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真実

「お嬢様……。マリアの最期の願いを聞いてはいただけませんか」


「……ええ、いいわ。貴女にもいっぱい苦労をかけてきたものね。今の私にできることなら何でも言ってちょうだい」


「では、お嬢様……どうか、生きてください。生きて、カミル様とお幸せになってください」


「……マリア。貴女、それは……」


「お嬢様が、ここから逃げ出せないのなら……私が、代わりになります」


「……っ! 貴女! 本気で言っているの!」


「はい。お嬢様の代わりに、断頭台へ立ちます」


「いい加減にして頂戴! そんなこと、できるわけがないでしょう!」


「牢暮らしのせいで、多少お顔立ちが変わっていても、おそらく誰にも気づかれません。伯爵家もこの騒ぎを一刻も早く収めたいはずです。たとえ私が代わっていたと知れても、口を噤むでしょう」


「……っ、ふざけないで……! そんなことで……貴女を犠牲にして……私が喜ぶと思っているの!」


「お嬢様。私はとても、幸せでした。孤児だった私を、お嬢様が救ってくださった。私の命は、あのとき頂いたものです。だから、最期までお嬢様のために使いたいのです」


「……そんな事のために、傍に置いたわけじゃない……」


「承知しております。でも、お嬢様のいない世界に私は未練がございません。お嬢様が処刑されるなら、私もそのとき共に消えましょう。どうせ失う命なら……有効に使わせてください」


「マリア……そこまで、私に……」


「それにご存じですか? 私はお嬢様より一つ、年上なのです。ですから……お姉ちゃんの言うことは、ちゃんと聞かなきゃだめですよ?」


 しばし、沈黙が辺りを支配しておりました。


 やがて、お嬢様は観念なさったのでしょうか。静かに私の顔を見つめてこう仰いました。


「……マリア、ありがとう。貴女のこと、私は決して忘れないわ。これからどんな運命を辿ることになっても、貴女は私のメイドであり、親友であり……たった一人の『姉」よ」


 鉄格子を挟んで、私とお嬢様は強く抱きしめ合いました。おそらく、これが今生の別れになるでしょう。言葉はなくとも、その温もりだけで、お互いのすべてを伝え合えた気がいたしました。


「……では、急ぎましょう。カミル様、牢の鍵と、お嬢様のお召し物、それから私の衣服を着替えますので、恐れ入りますが、一度ご退出をお願いできますでしょうか」


「……そうか。……わかった。それと……マリア。すまない。そして、ありがとう」


 そう仰ると、カミル様は一人静かに部屋の外へと立ち去られました。


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