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第12話


 事件が起きたのは、レイルが出かけてから数時間後のことだった。


 オリヴィアは言いつけどおりにブラウスの上からボレロカーディガンを羽織ると、キャンバスを持って庭に出た。


 今日は陽射しが強いため、ついでにカンカン帽を被った。オリヴィアは目を細めて空を見上げる。

 風があるおかげでさほど暑くはないが。


 ふたりが住む赤レンガ造りの瀟洒しょうしゃな洋館は、森の奥深くにある。


 壁にはつるつたが絡まり、魔女の館、と言われるとしっくりくるような外観である。


 といっても洋館がある場所は木がなく拓けているので、全体に陽の光が当たるため、存分に明るいのだが。


 オリヴィアは洋館のすぐ横に流れる小川側の庭に出た。平らな草の上にシートと椅子を広げ、キャンバスと向き合う。


 最初はぎこちなかったものの、暇つぶしでずっと握っていたら筆使いにも随分慣れた。


 オリヴィアは最近、レイルの仕事を手伝い、デザインを一部任せてもらっているのだった。


 こちらの世界では上下が別れた服は珍しいらしく、オリヴィアが考える現代風のドレスは割と好評だった。


(今日はクラシカルワンピースを描きたい気分だ。川の水が綺麗だから薄い紫色で、レースをふんだんに使った……あぁでも、アンブレラスカートもいいなぁ。淡い黄色にして、ブラウスは紺色。頭につけるリボンを真っ赤にしたら、まるで白雪姫しらゆきひめだ。この世界のお姫様と一風違って、割と和風のドレスも売れるかも)


 わくわくしてきた。


「セーラー服とか文学系もいいかも……」


 ひとりごとを呟きながら、オリヴィアはするすると手を動かしていく。

 晴れた日は想像がはかどる。今日はたくさん描けそうだ。


 そのときだった。

 さく、と下生えの草を踏む音がした。


(……おや?)


 もしかして、レイルがもう帰ってきたのだろうか。思ったよりずっと早い。

 オリヴィアが振り向く。


「!」

 そこにいた人物の姿に、オリヴィアは目を瞠った。


「久しぶりだな、オリヴィア・ローレンシア」 

「……ラファエル王子……」 


 オリヴィアの前に立っていたのは、ラファエル・スコット――レイルの兄であり、かつてのオリヴィアの婚約者であった。


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