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第7話 レリア対ネイティス

 レリアの周囲には球体型の防御障壁が生まれていた。


「防護球の魔術……。やっぱり何かありそうなことに関しては、防御しておくのが最善ということか」


 一手ごとにレリアは認識をアップデートしていく。

 彼女にとって、勝敗などどうでもいい。今、この先の戦いで起こりうる出来事に対して、更なる対策を立てているのだ。


「なっ!? 無傷!?」


 さすがのネイティスも驚いた。いくらリングがあるとはいえ、この必殺の流れをこうも簡単に止められるとは思わなかった。


「無傷じゃない。この雷の網は防護球を確実に焼いているよ。なんとかしなくてはならないと思っている」


 レリアは防護球の中から外の雷を見る。


「けど、このいつ終わるか分からない魔術を相手に、下手なことはしたくない」

「ならどうするのかしら!?」

「まずはこうしてみよう」


 レリアが左手を向けた。同時に、右人差し指の魔術手形が輝いた。

 手のひらから光弾が放たれた。雷網を突っ切り、真っすぐにネイティスの元へと向かう。


「その程度で! 防壁の魔術!」


 先ほどレリアが使った防御系の魔術を行使するネイティス。光弾は防壁に阻まれ、霧散する。

 即座にネイティスが反撃に移ろうとする。しかし、さっきまでいたはずの場所にレリアはいなかった。


「どこ……!?」

「ここ」


 レリアはネイティスの側面に移動していた。さっきの光弾は目くらまし。

 雷網の魔術を強引に抜け出そうとした際、追撃をされないように撃ち込んだのだ。


(ネイティス、言うだけの力はあった)


 今、この戦闘におけるレリアとネイティスの認識の差は酷く違っていた。

 まずネイティス。彼女はレリア・ティームスを倒すことに集中している。これは間違いではない。今の状況なら、そうでなくてはならない。

 だがレリア。彼女は違った。


(けど、きっと魔人はこんなもんじゃない)


 彼女にとって、ネイティス・スプレワールを倒すことは前提。この戦闘からいかに魔人との戦いに使えそうな知見を得られるか。それが彼女にとっての戦いだ。


「いい加減、諦めなさい!」


 ネイティスから何度も雷矢の魔術が飛んでくる。その度、レリアは防御行動を変えていた。弾き、反らし、受け止める。たまに光弾の魔術で撃ち返してみることも忘れない。

 その様子を見ていた生徒達は同じ感想を抱いていた。


 ――もしかして、途中入学生の方が強い?


 そんな声なき声を耳にしたネイティスは焦りを感じていた。


(レリア・ティームスがわたくしより強い? 認めない。認めるわけにはいかない!)


 レリアを完膚なきまでに倒すべく、ネイティスは更に危険な魔術の行使を決定した。

 ネイティスの魔術手形に魔力が集中する。


「ん……来たか、奥の手」

「レリア・ティームス、そのリングの性能を信じ切ることね!」


 ネイティスが右腕を思い切り振るう。

 刹那、雷の剣が顕現し、レリアを一閃した!


「ティームスさん!」


 思わずエグゼリオが叫ぶ。

 彼はネイティスの実力に驚きを隠せなかった。


 今のは、雷剣らいけんの魔術。


 求められる魔力と精霊への呼びかけが強くなければ使えない魔術である。

 エグゼリオはネイティスが今まで使っていた雷属性の魔術に思いをはせる。


(そもそも属性魔術は、魔力を用いてその属性を司る精霊に交信し、その力を借りるもの。今までの魔術はさておき、雷剣の魔術は雷の精霊と強く交信できないと使えません。……流石はスプレワール家の長女、と言ったところでしょうね)


 エグゼリオが心配になるのはレリアだった。

 リングがあるとはいえ、雷剣の魔術をまともに喰らってしまった。ある程度の怪我は覚悟しておかなければならないかもしれない。



「雷剣の魔術か。流石は優秀なスプレワール。文字通り痺れたよ」



 レリアは無傷だった。

 彼女の周囲には先ほどの防護球の魔術とは違う防御結界が発動していた。


「だけど、私の隔絶障壁の魔術は貫けない」


 防護球の魔術や防壁の魔術は魔力と魔力で相殺し合う防御魔術となっている。

 しかし、この隔絶障壁の魔術は違う防御の仕組みとなっている。

 具体的には、魔力によって空間を捻じ曲げ、その捻じれで攻撃魔術を打ち消しているのだ。


「隔絶障壁の魔術……!? 何なんですかそれは!?」

「あの魔人と戦うために私が生み出した魔術の一つだよ。……けど、この魔術に気を取られている場合?」

「なっ!?」


 ネイティスの右腕に鎖が巻き付いていた。その鎖の元はレリアの足元から伸びていた。

 鎖が一気に引っ張られ、ネイティスが宙に浮く。


「捕縛の魔術……! こんなものに捕まるなんて……!」

「こんなもの、あんなものと見てしまったあんたの負けさ。学びになったね」



 ネイティスの頬に、再びレリアの拳が突き刺さった!



 今度は魔力で保護しているため、あの時よりはダメージが少ないが。


「この、わたくしが……負け、た?」


 ネイティスが立ち上がろうとしたが、体を支えきれず、やがて膝をついてしまった。魔術を連続使用したが故に起きた、一時的な魔力の枯渇である。

 この状態でも魔術を使うことが出来るが、その場合は精神力ではなく、生命力を使うことになる。つまり、この状況においては、これ以上の戦闘続行は不可能。


「ティームスさんの勝ちです」


 エグゼリオが冷静に状況を判断し、そう宣言する。

 生徒達は混乱と興奮に包まれた。


 あの優秀すぎるネイティス・スプレワールが負けた。

 しかも勝ったのは謎の途中入学生。


 この結果はあっという間に学校中へ広まることとなった。

 そして、この結果がネイティスにとって、大きな変化のキッカケとなることはまだ誰も知らない。


 そう、ネイティス・スプレワールの物語は、この瞬間から動き出した。


(隔絶障壁の魔術、初めて実戦で使ったな。この感覚を忘れないうちに、あとでもう一度試さないとな)


 対するレリアはひたすらぶつぶつ言っていた。

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