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第9話

 バンと大きな音がして生徒会室の扉が開く。


「アランー、やっと見つけたわー」


 入ってきたのはマリナである。

 リリーもロイも驚き、アランは怯えてリリーの後ろに隠れてしまった。


「マリナさん、ここがどこだか分かっていますか?」


 リリーはマリナをきつい目つきで見る。ここは生徒会室である。生徒会役員しか足を踏み入れてはいけない。いかなる者でも、それこそ許可がなければ皇子だってこの場所には足を踏み入れてはいけないのだ。


「やだあ、怖い。マリナが何をしたって言うの? アランを隠すなんてひどいわ。アランも泣いているじゃないですか。アランを返してください。怯えてるわ」


 涙目になりながら声を荒らげるマリナ。アランは他でもないマリナに怯えている。


「マリナ嬢、悪いんだが、実はこいつ俺の女なんだ。俺の立場上もあって、恥ずかしくて言えなかったんだろうが、返してくれ」


 子犬のようにブルブル震えるアランが可哀想になり、仕方なく助け舟を出したのはロイである。正直に言えば、アランが相手なら本当にそういう関係になっても良いんじゃないかと思うくらいであるが、そんなことは言えない。


「会長!?」

「ロイだろ? アラン」


 抱き寄せ、密着して見せる。

 アランは困惑した様子だが、ロイが助け舟を出してくれたと気づき、「何か本当にカッコイイ、好き!」ってなりそうになった。


「マリナ嬢、申し訳ありません。そうなんです。僕、ロイさんとあんなことやこんなことまでしてしまっていて、もう男になんて戻れないんです」

「俺でしか満足できねえ体にしちまったんだ。悪いな」

「生徒会長と書記がこんなふしだらな関係だなんて知られたら、ロイさんの立場が悪くなると思って言えなかったんです」

「健気な奴」 


 見つめ合い、ハートを飛ばしまくる二人。

 傍で見ていたリリーも、本当にそうなのではないかと若干疑う勢いだ。


「学生の立場でそんなことやあんなことまでするなんて! 生徒会としての自覚はないんですか!!」


 なんて顔を真っ赤にして怒ってしまうリリー。

 本当に何もしてないのに、疑われているようで、ロイとアランは恥ずかしくなる。

早く終わってほしい。


「う、嘘よ!!! だってアランは私を好きなのよ。婚約して結婚するんだもん!!」


 「嘘よ、嘘よ!」と首を振るマリナ。


「僕は貴女を好きではありませんし、婚約もしません。だからもちろんですが、結婚もしません」


 アランははっきりとマリナを拒絶した。


「そんなはずないわ、気づいてないだけ。アランもロイも私を愛しているのよ。皇子も、皆私を好きになるって決まっているの。今ならまだ許してあげるわ。アランを選んであげる。戻ってきて」


 マリナの言っていることはリリーにもロイにもアランにも理解できない。

 この子、何を言っているんだろう。

 ロイに至っては話したこともなく、顔を合わせたのだって今日が初めてである。


「アラン、こっちに来て」


 アランに手を伸ばすマリナ。

 狂気すら覚え、アランは震えてしまう。

 そんなアランを守るように、ロイが力強く抱きしめた。

 リリーが二人をかばうように前に出る。


「アランに近づかないでください。ここは生徒会室ですよ。立ち去りなさい」


 そう厳しく注意する。 


「ひどい、私をいじめて楽しいですか? 私がそんなに気に食わないんですか? 妬ましくて仕方ないんですね」

「何を言っているか分からないわ。出て行ってください。貴女は生徒会役員ではないでしょう? 決まりは守りなさい。貴女のためにも言っているんですよ」

「私、リリー様に負けない。絶対許さないんだから。ヒロインは悪役令嬢になんて負けないのよ!」

「分かりました。どうぞお引き取りを……」


 本当に何を言っているのか分からないが、とにかくアランが怯えているので出て行ってほしい。

 リリーはマリナの手を引くと、生徒会室の外に追い出し、普段はかけない鍵を閉める。

 これで一安心だと「フーッ」とため息を吐く。


「新学期の色々なことより、マリナ嬢のことについて話すべきかもしれないな」

「そうですね」 


 ロイの言葉に頷くリリー。

 これ以上、風紀を乱されるようであれば、こちらも生徒会として対処を考えなければならないだろう。





 リリーたち生徒会はマリナの今後を話し合い、結局停学にすることに決まった。

 リリーは何とかして学園に通わせてあげたかったが、このままだとより悪くなりそうで、どうしようもなかった。

 いくらなんでも「皇子が自分に恋することは決まっている」などという妄言を口にしたことが広まれば、マリナはただでは済まされないだろう。それこそ命にかかわることである。

 マリナのためにも一時的に停学にし、家でマナーや作法、貴族の決まり事などを勉強してもらい、貴族として一般的な常識だけでも身につけてから学園に戻るようにと、彼女の家には手紙を書いた。

 これが一番ベストな選択であろう。

 自分が彼女をかばうようなことをしたせいで、よりこじらせてしまったのかと思うと、リリーは申し訳ない気持ちだ。

 早くこうしておけばよかったのだ。

 そしてマリナは夏休み明けから学園に登校できなくなった。

 マリナが来なくなった学園は平和である。 


「マリナさんがいないと皇子も安心でしょうね。本当に良かったです」

「めったなことを言わないでください、彼女から学ぶ権利を奪ってしまいました」


 清々しい様子のカロリーナだが、リリーは胸を痛めていた。


「学ぶも何も、基本がなっていませんもの、学べませんわ。彼女の場合、足し算も分からないのに掛け算を教えようとしてもどうしようもありませんわ」

「例えが極端すぎではありませんか」 


 カロリーナの例えに苦笑してしまうリリー。


「次は冬のパーティーですわね。夏のパーティーはマリナさんのせいで散々でしたが、冬は成功させましょう」

「気が早すぎます」


 夏休み明けにもう冬休み前のパーティーの話をするのはどうかと思う。


「ちゃんと夏休みの宿題は終わらせましたか?」

「もちろんですわ。私は勉強をサボったりしません」

「さすがカロリーナさんです。お願いします。朝顔の観察日記を見せてくださいませんか?」

「リリー様がおサボりになられたんですか!?」


 まさかリリーがそんな不真面目なことをするとはと、カロリーナは驚く。


「朝顔を育てたと思ったんですが、ホウセンカだったようで、全然違う花の観察日記になってしまったんですが、良いんでしょうか……」

「リリー様は時々そそっかしいですわね。ホウセンカの観察日記でも良いと思いますよ。朝顔ではなく、観察日記ということに意味があるんでしょうから」

「はい、そうですね。ホウセンカもきれいですし」

「そうですわね」


 そんな話をしながら、カロリーナとリリーは夏休み明けの授業に向かうのであった。

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