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第4話 この恨みを晴らすタイミング?(ワラワ視点)

「おつかれさまでした~」

 小娘がガードマンに頭を下げて社外に出てくる。

 笑顔に若干の曇りがあるのは仕事の疲労のせいだろう。

 ワラワの呪いで殺してしまわないか心配じゃが、そうなったら仕方あるまい。運命じゃ。観念してもらおう。

 夜空には月と星の明りが瞬く。

 それを消してしまうほど街の灯りは騒がしい。

 なるべく暗がりを選んで、人目につかぬようこっそり後を付けていく。

 他の人間に見つかったら、ワラワこれでも高価な雛人形ゆえ、盗まれてしまうかもしれん。

「お? なんだこの雛人形? ずいぶんぼろっちい……ふぐうう!?」

 電柱に隠れていたら、電柱に小便掛けようとした酔っ払いハゲに見つかってしもうたわ。

 安心せい。

 ワラワの髪は椿油でトリートメントしておる。

 アジエンスの良い匂いじゃろ? 何じゃ? その目は? ワラワの髪で全身ぐるぐる巻きはむしろご褒美じゃろ? 笑え。

 ハゲは数秒で白目をむいた。

 根性の無い酔っ払いじゃな。

 ハゲを電柱にもたれかかるような格好で放置し、ワラワは小娘の後を追った。

「もう、今日は食べるわよ! 自分へのご褒美!」

 小娘は鼻息を噴き出し、袖を捲る。

 どうやら小娘、今日はストレス解消に寄り道をするらしい。

 獣の目であちこちの店を吟味し、最終的に暖簾をくぐったそこはラーメン屋だった。

 もし、今日ワラワの呪いで小娘が死ぬようなことがあればラーメンが最後の晩餐になるというわけじゃ……いいのか? もう少し高価な店でフルコースを堪能したりせんのか?

 ……まあ、それもこれもワラワを捨てた小娘が悪いから同情なぞせんのじゃからね! ふん!!

 ワラワは店と店の間の隙間でケガレホバリング待機。

 数十分もすると小娘が慌てて出てきた。

「やば……終電! 流石に替え玉三つはやりすぎたわ! 走れば間に合うか!?」

 うぬ、どうも人込みの中を走るつもりらしい。

 これでは襲うタイミングがつかめない。

 いたしかたなし……ここは諦めてアパートまで待つか……。

 走っていた小娘は急に暗がりの小道へと曲がった。

 これは好都合!

 ワラワは一目散に暗がりへと突入する。


――此ノ恨ミ晴ラサデオクベキカアアアア!


「うううえええ、おええええええええええええ」

 小娘は胃の中の物を吐き戻しておった。


 そりゃあ……そうなるじゃろ。


 ラーメン喰って30分の食休みもせず全力疾走。

――モウ若ク無イノジャカラ無理スルデナイワ、コノ馬鹿者メ……

 呆れて言ったワラワに、小娘が振り向いた。

「誰がおばさんですって!? 私はまだ若いのよ! てか、あんだ、昨日捨てた雛人形じゃない! こんどばなに……うっぷ、ううっ……」

――……オバサントハ言ッテ無カロウ

 小娘は鬼女のごとし表情じゃったが、顔は明らかに青かった。

 ワラワは悩んだ。

 この状態の小娘をワラワの黒髪で拘束するのはたやすい。

 簀巻きにして川に流してやればワラワの気も存分に晴れることじゃろう。

 しかし、相手は鼻水と涙と涎を垂らす小娘……ワラワの十二単が汚れるじゃろこれ? 黒髪で縛った途端ゲ〇が掛かるじゃろこれ!

――キョ、今日ノ所ハ見逃シテヤルノジャ!

 ケガレホバリング全開でふわりと夜空へ。

 ワラワは垂直に壁と壁に挟まれた路地を上昇した。

「な、ま、まぢなざ!」

 下界から聞こえる吐しゃ音。

 それと対比するのが失礼な程、月がキレイな夜じゃった。


 仕切り直しじゃ仕切り直し。

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