「正式な婚約をしましたよ。まだ、私がアラン皇子に乗り換えるとお思いですか?」
夜、眠りにつこうとしたら、寝巻き姿のエレナが俺の部屋に現れた。
「流石に、婚前に未婚の貴族令嬢が男の部屋で過ごすのはよくない。自分に用意された部屋に戻ってくれ!」
「明日から皇宮で花嫁修行が始まりますわ。皇宮に泊まるのは初めてなので、怖い夢をみそなのです。だから一緒に寝てくださいな」
エレナには裏設定がある。
彼女は暗殺ギルドを牛耳っているのだ。
そう、彼女自体の暗殺スキルも相当なもので俺は彼女と2人きりになるのが怖い。
「では、失礼」
俺は扉を閉めると彼女のネグリジェをめくった。
ここに武器を隠している可能性があるからだ。
そこには艶かしい白い足しかなく、武器はなかった。
「何をなさるのですか?」
彼女が頬を染め、ネグリジェーを抑えているが照れた演技だろう。
その姿がとても可愛くてときめいてしまい危険だ。
「身体検査だよ。エレナが武器を隠していて、俺を暗殺しようとしている可能性があるからな!」
「そのようなことを言って、私を誘っているのですか?ダメですよ。私を強欲な女と侮辱したのだから、女としてのサービスは一切いたしません」
「では、自分の部屋に戻ってくれ」
「この部屋に来るのを他の使用人に見られました。男女の関係にあるということになっているのですよ。今、私が部屋に戻ったら私があなたに追い返されたと思われます」
「実際、今、君を追い返してる。婚前に男と関係があるふしだらな貴族令嬢と思われる方が、男に相手にされていないと思われるよりも嫌だというのが君の価値観だ。俺は逆の価値観を持っている。人に見られるのが嫌なら天井裏から帰ったらどうだ?皇宮のあらゆる隠し通路は把握しているだろう?」
「私がそのような隠し通路を把握しているわけありませんよね。何を怯えているのですか? 私のようなか弱い女を怖がるあなたは滑稽ですよ。天井裏だなんて小汚い場所、私が行くと思いますか?」
「天井裏が小汚いなんて、何でわかるんだ。俺は君のような女が一番怖いよ。か弱いふりをして誰より強かで強欲で、はっきり言って関わりたくない」
俺の言葉に一瞬エレナが傷ついた表情をした。
しかし、彼女は人の心を操る天才という設定をしている。
今の彼女の表情に同情心を持ってはいけない。
「私はこれから、あなたの言うことを全て信じます。だから、ライオットあなたも私のことを信じてください。突然、自分のことを創造主と名乗り、私のことさえも自分がつくったと主張するような男と私は婚約したのですよ。それでも、あなたは私を信じられませんか?」
首を傾げて俺の顔を覗き込むようにしながら、手を握ってくるエレナに取り込まれそうになる。
彼女と2人きりになるのが一番怖い。
彼女を含めてこの世界の人間は、全部主人公ライオットを心の底では好きだという設定にしている。
それでも、自分がライオットが好きだと全てを失った後に最後に気がつくのがエレナなのだ。
それまではライオットを戦場に送りまくって、彼を利用しまくる。
「実は、俺は前世は剣道部ではなく、卓球部だったんだ。だから、本当に俺の武力を期待しても無駄だから。三国志を読んだくらいで、軍の率い方とかも分からないから。それだけは言っておく」
俺は彼女が混乱するだろう前世の言葉をたくさん並べた。
「卓球部ですか。ふふ、おやすみなさませ、ライオット」
彼女は俺の頬に口づけをすると、自分はベットで寝てしまった。
そのほっぺにちゅうは魔法のようなときめきを持ってくる。
やはり、彼女は俺のつくった魔性の女だと確信する。
「本当に寝ているのか? 寝たふりで、俺が寝た後、殺すのか?」
俺は眠っている彼女の頬をつつくが、起きる様子もない。
しかし、俺は絶対に眠れない。
彼女が俺のつくったエレナならば、一瞬の隙も見せてはならないからだ。