黒縄地獄に戻って来た。何日ぶりかは忘れたけど、もう何年も前のことのように感じる。
「ここは経験者の君達に聞こう。どうやって出口に行くんだい?」
出口の場所は分かってるけど、見張りがいるんだよな。前はどかすために亡者から物を盗んで騒ぎを起こしたけど……ん?
「源三郎が最初に盗んだのって女の子の人形だったよな。もしかしてあのミミたんって元はお前の持ち物だったのか?」
ここの亡者は全員盗人だ。あの場面でわざわざあんなものを盗んだのは、源三郎が盗まれた物を取り返したかっただけなんじゃ?
「はぁ?」
心底不思議そうな声で返すおっさん。どうやら関係なかったみたいだ。よく考えたら盗む相手を決めたのは俺だったな。すっかり忘れてた。
「ミミたん?」
雄峰に以前ここであったことを説明した。
「へえ、ならそのミミたんで
あっ、そーか! あいつの目の前にミミたんをぶら下げてやれば前みたいに叫び出すかもしれないな。まずはあいつを探そう。
「なあ、源三郎。ミミたんを盗んだ亡者ってどんな奴だっけ?」
「ああ、それなら探すまでもないぜぇ」
源三郎が指さす。ん?
「あああああ! お前らあああ!」
あ、はい。
どうやら向こうが先にこちらを見つけたようだ。血相を変えて走って来る亡者と、その叫び声を聞いた獄卒の群れが集まってくる。
「よし、ミミたんをぶん投げろ!」
「おう……ん? 嫌だよこれ俺のだもん」
俺の声に従って懐からミミたんを出したところで、拒否する源三郎。
「いやそんなこと言ってる場合じゃないだろ、また捕まるぞ!」
言い争う俺達の目前に亡者と獄卒が迫って来た。ヤバい、このままじゃまた閻魔様の所に戻される!
「ごめんね」
そこに雄峰が源三郎の手から素早くミミたんを奪い、出口と反対の方の山へ向かって投げた。
「「あああああああああああああ!」」
源三郎と亡者、二人の悲鳴が重なる。なぜそんなに執着するんだ……?
「今のうちだ、走れ!」
雄峰と二人で源三郎の手を引っ張り、出口へ向かって走り出す。獄卒は半分こっちに来たけど、このまま逃げ切ればいいや。
「うおおおお、急げええええ!!」
とにかく全力疾走。後ろを振り向いてる余裕もない。源三郎ももう必死に走っていた。
そして、ゴール!
「ハァ、ハァ……ついたー」
なんとか逃げ切れたか。横を見るとちゃんと二人も出口に辿り着いている。
「ああ、なんてことをしてくれたんだぁUFO!」
ミミたんを捨てられた源三郎が抗議の声を上げる。いや、本当になんでそんなにこだわるの?
「ふふふ……ジャーン!」
雄峰が珍しくおどけた様子で懐から何かを取り出した。その手にあるのは……
「「ミミたん!?」」
思わず俺も驚きの声を上げた。雄峰が取り出したのは間違いなく、遠くに投げたはずの美少女フィギュアだった。
「すり替えておいたのさ!」
どこかで聞いたようなフレーズを言う雄峰。詐欺師やべえな、完全に騙されたわ。
「さあ、あとちょっとで地獄を抜ける。頑張ろう!」
盛り上がる一行だが、ちょっと気になったことがある。確か天国と地獄の間にはまだ何個も「なんたら道」があったような……まあ、せっかくの盛り上がりに水を差すこともないか。