「えっ!? 痛っ!」
右手の甲に激痛が走った。何だろうと手の甲を見てみた。
「ん? 何だろう……? これ」
急に
「どうしました? カイル殿下……。ああっ!? これは!」
教会の偉い人が、俺の手の甲を見て驚いていた。
「これは……、何でしょうか?」
俺は偉い人に聞いてみた。教会の人達が、顔を見合わせて頷いている。教会にいる人たちも、ざわめき始めた。
「コホン! カイル殿下、おめでとうございます!」
ニッコリと微笑んで、成人のお祝いと別に祝われた。他の教会の人達も微笑んでいた。
「これは聖女に現れる、女神に選ばれた伴侶の紋章になります! 同じ紋章が現れた方と伴侶になる運命です!」
おお――――っ!
皆に説明すると会場中の参加者は歓声を上げた。
同じ紋章を持つ者と、伴侶になる? 女神に選ばれた伴侶? ……これは、チャンスなのでは? と考えた。
「それならば、同じ紋章を持つ者を探しに行かなければなりませんね! 俺……いえ、私は伴侶探しの旅に出ます!」
実は宰相のアレックス・ファストは、二番目の兄と同じ年齢ということでいつも一緒に遊んでいた。
その兄へ会いに来ていて、俺とも顔見知りだった。
ただ美形……。美しすぎる、誰でも言うことを聞いてしまうほどの魔性の男 アレックス・ファストが苦手だった。
なぜ苦手だったかと言うと……。綺麗すぎる顔に、腹黒そうな作った笑顔が怖かった。
俺は、なるべく接しないように避けていた。それを奴に気づかれてしまった。
『どうして私を避けるのですか? カイル殿下。寂しいです……』
『ひっ!』
壁に追い込まれて、顔の横へ両手を壁につかれた。きれいな顔が近寄って来て、俺にささやく……。
『その怯えた顔、実に……私の好きな顔です。カイル殿下』
俺以外だったら一発で老若男女、奴に落ちるだろう。なんせ顔がいい。
『はなせ。近寄るな!』
俺が逃げようとすると、よけいに迫ってきた。自分の効果的な武器を知っているのだろう。
『今までカイル殿下のように、私を避ける人はいませんでした。……落としてみたいですね』
『……っ!』
耳元でささやいた声が、体中に響いた。ヤバい。
と、そんなことが度々あった。
それからも何かと俺に手を出してきて、そのたびに逃げていた。だがなぜか俺のいる場所を把握してやってきた。
そのうちに宰相としての仕事が忙しくなって、隣国に行ったりしていたのでホッとした。
「まだ見ぬ、私の伴侶はどこのいるのか。探しにいかなくては……!」
俺はこのチャンスを逃さないように、少し悩める青年の演技をして皆へアピールした。
「発言を失礼します! わたくし新聞社の者ですが! カイル殿下、女神様の加護が聖女! そして伴侶の紋章について号外を出してよろしいでしょうか!」
ざわっと騒がしくなった。王家のことを取り上げている新聞紙の記者だった。
「うむ。許す!」
父王が許可を出した!
「ありがとう御座います!」
ざわざわと人々は色めき立った。
「もしかするとカイル殿下の伴侶は、平民の中におられるのかもしれないぞ!」
「いやいや! 隣国の姫様かもしれんぞ?」
「これは楽しみだ!」
俺のことなのに皆が勝手に伴侶の想像をしていた。
「どちらにしても、この国の聖女様は【祈りの旅】へ行かなければなりません」
偉い人が皆に聞こえるように言った。
「【祈りの旅】は神聖なもので危険が伴います」
そう言うと教会中が静かになった。危険が伴う……。伴侶探しどころじゃないかも。
旅は危険なもの……と偉い人が言うと、静かになった。俺は覚悟して行かないといけないなと、思っていたら……。
「発言をお許しいただけますか?」
スッと右手を上げて静寂の中、一人の男が言葉を発した。
「え?」
皆が、その男へと注目した。
魔性の男 宰相のアレックス・ファストだった。
『何を言う気だ?』
俺は奴の方に振り返った。ニッ! と俺の顔を見て笑った。嫌な予感がした。
「宰相のアレックス・ファストだったな。発言を許可しよう!」
父王は、アレックスは二番目の兄と友人なので顔を知っているし、優秀なのでどんな人物か知っているのだろう。腹黒さは知られてないと思うが。
「ありがとう御座います。これを見ていただけますか?」
サッと手袋を外して、右手を始めに父王へ見せた。
「こ、これは!」
「まあ!」
父王と、母である王妃が声をあげた。
さらり……と、宰相アレックス・ファストの髪の毛が風に揺れた。一瞬まぶたを閉じて、それからまぶたを開けて俺を真っ直ぐにみつめた。
「……え」
きれいな瞳は、俺を捕らえて離さなかった。
「こ、これは!!」
教会の人達がアレックスの右手を確認していると、一人が叫んだ。
「カイル殿下の伴侶、王家の紋章の持つ者です! その名はアレックス・ファスト!」
教会の人はアレックスの手を取って、高く掲げた。
わああああああ――――!
「うそ、だろ……」
俺の猫かぶりの声ではなく、素の声を出した。
皆が手を取り合って喜び合う中、