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第18話


 オリヴィアを殴ったラファエルの息は上がっていた。顔は苦しげに歪められ、綺麗な顔が台無しだ。


(珍しい……いつも感情を表に出さない人が、こんなに……)


 ラファエルはじりじりと近付いてくる。オリヴィアは恐怖で身体が硬直した。


「貴様、ソフィアをどこへやった」

「え?」


(どういうこと……?)

 立ち上がったオリヴィアは眉を寄せた。


「なんのことですか」

「しらばっくれるな! 貴様がソフィアを連れ去ったのだろう!」


 ぐっと胸ぐらを掴まれ、揺さぶられる。


「そんな……私じゃな……」


 ラファエルは、苛立ったようにオリヴィアを突き飛ばした。手を拘束されていたオリヴィアはバランスを崩し、地面に倒れ込んだ。


「……まぁ、いい。言わないというのなら生かしておく理由はない。刑を執行するだけだ」

「刑?」


 ラファエルはオリヴィアを見下ろし、意味深な含み笑いを浮かべた。顔が整っている分、迫力がある。


 ハッとする。

 オリヴィアは、死刑となって牢から逃げ出したのだ。 

 オリヴィアの顔面から、サーッと血の気が引いた。


(……嘘。私、また死ぬの……?)


 泣きそうになり、歯を食いしばった。


(レイルくん……)


 ――誰か、助けて。

 心の中でオリヴィアは泣き叫んだ。


 オリヴィアは再び地下牢へ閉じ込められた。


 前に拘束されたときより頑丈な南京錠をかけられる。


「ソフィアへの愚行だけでは飽き足らず、弟を垂らしこんで罪を逃れるとはな。とんだ悪女だ。しばらくこの牢で頭を冷やすがいい。……ま、次に出るのは死ぬときになるけどな」


 ふん、と吐き捨てるように言うと、ラファエルは地下牢から出ていった。


 ラファエルは、ゲームの序盤とはまるで別人のようだった。彼の中でのオリヴィアへの嫌悪は、かなり強くなっているように感じる。


(最悪だ……ゲームはヒロインのハッピーエンドで終わったと思ってたのに)


 オリヴィアは膝から崩れ落ちた。もはや涙すら出ない。


(……とうとう詰んだのか、私の人生)


 オリヴィアは俯いた。

 ブラウスやは泥で汚れ、スカートは大きく裂けてしまっていた。


(せっかくレイルくんが作ってくれたものだったのに……)


 サッサッと、できるかぎり服の泥を払う。


「ごめんね、レイルくん」


 そろそろ帰ってきた頃だろうか。


 オリヴィアが突然いなくなって、レイルはきっと心配しているだろう。

 これまでずっと助けてきてくれたレイルに、オリヴィアは結局、なにも恩返しができなかった。


 オリヴィアは目を瞑り、手を合わせる。


 もしまた転生することが許されるのなら、今度こそ彼の運命の相手になれますように――と。


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