ネイティス達の言ったことは本当で、次の授業は実戦形式のものだった。
もちろん教室で戦闘は無理なので、生徒達は皆、教室棟から訓練棟へ移る。
「皆さん集まりましたね」
エグゼリオの手には魔具が握られていた。
「今日は実際に攻撃魔術を使った模擬戦闘を行います」
その言葉に生徒達はワクワクを隠しきれていなかった。数ある授業の中でも、この模擬戦闘は人気が高い。
単に攻撃魔術を使える、というだけでなく、誰が強いのかとかそういった力比べが出来るためだ。
「安全に配慮して、一対一形式、それを二組同時に行います。ルールは分かっているでしょうか?」
するとネイティスが挙手した。
「もちろんです。相手を気絶させるか、危険な魔術であれば寸止めをした段階で勝利です」
「そういうことです。最近は模擬戦闘で相手を気絶させるなんて何事だー、なんていうお言葉もありますが、あえて僕はこうコメントしましょう」
エグゼリオは笑顔を浮かべた。
「魔物と戦う術を得るってのに何言ってんだ、
生徒達がシンとなった。
そうだ。それが魔術士科なのだ。
ここは正義の味方の養成所でも何でもない。魔物と戦うための技術を磨く場所なのだ。
「と、いうことで、安全対策としてこの魔具を使います」
エグゼリオが出したのは手首と足首につけるリングだった。
「戦う人はこれを必ずつけてくださいね。この魔具とこの訓練棟の安全機能を使って、戦ってもらいますので」
レリアはリングをじっと見つめる。
一目見て、かなりの技術が詰め込まれていることは容易に想像がついた。リングは人体を覆う膜となり、その膜に攻撃が触れたら、その危険度によって防御魔術を展開する。万が一貫通し、装備者が傷を負った場合は、応急処置の魔術が発動するといった構造だ。
「それでは早速戦ってもらいましょうか。立候補者はいますか?」
生徒達は同時に挙手した。当然の結果と言えた。これは人気の授業であり、誰もが力を示したい場所となっている。
興奮に包まれる場。しかし、そこでネイティスが一歩踏み出した。
「わたくしも立候補します。そして、指名をさせていただきたいです」
一気にシンとした。横暴ともいえるネイティスの言い分。それに異を唱える者は誰もいない。
何せ、彼女は優秀な魔術士を輩出しているスプレワール家の長女。それだけ一目置かれているということの証左ともいえる。
「指名……? 誰をですか?」
「レリア・ティームスをわたくしの対戦相手にしてください」
「はぁ……違う人の名前を出してくれるのかと思ったら」
断れない状況にするのが上手い。そう思いながら、レリアは一歩前に出る。
こういった時はさっさと出てしまった方が良いのだ。
皆の視線がレリアへ集中する。
それもそのはずだ。ただでさえ途中入学なのに加え、あのネイティス・スプレワールから直々に指名された。
これでどうして戦いを断れるのだろうか。
「レリア・ティームス。皆の前で貴方の無様をお披露目してあげるわ」
「無様なんて、子供の時に披露しているから今更……って感じだけどね」
「? 訳の分からないことを言っていないで、準備しなさい!」
エグゼリオからリングを受け取り、身に着けたレリア。次の瞬間、全身に何かが張り付いたような感覚がした。リングによる安全装置が稼働したのだ。
互いに距離を取り、互いの顔を見つめる。ネイティスは睨みつけていた。レリアは虚空を見つめる。
(ようやくか)
レリアが思うは勝敗ではない。
(ようやく実戦が出来る。魔物に似せた
レリアがこのアスガスタ王立魔術学校に来た目的。魔人をぶち倒すための力と技術を身に着けること。
これは小さな一歩だ。いつか来る時のための、最初の一歩だ。
「――いつか、大きな一歩になりますように」
「始めてください!」
エグゼリオの合図で、レリアとネイティスの模擬戦闘が始まった!
「まずは小手調べよ。
ネイティスが手を振ると、その軌道上に小さな光の玉が生まれ、そこから雷が数本放たれた。
雷はジグザグに動き、レリアを目指す。
(速い。
対するレリアは冷静に右人差し指の魔術手形に魔力を注ぎ込むのだった。
「防壁の魔術」
レリアの前方に青白い光を放つ壁が生まれた。雷は全てその壁に着弾。雷はチリとなっていく。レリアには傷一つついていない。
その結果を見て、レリアは再び思考する。
(よし、出来ている。けど、もう少し展開を早く出来るかもしれない。要練習だな)
レリアはこれで攻撃が終わったと思っている。
しかし、違うのだ。ネイティス・スプレワールの攻撃はこれで終わらない。
「立ち止まっていて良いのかしら!」
ネイティスの右人差し指につけられている魔術手形が更に輝く。
しかし、魔術が飛んでこない。そこでレリアは勘づいた。
「雷矢の魔術の残滓が留まっている……?」
本来、魔術は役目を終えたら消える。しかし、術者の魔力制御によっては、その残滓が漂っていてもおかしいことではない。
レリアはこれを偶然とは思っていない。そう、これこそが第二の攻撃の布石――!
「これで終わりよ!
残滓全てから雷が放たれた。雷は残滓と残滓を結び、傍から見れば、まるで網のように見えた。
これこそがネイティスが得意とする二段構えの魔術だ。
初撃の雷を防御させ、そこから次の攻撃に繋ぐ。
初見の者では対応不可能。まさに必殺技と呼ぶにふさわしかった。
その流れに観戦していた生徒は歓声をあげる。
このような美しくも大胆な戦いこそがスプレワール家なのだ。
「二段構えの魔術、か。そうか、口だけの奴かと思っていたら、中々やるじゃん」
ただ、今回は相手が悪かった。