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第3話


  「えっ!? 痛っ!」

 右手の甲に激痛が走った。何だろうと手の甲を見てみた。


 「ん? 何だろう……? これ」

 急にあざが浮かび上がった。よく見ると紋章のような形をしていた。いや、これは王家の紋章らしい。

 「どうしました? カイル殿下……。ああっ!? これは!」

 教会の偉い人が、俺の手の甲を見て驚いていた。


 「これは……、何でしょうか?」

 俺は偉い人に聞いてみた。教会の人達が、顔を見合わせて頷いている。教会にいる人たちも、ざわめき始めた。


 「コホン! カイル殿下、おめでとうございます!」

 ニッコリと微笑んで、成人のお祝いと別に祝われた。他の教会の人達も微笑んでいた。

 「これは聖女に現れる、女神に選ばれた伴侶の紋章になります! 同じ紋章が現れた方と伴侶になる運命です!」

  おお――――っ!

 皆に説明すると会場中の参加者は歓声を上げた。


  同じ紋章を持つ者と、伴侶になる? 女神に選ばれた伴侶? ……これは、チャンスなのでは? と考えた。

 「それならば、同じ紋章を持つ者を探しに行かなければなりませんね! 俺……いえ、私は伴侶探しの旅に出ます!」



  実は宰相のアレックス・ファストは、二番目の兄と同じ年齢ということでいつも一緒に遊んでいた。

 その兄へ会いに来ていて、俺とも顔見知りだった。

 ただ美形……。美しすぎる、誰でも言うことを聞いてしまうほどの魔性の男 アレックス・ファストが苦手だった。


  なぜ苦手だったかと言うと……。綺麗すぎる顔に、腹黒そうな作った笑顔が怖かった。

 俺は、なるべく接しないように避けていた。それを奴に気づかれてしまった。

 『どうして私を避けるのですか? カイル殿下。寂しいです……』

 『ひっ!』

 壁に追い込まれて、顔の横へ両手を壁につかれた。きれいな顔が近寄って来て、俺にささやく……。


『その怯えた顔、実に……私の好きな顔です。カイル殿下』

 俺以外だったら一発で老若男女、奴に落ちるだろう。なんせ顔がいい。

『はなせ。近寄るな!』

 俺が逃げようとすると、よけいに迫ってきた。自分の効果的な武器を知っているのだろう。


 『今までカイル殿下のように、私を避ける人はいませんでした。……落としてみたいですね』

『……っ!』

 耳元でささやいた声が、体中に響いた。ヤバい。

と、そんなことが度々あった。


  それからも何かと俺に手を出してきて、そのたびに逃げていた。だがなぜか俺のいる場所を把握してやってきた。

 そのうちに宰相としての仕事が忙しくなって、隣国に行ったりしていたのでホッとした。




 「まだ見ぬ、私の伴侶はどこのいるのか。探しにいかなくては……!」

 俺はこのチャンスを逃さないように、少し悩める青年の演技をして皆へアピールした。


 「発言を失礼します! わたくし新聞社の者ですが! カイル殿下、女神様の加護が聖女! そして伴侶の紋章について号外を出してよろしいでしょうか!」

 ざわっと騒がしくなった。王家のことを取り上げている新聞紙の記者だった。

 「うむ。許す!」

 父王が許可を出した! 

 「ありがとう御座います!」


 ざわざわと人々は色めき立った。

 「もしかするとカイル殿下の伴侶は、平民の中におられるのかもしれないぞ!」

 「いやいや! 隣国の姫様かもしれんぞ?」

 「これは楽しみだ!」


 俺のことなのに皆が勝手に伴侶の想像をしていた。

 「どちらにしても、この国の聖女様は【祈りの旅】へ行かなければなりません」

 偉い人が皆に聞こえるように言った。

 「【祈りの旅】は神聖なもので危険が伴います」

 そう言うと教会中が静かになった。危険が伴う……。伴侶探しどころじゃないかも。


  旅は危険なもの……と偉い人が言うと、静かになった。俺は覚悟して行かないといけないなと、思っていたら……。


 「発言をお許しいただけますか?」

 スッと右手を上げて静寂の中、一人の男が言葉を発した。

 「え?」


  皆が、その男へと注目した。

 魔性の男 宰相のアレックス・ファストだった。

『何を言う気だ?』

 俺は奴の方に振り返った。ニッ! と俺の顔を見て笑った。嫌な予感がした。


 「宰相のアレックス・ファストだったな。発言を許可しよう!」 

 父王は、アレックスは二番目の兄と友人なので顔を知っているし、優秀なのでどんな人物か知っているのだろう。腹黒さは知られてないと思うが。


「ありがとう御座います。これを見ていただけますか?」

 サッと手袋を外して、右手を始めに父王へ見せた。

 「こ、これは!」

 「まあ!」

 父王と、母である王妃が声をあげた。


 さらり……と、宰相アレックス・ファストの髪の毛が風に揺れた。一瞬まぶたを閉じて、それからまぶたを開けて俺を真っ直ぐにみつめた。

 「……え」

 きれいな瞳は、俺を捕らえて離さなかった。


 「こ、これは!!」

 教会の人達がアレックスの右手を確認していると、一人が叫んだ。

 「カイル殿下の伴侶、王家の紋章の持つ者です! その名はアレックス・ファスト!」

 教会の人はアレックスの手を取って、高く掲げた。


 わああああああ――――!


 「うそ、だろ……」

 俺の猫かぶりの声ではなく、素の声を出した。

 皆が手を取り合って喜び合う中、アレックスやつは狙った獲物を捕らえたかのように俺を凝視していた。


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