黒縄地獄を抜け、とうとう一番上の地獄・等活地獄に辿り着いた。
「よくぞここまで辿り着いた!」
門の前に、二人の鬼がいた。よく見覚えがある二人だ。うっわー……
「我が名は牛頭鬼」
「我が名は馬頭鬼」
入口の門を挟んだ両側に腕組みして待っていたのは牛と馬の頭を持つガチムチマッチョ達だった。そういえばこいつらがいたんだった。
「
雄峰の言葉は、わりと絶望的だ。牛頭鬼は分からんが馬頭鬼はとんでもない化け物だったのを覚えている。
「ヤバいのかぁ?」
「鬼はみんなヤバいだろ。とりあえず俺はあの馬に瞬殺された」
俺の言葉に反応して右腕を上げ力こぶを作る馬頭鬼。こいつらのノリの軽さは何なんだ?
「我々はお前達に最後の試練を与えるためにここで待っていたのだ。別に難しいことをするわけじゃない、お前達は今まで通り出口に到達すればいい」
「そう、最後の試練は我々との鬼ごっこだ!」
ごっこじゃなくて本物の鬼ですよね? ガチで殺されまくりますよね?
「……失敗するとどうなる?」
冷静な雄峰が、肝心なことを質問する。そうだ、逃げ切れなかったら今度はどうなるんだ? もっと下の地獄に落とされるのか?
「この試練に失敗はない。脱出できない限り永遠に我々から追われ続けるのだ。ここは元からそういう地獄だからな」
そういえばそうだった。前と違うのは、今度は他の亡者と戦っていても見逃してもらえないだろうということか。
「なるほど、なら失敗を恐れてビクビクする必要はないわけだ」
余裕かましてるけど痛いぞー? 思えば雄峰が責め苦を受けてるの見たことないし、もしかしてあの苦しみを知らないんじゃないか?
「納得したところで入りたまえ。颯太には懐かしい面々が待っているぞ」
ヒャッハーとか言いながら襲い掛かって来た連中を懐かしいと思うことはないです。
「おー、ここは黒縄地獄とは全然違うなぁ」
殺伐と殺し合う亡者達を見ながら、源三郎が言う。
うーむ、下の地獄を見てきたからか、本当にお祭り騒ぎをしてるだけに見えるな。牛と馬がいなかったら本当にヌルい地獄だったんだなぁ。さて、気を取り直して。
「よし、出口はあっちだ。一度走って行ってみよう」
頷き、俺について走り出す二人。
「さあ、鬼ごっこの開始だ!」
背後から嬉しそうな馬頭鬼の声が聞こえてきた。当然やられるだろうなーと思っていると……
「ぎゃああああ!」
「げぶぅっ!」
雄峰と源三郎ではない。周辺で殺し合いをしていた亡者達が馬頭鬼と牛頭鬼の振り回す金棒に粉々にされる声だった。
「おいおいおい、なんだあれ! なんだあれ!」
走りながら恐怖の表情に変わる源三郎。だから言っただろう。
「凄いな、まるで埃を掃いて掃除するように亡者を蹴散らしてる」
走りながら随分余裕のある解説だな。
「はっはっは、ウォーミングアップ終わり!」
結構遠くの方から聞こえる声。でもこれは無理なパターンだよな。
「ああ、無理だな」
「な、な、な、なんで前にいるんだぁ!?」
うん、そうなるよね。
次の瞬間、俺達三人は二人の鬼によってバラバラに引き裂かれたのだった。
「さあ、対策を考えようか」
入口で復活した俺達は作戦会議を始めた。正直何も思いつかないんだけど。
「走って逃げるのは無理だなぁ。何かあいつらの気を引く物はないかぁ?」
気を引く物か……さすがにミミたんに興味はないだろうし、俺が持ってるのは貰ったナイフと受験番号の札だけだし。
「俺が持ってるのはこれだけだな。二人はなんか持ってないの?」
二人もそれぞれ持ち物を出した。ミミたん、薬、ハンカチ、ピッキングツール?
「何これ?」
源三郎が出した謎のアイテムに指をさし、聞く。
「ああ、これは鍵を開ける道具だぁ」
ここで役には立たなそうだがなんてものを持ってるんだこのコソ泥。
「さすが大怪盗」
雄峰も茶化すが、そっちは詐欺師の便利グッズとかないのか?
「詐欺師の道具は?」
「詐欺師の商売道具は口と笑顔と服だよ」
納得した。
「前は他の亡者と戦ってれば襲ってこなかったからな。明らかに俺達を最優先で狙ってきてる奴等をどうにかする方法なんてわからないぞ」
「他の亡者……そういえば颯太の知り合いがいなかったかい? 大山彰人だっけ」
彰人か……知り合いと言えば知り合いだが。
「言われてみると姿を見ないな。特徴的な見た目だからいたらすぐ気づくはずだけど」
話題に出ると急に気になってきた。ただの頭のおかしい殺人鬼なのに。キョロキョロと辺りを見回して姿を探すが、見当たらなかった。
あれー?