「夜橋さん。昨夜は遺体の発見ありがとうございました。それで何か進展はありましたか?」
「…………ないですね。おかえりください」
翌日訪ねてきたお巡りさんに私は嘘をついて追い返した。
……言えるか!
レイミちゃんが幽霊で、ライブで幽霊が成仏して、ついでに人間のファンも昇天していたなんて事実。
昨日から頭がパンクしそうなのに耐えて、私は1つの結論に達した
おそらく集団不審死事件の真相は、レイミちゃんのライブに参加した人間のファン達が、集まった霊達に生気を吸い取られてお亡くなりになっているだけ……本人たちは生レイミちゃんに興奮して生気を吸い取られているなどと夢にも思っていなかったに違いない。
まあ、それを言ったら私がレイミちゃんを除霊する流れになりそうだから絶対に言わない。
推しを除霊するなんて冗談じゃない。
(断固拒否する!)
……でも、成功報酬は欲しい。
さて、どうすれば推しを守りつつ警察から成功報酬を巻き上げることができるのだろうか?
笑顔でお巡りさんを見送り、私は後ろ手に扉を閉めて考え込む。
「……被害者は全員悪霊に殺されたってことにして、私が祓ったって言えばワンチャンあるか?」
お巡りさんの話では警察上層部は不審死事件の解決に躍起だ。
不審死事件を収めたとなれば5万程度の報酬を惜しむことはないだろう。
そう、被害者さえ出なければ全てが丸く収まる……はず。
「よし、つまりレイミちゃんを守ればいいってことね!」
私はお祓い棒を握りしめ、外に出た。
そして私は街外れの廃神社にたどり着いた。
やっぱり生レイミちゃんは可愛いいなぁああ!
「あなた、どうやってここにたどり着いたのですか? ここにはストーカー対策用に神すら欺く結界が張ってあるのですよ?」
「例え神や仏や悪魔やストーカーを欺けても、生レイミちゃんの匂いと気配を覚えた私は欺けないということを覚えとくといいわ!」
レイミちゃんの穢れなき気配と神聖な匂いは昨夜対面した時に脳にインプットした。
だから、間違えるはずもない。
「何勝ち誇った顔をしているんですか気持ち悪い」
マネージャーさんは引き気味だ。
でも、これもすべてレイミちゃんへの愛ゆえにだからしかたないよねぇ?
「てか、マネージャーさん? 神を欺く結界を張るってあなたは一体……」
「レイミ、この女は危険です。何か起こる前に私が始末しましょうか?」
「え、ええ……っと、ここは穏便にお帰りいただくのが……」
レイミちゃんの提案を聞いてないのかマネージャーさんの片手に大きな鎌が出現した。
「ちょ、ちょっと! 何なのその鎌は! 反則でしょ! てか、あなた何者なのよ!」
私も一応お祓い棒を構えて対峙する。
同業者? 同業者なの? レイミちゃんを不埒な悪霊から守るために契約したとか? でも除霊に大鎌なんて……まるで死神じゃない!
一触即発な私達の間にレイミちゃんが割り込んだ。
「やめてくださいしーちゃん! 夜橋さんも駄目です! しーちゃんは死神なんです! 勝てるわけないです!」
ああ! 生レイミちゃんが私のために争わないで!って言ってる! やっぱり推しが言うとチープなセリフもドラマのワンシーンのように……。
(なんかおかしなこと言わなかったレイミちゃん……?)
「死神って……このマネージャーさん死神なの?」
言われてみれば、長い黒髪に黒いスーツに、全体的な黒に、透けるような白い肌。そして身の丈以上の大鎌……死神っぽい。
マネージャーさんはため息をついた。
「レイミ。それは言わない約束では? まあ、別に破ったからって何かペナルティがあるわけではないですが」
「あ……。ご、ご、めんなさいしーちゃん。私……つい」
マネージャーさんはレイミちゃんの頭を撫でた。
あ、レイミちゃんに触れてるってことは確かに人間技じゃない。
除霊師の私でもお祓い棒を介さないと霊に触れられ(殴れ)ないのに……そんなことより生レイミと触れ合えるなんてうらやましすぎるうきぃいい!
「な、なんで、死神がレイミちゃんと一緒に行動してるのよ!」
悔しさを押し込めて尋ねる。
すると何か口ごもるレイミちゃんの代わりに、マネージャーさんがさらりと言った。
「この子は生前アイドルの卵でした。ですがうっかりトラックに轢かれて死んでしまったのです。本来私は死者を導く立場にあるのですが……レイミの歌に惚れていたので、死神という職権を乱用し、彼女の未練を果たすという約束を交わして彼女のマネージャーになったのです。あ、それとしーちゃんという名前はレイミに名付けてもらいました。ふふ」
「ぐぎぎぎ!!」
こいつ、今私に勝ち誇った?
どや顔してない? なにこの死神? ファンには到底たどり着けない領域にいるからって調子に乗って……あだ名付けてもらえるの羨ましすぎて吐きそうなんだけど??
精神的ダメージを受けた私は立ち眩みを覚えたが、同時に天啓を得た。
「はっ!? そうよ、死神にマネージャーが出来るんだから、除霊師がマネージャーやってもいいわよね? ということでくたばれ死神イイ!」
一足で懐に飛び込み、お祓い棒の先端を突き出す私。
「ふ、あなたからは同じ匂いを感じていました。同じレイミストとして、受けて立ちましょう」
マネージャーさんは大鎌の柄で私の突きを受け止める。
衝撃波が廃神社内を吹き抜けた。
「二人ともやめてくださいッッッ!」
やり合い始めた私達にレイミちゃんが大声で怒鳴った。