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 昼間の君と夜の君は、さながら太陽と月のように異なる。


真宵まよい、爪を立てて掻いたら跡になってしまうよ」


 ベッドの上に膝を立てて座っていた君は、大人しく手を止めた。けれど、どこか不満そうに唇を突き出す。


「高見先生ってさ、大学では僕のこと、名前で呼んでくれないよね」

「当たり前だろう。他の学生と差をつけるわけにはいかない。君だって、昼間は私に敬語で話すじゃないか」


 君はにやりと笑って、猫のように軽やかにベッドを下りる。


 君の言葉を借りるとしたら、ラブアフェア――そのあとの君は、私のワイシャツを好んでまとう。

 今もそれしか着ておらず、白布の下に覗く脚や腹が、冷房の風に晒されて寒そうだ。


 私はデスクの前に腰かけ、大学関係のメールに返信を打っている途中だった。そのノートパソコンに、ひらりと君の手が伸び、


 パタン


 悪びれもせず画面を閉じてしまう。


「真宵」

「ね、さっきの言い方……昼間もため口きいていいの?」

「やめなさい」

「先生はどっちの僕が好き?」


 私は返さない。仕事の邪魔をしたことを、怒っている素振りを少しは見せたい。


「真面目で初心うぶな感じのほうがそそる?」


 君は慣れた手つきで、私の椅子の背を掴み、斜めを向いていた私の体をくるりと正対させる。


 足を踏ん張れば拒めた。けれどそうしなかったのは、二回目の兆しを自覚していたから。

 どうせパソコンは閉じられたのだ。君より優先すべき返信など、あるはずもない。


 君は私を正面から見下ろし、ローブを着た私の膝の上にまたがる。

 寝間着に着替えてしまわなかったのは、一度で終わりではないとわかっていたためだ。


 無邪気に寄せられる小さな唇を、まずは受け止める。

 ついばむように何度も重ねてくるので、私はじきに痺れを切らし、君のうなじを手で押さえて湿った狭間を割り開く。


 僅かに抗うような声を上げたが、君は逃げようとはしなかった。舌先で天蓋を撫で、歯列をなぞると、薄い肩が小さく震える。


「んぁ……ふ……っ」


 君の喉から漏れる声が、私の官能をくすぐる。

 甘えるように差し出された熱い舌に、自分のそれを絡ませた。

 吐息と吐息が混ざり合い、水音がなまめかしく響く。


 うなじに置いたのと逆の手で、細い身体を抱き締めてやると、私の首に回った腕に力がこもった。

 布越しに身体が密着し、君の体温が伝わってくる。


 次第に荒くなっていく君の呼吸。

 喉が小さく鳴り、舌の動きが鈍る。わずかに後ろへ引こうとする気配は、限界が近いという合図だった。


 けれど、私はそれを許さない。


 離れようとする唇を、逃がさぬように追いかける。

 うなじに添えた手に力を込め、さらに深く、舌を差し入れた。


「んく、ぅふ……はぁっ……く、う……っ」


 漏れる声が、明らかに苦しげに変わっても、解放する気はない。先に仕掛けてきたのは、君のほうだ。


 もがくような動きが、私の腕に拘束されて抵抗になりきれていないのが愛おしい。


「も、やっ……しつ、こ……っ」

「まだだ」


 角度を変えて噛みつくように唇を合わせ、逃げる舌を吸い上げてやる。


「ん゛んっ……ぅあ」


 拒絶する腕の力が弱まったころ、ようやく私は満足し、君を解放する気になる。


 肩を上下させる君の瞳は、とろんとして虚ろだ。

 唇の端に伝った唾液を拭ってやり、力の抜けた身体を横抱きに抱え上げる。


 そしてそのまま、一度目のラブアフェアで乱れたままのベッドへと向かった。

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