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地獄を脱出しろ! その3

 彰人の姿も見つからないし、鬼どもを何とかする方法も思いつかないのでとりあえず何度も挑戦してみようということになった。もう死ぬのも慣れたものだし。


「うおおおお!」


「はーっはっはっは!」


 走るクズども、追う牛馬。


 等活地獄の亡者達も見物するようになっていった。


 何日経っただろうか? 俺達は解決策を見いだせずにいた。


「まずいな、だんだん考えるのが面倒になってきた。少し落ち着きたい」


 確かに、このままでは出口に向かう気力も無くなりそうだ。とはいえ、どこに行ってもあいつらが追いかけてくるしなー……ん?


 小柄な体、女の子かと見紛う可愛らしい顔。どこか安全な場所は無いかと見回していたら、大山彰人を発見した。


「おーい、彰人!」


 思わず声を掛ける。


「うわっ、バカ!」


 叫び声を上げ、逃げる彰人。バカっていうのはもしかして俺の呼び名か? 間違ってはいないがもうちょっとなんかないのか殺人鬼。恐らく俺に復讐されると思って逃げたんだろうけど、そんな昔のことどうでもいいんだが……あ、単に殺されそうな相手から逃げ回ってるのかな? それなら全然姿を見なかったのも分かる。


 などと長々と考えていたら、事態が急変していた。


「ヤバいぞぉ、馬が来てる」


「うわあああ!」


 彰人が逃げた先に、馬頭鬼がいた。


「おおっと、戦ってない亡者がいるな?」


「あぶねぇ!」


 思わず走り出していた。後から考えたら馬頭鬼に殺られるなんてここの日常だから焦る必要なんか無かったんだが、この時はそんなこと考えもしなかった。


「えっ?」


 驚く彰人を突き飛ばし馬頭鬼の金棒を喰らう俺。


「ナイスガッツ! 意味は無いけどな」


 馬頭鬼は笑いながら俺を引き裂いた。


 気が付くと、入口で二人と彰人が俺の顔を覗き込んでいた。この展開も何度目だろうか?


「お前、何やってんの?」


 俺も分からない。


「さあ?」


「……どこまでもバカな奴だな」


 呆れたように吐き捨てた後、考え込むような表情を見せる彰人。


「さっきちょっと聞いたんだけど、お前受験生なんだって?」


「え? 受験生っていうか、受験に失敗したんだけどな」


 受験番号を取り出した。この番号があそこにあったら、今頃俺は大学でやる気なく過ごしていたんだろう。地獄に来てからの日々は基本的に苦痛の連続だったけど、生きてる間には出来ない経験ばっかりだったな。


 札を見る目がちょっと優しくなっているのを自覚する。


「それが受験番号か」


 彰人の表情がおかしい。なんか凄く欲しそうだけど、こんなのが欲しいのか?


「欲しいの?」


「……それをくれたら、ちょっとだけ協力してやってもいい。あいつらの気を引く案があるんだ」


 マジかよ!?


 牛頭鬼の「それを捨てるなんてとんでもない」という言葉を思い出した。


 大山彰人は、こう見えて15歳。死ぬ前は中学三年生だったという。


 等活地獄の一処にいることからも分かる通り、彼は根っからの殺人鬼だったわけではない。ごく普通の人生を送っていた少年だ。


 高校を受験するにあたって、仲のいい友達と同じ高校を目指した。本当にどこにでもいる普通の中学生だった。


 友達と一緒に受験して、友達と一緒に高校に通うことを目指していた。夏休みのある日、友達が事故で亡くなるまでは。


「別に執着してる訳じゃない。ただ、ここで長いこと殺し合いをしていたら受験ってものをしてみたかったと思うようになっただけ」


 そう言って遠い目をする彰人に受験番号札を渡した。


「よし、じゃあどうやってあいつらの気を引くんだ?」


「簡単さ。俺があいつらに斬り付ける。怒ると亡者をひと思いに殺さずにいたぶるんだ。その間に出口まで行けばいい」


 つまり、彰人が鬼達に痛めつけられることを提案しているのだ。


「……」


「どうした? さっさと行くぞ」


 スタスタと歩き出す彰人。俺達三人は顔を見合わせ、後に付いていくことにした。


 おかしいな、他人がどうなろうと知ったこっちゃないはずだったのに。源三郎も雄峰も、釈然としない表情で歩いている。


「……おめぇも、天国を目指さねぇか?」


 ついに、源三郎が口を開いた。


「いや、やめとく。お前らみたいに罪が重くなるリスクを負いたくないし。それに……罪を償わないと」


 何をやったのかは知らないが、そう言われたら無理強いすることは出来ない。しんみりするなぁ。

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