どっと、疲れがのし掛かる。
立っていられないほどに。
ハァハァハァハァハァハァハァハァ…!!
息づかいも荒い。
やべぇ、何か食わねぇと……
ウジャはウドを切り、水分を補給。
タラの芽とフキノトウをちぎって
家で茹でる。
外は雨だ。
ウジャは、裸で、天然のシャワーを浴びる。
身体も、心も、リセットされる気分。
血も、汗も、涙も……
家に入り、乾燥させた熊の肉をかじる。
ウドを吸い、タラの芽を食らう。
熊肉、タラの芽、ウド、フキノトウ……
取って来た、スベリヒユ、ワラビ、シソ。
栄養剤だ。次々に食らう。
ウジャは、台所の隅にある、ばあちゃんが遺してくれた木の小皿に目をやった。
縁が欠けてるけど、手触りはなぜかあたたかい。そこに、さっき山から取ってきたワラビをひとつ、そっと乗せる。
「いただきます。」
その一言は、誰にも聞こえない。
でも、それは祈りだった。
食べるという行為が、今では戦いに等しい。
口にするたびに、命が燃えるのを感じる。
熊肉のしょっぱさ。ウドの苦味。アシタバの青い匂い。
──この苦さは、ばあちゃんの味だ。
一口ごとに、ウジャの中に積もった誰かの記憶が、剥がれて、染み込んで、そして血肉になっていく。
家の柱に、ちいさな傷跡がある。
ウジャが背を測った跡。
そこには「8さい」と彫られていた。
「あと少しで、ばあちゃんに追いつく」
独り言を言った。
それは希望じゃなくて、覚悟だった。
ウジャの瞳は、じいちゃんの瞳。
ウジャの心は、ばあちゃんの心。
今こそ、感謝しなければ…………
明日はもう、この世界に居ないかも知れない。
ウジャは、川面に映る大きな傷のある顔と、
昔、無くした左腕を見た。
お父さん……
ウジャがまだ小さい時に、木こりだった父親と山に入り、父親の仕事を見ていた時。
突然、腐った大木がウジャの居るその方向に、勢いよく倒れて来た。ウジャは一歩も動けず、言葉も出せず、ただ、その自分に向かって来る大木を見ていた。
最後、瞑っていた目を、開けた。
ウジャは、生きていた。
代わりに父親が、大木に潰されていた。
ウジャを、精一杯護るように。
愛する我が子の、生を祈るように。
それが、当然であるように。
ウジャもまた、代償として、
顔に大きな傷と、左腕を失った。
お父さん、本当に生かしてくれて、
ありがとう。