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第11話

 マリナの声が大きく、周囲の視線も集めてしまった。


「リリーが僕を裏切る?」


 何を言い出すのかとマリナを睨むレオン。


「そうです! リリー様は皇子様と親しくしておきながら、影ではサラス様と親密な関係を持っているんです! これが証拠写真ですわ!」


 そう言ってマリナがまき散らした写真は、リリーとサラスが一緒にお茶会をしたり読書したり、焼き芋をしている時の写真である。


「あら、いつの間に撮ったのかしら」


 きれいに撮れている。記念に後からいただけたりするかなあ?

 なんて呑気に写真を見つめるリリー。

 他の人もその写真を見ながら、「だから何?」みたいな顔をしている。


「リリーがそのブ男を侍らせているからといって何だと言うのだ。彼女のペットのような物なのだろう」


 そう冷たく言うレオン。


 『この男は何を言っているんだ??』リリーは耳を疑う。


「いえ、皇子。サラスさんは大事な友人です。酷い言葉で侮辱なさらないでください」


 いくら皇子でもぶん殴ってしまいそうになりましたわ。


「そうか。だ、そうだ。友人だと言っている。なんだこんな写真を撮ったりして。君はリリーのストーカーか何かか。そっちの方が犯罪だがな。名誉毀損で訴えるぞ」


 低い声で言うレオンは、マリナを睨む。


「雨の日に二人きりでコテージにいられましたわ! 男女が二人きりになるなんて! 皇子様がいながら、これは裏切り行為です!」


 負けじと更に抗議を続けるマリナ。


「雨が強くてどうしようもなかったんだろう。何もない。ただお茶をしていただけだ。あのコテージには防犯カメラもついているんだぞ。何かできるわけないだろう!」


 声を荒らげるマリナに、さらに声を荒らげるレオンだ。


「落ち着いてください、お二人共」


 ヒートアップしているマリナとレオンを止めようと声を上げるリリー。


「なぜこんな話になってしまったのですか? マリナさん、何か誤解があるようです。私は皇子の婚約者候補ではありますが、婚約はしていませんし、する気もありません」


 予想外の事態にリリーは、つい本音が漏れた。

 皇子の婚約者候補筆頭が堂々とその気がないと宣言してしまい、あたりはざわつく。

 リリーがサラスと仲良くしているのは既に周知されており、交友関係としてレオンも認知していた。

 リリー本人もサラスが好きなのを隠す気もなく、レオンも自分を友人として見守ってくれていると勝手に思っていたのだ。

 だが、その実、周囲もレオンも『リリーはサラスをペットとして可愛がっている』と勘違いしていた。

 リリーが優しいために、いつも一人でいるサラスを放っておけず、一緒にいてあげているのだと思われていたのだ。


「リリー! 僕と婚約してくれ!!」


 何を思ったのか、レオンはびっくりしてしまい、こんな場面で跪き、リリーに指輪を差し出す。

 周りは余計にざわつきだした。

 リリーも固まってしまう。


「え……」


 まさかプロポーズされるとは思っていなかった。

 レオンが自分に好意を寄せてくれているのは知っていたが、それも自分と同じような家族的な感覚であり、最終的にお互い良い人がいなければ結婚するという話だと思っていたのだ。

 困ったリリーは『どうしよう』と、無意識にサラスの方を見る。

 サラスもこちらを見ていた。

 そして奏でだした。

 それは結婚式の時に流す定番曲。

 フラれたと思った。

 あまりの辛さにポロポロと泣き出したリリー。


「泣いてくれるほど喜んでくれるなんて。嬉しいよ」


 そうレオンは勘違いし、周囲も同じ勘違いをする。


「皇子様、リリー様、おめでとうございます!」

「素敵です!」

「お幸せになってください!」


 などと祝福の声が上がり、パチパチと拍手までされてしまう。

 リリーはそれどころではない。

 それどころではないのはマリナも同じである。


「何よ、どういうことなの? おかしいじゃない。ちゃんと悪役令嬢を断罪するような証拠も集めた。皇子と上手にダンスだって踊った。なのに何でなの?なんで私じゃなくて悪役令嬢なのよ!! ヒロインは私なのに」


 そうマリナはギリギリと歯を食いしばる。


「何なのよこれは!!!!」


 そう声を荒らげ、近くにあったグラスを取って叩き割ると、大きい破片を手にし、リリーを睨む。


「キャー!!」


 会場から悲鳴が上がった。


「あんたなんかがいるからストーリーがおかしくなったのよ。私がヒロインなの!! なのにあんたのせいで!!!!」


 激情したマリナが硝子の破片でリリーを襲った。


「リリー!!」

「リリーちゃん!!」


 リリーをかばうように抱きしめるレオンと、もう一つ声が。ピアノを奏でていたサラスが、飛び出してきたのだ。

 ピアノの場所からここまで瞬時に来れる距離ではないのに。

 何が起こったのか分からなかった。


「っ……」


 倒れるサラスがスローモーションのようであった。


「サラス様!!」


 リリーはサラスに駆け寄ろうとしたが、レオンに抱きしめられていて近づけない。


「リリー、まだ危ないから!」

「サラス様が! サラス様!!」

「落ち着いてリリー。そこの女を早く縛り上げて投獄しろ、サラスは医務室へ!!」


 気が動転しているリリーを抱きしめながら、レオンは近くの者に指示を出した。


「何よ! 離して!! 悪いのはあの女よ!! あの女を捕まえてよ!!」


 暴れるマリナは何人かで取り押さえ、連れて行かれ、サラスは医務室に運ばれる。

 リリーも、レオンに抱きかかえられながら医務室に連れて行かれるのであった。

 あまりの出来事に、気を失い倒れてしまったのである。



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