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第12話

 医務室で寝かされていたリリーが起きた時、先に起きていたらしいサラスと目が合った。

 リリーも起き上がる。


「サラス様、よかった。ご無事で……」   


 自然とリリーの瞳から安堵の涙が溢れた。


「うん。とっさに防御したから大丈夫だったんだけど。普段使わない大きな魔法を使っちゃったからね。その反動で倒れたみたい。心配かけちゃってごめんね」


 申し訳なさそうに謝るサラスはリリーの頬に流れた涙ををハンカチで優しく拭いた。

 リリーは首を振る。


「私をかばうためにご無理を……」

「リリーちゃんが無事でよかった。君のきれいな体や顔に傷がつかなくてよかった」


 髪をなでるサラスはきれいな笑顔を見せる。

 笑顔。


「サラス様、フード……」


 サラスは素顔を晒していた。


「醜いでしょ? あまり見せたくなかったんだけど、倒れている間にローブを取られてしまったみたいで……」


 サラスは悲しそうな表情になる。

 だが、全然醜くなどない。

 銀色の髪に、金色の瞳。

 とてもきれいだと思った。


「この容貌と魔法の力を見られてしまったからにはもう、ここにはいられない。私の魔法は知られてはいけないからね。お別れを言わなきゃだね」

「そんな、お別れだなんて……」


 サラスは優しくリリーの髪を撫でた。

 リリーは行かないで欲しくて、思わずその手を掴む。


「人が戻ってくる前に君が目覚めてくれてよかった。初めてできた私の愛しい人」

「え?」


 愛しい人?


「愛してしまってごめんなさい。君はこの国の国母となる存在だ。私が好いて良いような人ではなかった。それでも、君と出会って恋を知れて、私は幸せだったよ。もっと一緒にいたかったけど、もう時間が来てしまったね」


 サラスはポロポロと涙を流しながら、リリーに微笑みを見せる。


「嫌、私も連れて行ってください!! 私を置いていかないで。私ももっとサラスさんと一緒にいたいです。貴方が好きだから……私と結婚してください!!」


 リリーはサラスの手を強く握り締めると、泣きながらプロポーズの言葉を叫ぶ。


「え?」


驚くサラス。



「どういうことだい、リリー? 君はそこの悪い魔法使いにたぶらかされてしまったんだね」


 リリーの声に駆けつけてしまったのはレオンである。


「未来の妃をたぶらかす魔法使いは火あぶりにしろ!!」


 そう、レオンが家臣たちに命令を出し、医務室にレオンの家臣たちが押し入ってくる。

 二人は窓際まで追い詰められた。



「リリーちゃん、本当に私で良いの? 後悔しない?」


 サラスは険しい表情で、リリーを抱きしめる。


「もちろんです。サラスさんと一緒なら火あぶりにされても構わない!」


 リリーはサラスに強くしがみついた。

 死ぬなら一緒に。


「分かった。私は君の言葉を信じる」


 レオンの家臣たちがサラスを取り押さえようと襲いかかる。

 その瞬間。

 あたりは眩しい光に包まれた。

 そして次の瞬間には、サラスの姿もリリーの姿もどこにもなかった。






 リリーとサラスは森の奥の湖畔に立つ小屋で暮らしていた。

 サラスの魔法でこの場所まで逃げてきたのだ。

 追っ手もつかず、静かな森の奥で二人で過ごす時間は幸せなものだ。

 リリーが好きな土いじりもし放題である。

 本来、サラスはすごい力を持った魔法使いのようであった。

 魔法を人目に見られると実験対象や恐怖から死刑にされる恐れがあり、隠れて暮らしているのもあるが、他にも隠れなければならない理由があるようで、大きな力を使うとすぐ場所を特定されてしまうので使えないらしい。

 なのでサラスが使う魔法といったら傷を治したりする程度で、ほとんど自力で暮らしている。

 自給自足の生活はリリーがしたかった生活であり、毎日が楽しい。

 今も、二人で畝を作り、きゅうりとトマトを植えたところである。


「リリー、お腹が空いたよー」

「そうね、今日はサラスが湖で魚を釣ってくれたから、ちょっと豪華なお昼ごはんよ」


 二人は仲良く、湖畔のテラスでお昼ごはんを楽しむのであった。




おわり






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