、このまま帰れば何されるか分からないから、ネカフェとかカプセルホテルとか…まぁなんか探すよ」


「ぁ…それだったらさ…その…」


 急にモジモジし始めた…何言うか予想つくので早く言って欲しい、俺から言うの図々しいし。まぁでも恥ずかしいのだろう、相槌あいづちでも打っとくか。


「うん?」


「その、だからさ……家に…………ウチくる?」


「お、おう?」


 首を傾げて言った希に、思わずズッコケてしまいそうになる。

 いやなにその友達を遊びに誘う感じ。ゲームでもやるんか?


「いやえっとそうじゃなくて!いやそうなんだけど!」


「取り敢えず一回落ち着け、何言ってるか分からん」


 そう言うと希は「ごめん」と言い、深呼吸して俺の目を真っ直ぐ見つめて、ハッキリと告げた。


「…私の家に泊まりなよ」



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