“知らない”と言えば、笑われそうで。
“分からない”と言えば、距離を置かれそうで。
別に興味がある訳じゃないのに、ただただ周りについて行くためだけに、流行りを追いかけては覚える日々。
隣の席の学生たちは、SNSの話題で盛り上がっていて、私の知らないアーティストの話をしていた。
話しかけようとしても、共通の話題なんて、ない。
気になるけど気にならない、気にしないフリをして、授業で使うタブレットにため息を零す。
私、本当は……こんな事がしたい訳じゃなかったのに。
そんなふうに、今日も“誰かに置いて行かれる”ような感覚を抱えながら、大学からの帰路についた。
私が居た惑星ユーフェルとは違って、この星──アズレアは何でもある星だった。
新刊が発売日に店先に並んでいる本屋。
お洒落なカフェ。
キラキラしててカラフルな、かわいいスイーツがある菓子店。
二十四時間、いつでも好きなときに買い物ができるお店。
夜でも明かりなしで出歩けるくらいの街灯。
全部、私が住んでいた場所には無かったものだ。
便利。便利だけど……。
街を行く人は、何だか冷たい感じがして、挨拶の声も聞こえてこない。
誰も、目を合わせようともしない。
ちっぽけな私の言葉は、この街のどこにも届かない気がしていた。
磁気トラムを乗り継いで辿り着く、私の借りている部屋。
夜の部屋は静かだった。
静かすぎると、不安になる。
惑星ユーフェルの、夜になると決まって吹く西風の音が恋しい。
引っ越しから三週間。部屋にあるのは最低限の寝具とテーブル。
殺風景なままの部屋が、なんだか私の迷いを表してるみたいで。
スーツケースから引っ張り出した古いポータブルラジオだけが、ここでの生活に馴染んでいた。
惑星ユーフェルでは、定期的に大きな低気圧が発生する。そんなときの情報源として、ラジオはとても大切なものだった。
家にあった、祖父が子供の頃に買ったというポータブルラジオ。私がこの星の大学に進学すると決まって、譲り受けたものだ。
テレビも、音楽も、今の私にはちょっと騒がしすぎる。
スイッチをオンにして、周波数帯のダイヤルを適当に回してみる。
ノイズに混じって、誰かが喋っているクリアな音声。
周波数帯8.77。それに合わせれば、更にはっきりとした声が流れてきた。
『こちら、ヴェルトーン877──今夜も砂の星から、お送りします』
落ち着いた声。優しい間。街の喧騒とは無縁の、静かな世界。
聞いたことのない星。だけど、私の知らない“誰か”が、そこにいた。
それだけで、泣きそうになった。
溢れそうになる涙も受け止めて、拭ってくれるような、そんな声。
遠い星の誰かが、自分のためだけに語りかけてくれているような気がして。
そしてその日から、ラジオは私の“日常”になった。
ラジオだけで聞く遠い星、ヴェルトーン877に思いを馳せながら。