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第10話

 停学を余儀なくされ、夏休みが終わっても学園へと登校できなくなったマリナは荒れていた。


「なんで、なんでなの?」


 皇子もアランもロイも今年で卒業である。二年、三年にはめぼしい男子生徒なんていなかった。他はモブしかいない。

 ロイとアランが本当に禁断の関係なのだとしたら、残りの期間に皇子にアタックして親密度を上げなければいけないのに停学だなんて。

 もう留年が決まったようなものである。


「これも悪役令嬢の差し金ね。これもヒロインとしての逆境なのかしら。そうだわ、これを乗り越えて学園に返り咲く私、悪役令嬢を断罪して皇子のハートを射止めるミッションなのね。私は悪役令嬢になんて負けないんだから!!」


 打倒悪役令嬢に燃えるマリナ。

 まずは親に付けられた家庭教師の話を聞いて勉強を頑張る。ダンスも完璧になるのよ!


「そう、これは冬休み前のダンスパーティーでのリベンジを控えたミッションなんだわ。もう一度、皇子をダンスに誘って軽やかに踊ってみせるのよ。そして皇子のハートを奪ってみせるの!」


 マリナはあらゆる乙女ゲームや小説、漫画で読んだ物語を思い出し、攻略法を考える。


「絶対にあの悪役令嬢を没落させてやるんだから!!」 




 マリナが見知らぬ所で『打倒悪役令嬢(リリー)』を掲げているなどということには気づかず、平和な学園生活を謳歌するリリー。

 サラスと花壇整備をしたり、一緒に読書を楽しんだり、秋には紅葉狩りを楽しんだりと、充実した学園生活を送っていた。


「もうすぐ冬休み前のダンスパーティーですね」


 二人で集めた落ち葉で焼き芋をしつつ、リリーはサラスに話しかける。


「そうだね。季節の移り変わりは早いね」


 芋が焼けるのを大人しく待っていた。


「……サラスさんは相手はお決まりなんですか?」


 リリーはチラリとサラスの様子を伺う。


「まさか、私は今回もピアノの演奏で単位を取る予定」

「え!?」


 「エヘヘッ」と笑うサラスに驚くリリー。ピアノの演奏をしていたのね。気づかなかった。


「今度聞かせてください」

「うん、でもリリーちゃんも上手だから一緒に弾こうね」

「ええ……」


 連弾してくださるのね。

 楽しみだわ。


 パチパチと焼ける落ち葉。もうそろそろ焼き芋も出来上がる頃合いだ。


「焼き芋出してみようか」

「はい」


 サラスが焼き芋を出し、確かめる。


「アチチ」

「あ、大丈夫ですか!?」

「うん、ちょうど良さそう。はい、半分こ」

「ありがとうございます」


 焼き芋を受け取る。まだたくさん焼いたので、後で皆におすそ分けに行こう。

 焼きたての焼き芋は美味しい。

 サラスと半分こだからもっと美味しい。 


 サラスとリリーは、いまだ普通の友達としての間柄だ。

 リリーは一緒にいればいるほどサラスのことを愛おしく感じるようになっていた。

 しかし、あの後彼からは『好き』の件について何も触れられない。

 自分は公爵家の令嬢であるし、もういっそ自分から婚約を申し出ようかしら。

 なんて、大胆な事を考えるリリーだ。

 でも、サラスさんが私をどう思っているか分からないわ。

 よく考えてみて『結局、良い友人としての好きだった』と結論を出したのかもしれない。

 それならそれで言ってくれたら良いのに。

 リリーはもんもんと悩む日々である。

 まさか自分が恋をして、こんなに悩まされるとは思ってもいなかった。

 サラスからパーティーのパートナーとして誘ってほしいのだが……

 ピアノの演奏をする予定なら無理だろうか。

 出来上がった焼き芋を取り出し、籠に入れつつそんなことを考えるリリーだった。

 サラスが焚き火に水をかけて火を消してくれた。





結局、冬休み前のパーティーはレオンと出ることになった。

 いつも通り衣装を合わせ、馬車で迎えに来たレオンと共に会場に入り、いつも通り注目を浴びつつ一曲踊った。

 音を奏でるピアノの音、視線をチラリと向ければサラスが弾いている。

 すごく素敵だ。

 『パーティーが終わったらサラスに婚約を申し込もう。』リリーはそう決めていた。

 ダンスパーティーで、若しくはその後で婚約を申し込むのはこの学園の伝統のようなものである。

 曲が終わり、中央からはけようとした時であった。


「皇子様、一曲踊っていただけますか?」


 そう、手を差し出したのはマリナであった。

 この数日前に学園に復帰していた。

 以前のように変なこともせず、静かにしていたので、あまり目立たなかった。

 今日のドレス衣装も以前のように変に悪目立ちするようなものではなく、ちゃんとしている。

 ある程度のマナーは身につけてきたとリリーも判断していた。


「皇子、どうぞ行ってらっしゃいませ」


 リリーはレオンから手を離した。レオンは渋々といった様子でマリナの手を取る。

 また新しい曲が始まり、マリナとレオンは中央へ。

 ちゃんと基本は出来ている。

 失敗もしているが、見られないほどではない。リリーはホッと胸をなで下ろした。

 視線を移すと、ロイとアランが一緒に踊っている。『基本は男女ペアだが、学園に申し出て許可を取れば同性のペアでも参加可能』とルールを改めたのは生徒会長であるロイの職権乱用にも思えるが……

 まあ、お似合いなので良いか。

 ロイとアランのダンスに目を奪われる女生徒の多いことである。

 曲が終わり、レオンとマリナが戻ってくる。

 レオンはマリナの手を離し、リリーの手を 握ろうとした。

 その時である。


「皇子様、お聞きください! リリー様は皇子様を裏切るような行動を取っております!」


 そう断罪するようにマリナが声を上げたのだ。

 寝耳に水のリリーは、何事かと驚いた。

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