早川颯太は小さい頃から勉強が嫌いだった。
特筆することもない普通の家庭に生まれ育った颯太は、他の子よりも早く言葉を話すようになり、色々なことに疑問を持って質問する早熟な子供だった。そんな彼を両親は頭の良い子だとしばしば褒めていた。
その後小学校に上がった颯太は、教師に恵まれなかった。
授業の内容に疑問を持って質問をすると、決まって「そう決まってるから」という答えが返ってきた。そんな環境で颯太が授業に興味を無くすまでに、さほど時間はかからなかった。
そして勉強嫌いになった颯太はスポーツでもやろうと思ったが、体育会系のノリについていけなかった。
結局ただ何となく日々を過ごした学生生活12年間で、すっかり落ちこぼれになり彼女どころか友達もいない、趣味すらもないダメ人間になっていた。
◇◆◇
「これで終わり?」
みじかっ! 本当に何の面白みもない人生だったな、俺。
「面白みのない人生か。お主らはどう思った?」
相変わらず俺の心を読んで話を繋ぐ秦広王。十王ってみんな心を読むのかな?
「うーん、やっぱり勉強ができないだけで知恵が無いってわけじゃないんだね。異世界に行けると思ったのは知識の無さが原因かな?」
なんか分析された。
「なんも悪いことしてなくねぇかぁ? なんで地獄にいるんだぁ?」
ホントだよ。まさか自分を殺した罪で地獄逝きとはなぁ。
「閻魔王はそう言ったか。早川颯太の罪は己を殺害したこととトラックの運転手に罪を負わせたこと。そして両親を悲しませたことと言えよう」
そういえば運転手のことを何も考えてなかった。確かに何の関係もない人を人殺しにしてしまったことになるのか、それは申し訳ないな。親を悲しませたのは死んだことか、落ちこぼれたことか、それともその両方か。
「だが、それまでの人生で他者に危害を加えていないことから大いに
天道って天国のことだよな? いよっしゃあ! これでもう痛い思いはしなくていいんだ!
……
…………だけど。
「源三郎と雄峰は?」
「多くの他者に危害を与えた罪は地獄で
つまり、俺は天国に直行できるけど、二人はこのまま登っていけということか。
「良かった、また地獄の底に落とされるかと思ったぜぇ」
「そうだね、ここまで来れば後は比較的突破も容易だ。天国でまた会おう」
このクズども……黙って俺を天国に行かせる気かよ。
「……言いたいことがあるようだな、颯太」
全てを見透かした秦広王が、俺を促す。
「さっきまでだったら、喜んで天国に行くって言ったと思うんだよね。でも……俺さ、自分の人生を見直して気付いたんだ。今までこんなに長く一緒の時間を過ごした仲間はいなかったって」
少し間があいた。だけど全員黙って俺の次の言葉を待っていた。
「二人とも全然歳とか違うけど、なんか一緒にバカやる友達みたいな感覚になっちゃってたんだよね。せっかくここまで一緒に来たんだから、天国にも一緒に行きたい。二人がいなかったらここまでだって来れなかったんだから」
「……いいだろう。三人でこの先へ進むことを許可する」
あれ? もしかして俺、試されてた?
昔話みたいに、一人で行くって言ったら落とされてたやつじゃね? これ。
「我はその様な罠を仕掛けたりはしない。望めば天道へと導いたぞ。もとよりお主が望んでいないことは知っておったがな」
……さすがでございます、秦広王様。
「さあ、行くがよい」
促され、俺達三人は黒縄地獄への階段を登っていくのだった。