目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第19話


 そのときだった。

 どこかから、ふわり、と馨しい花の香りがした。


(……この香り……部屋のアロマの香りに似てる)


 香りに導かれるように思い出されるのは、レイルとの思い出だ。


 甘やかな朝。穏やかな朝食。ほかほかと心の底からあたたかくなるようなレイルとの会話。優しい腕の中。落ち着く香り……。


 オリヴィアは顔を上げた。


(……諦めちゃダメだ。私は悪役令嬢。悪役らしく、すんなり殺されるわけにはいかないの)


 せっかく転生したのだ。それに、オリヴィアは今一人ではない。レイルという、心から愛する人ができたのだ。


 そしてそれはたぶん、ラファエルも同じ。


 ここを出よう。

 決意をして、檻に近付く。


(ソフィア様を探さなくちゃ……)


 ラファエルは、ソフィアがいなくなったと言っていたけれど、オリヴィアはソフィアの居場所など知らない。攫ったわけでもない。


 どちらにせよ、この窮地を逃れるにはソフィアを見つけ出すしかないのだ。


 オリヴィアは鍵を調べた。

 このロックをオリヴィアの魔法で解錠するのは難しそうだ。


 レイルとの魔法特訓のおかげで、学校にいた頃よりずっと魔力値が上がったオリヴィアだったが、ここまでの南京錠を解錠する力はまだない。


 だが、諦めるわけにはいかない。諦めたら待つのは死だ。


 両手を南京錠に翳し、ぐっと力と念を込める。


(開け……開け!)


 ふわり、と南京錠がかすかに浮く。


 もう少しで開きそうだ。

 さらに両手への意識を集中させる。


 すると、身につけていたブラウスとスカートがふわり、と揺れた。

 優しい風に舞い上げられたように、かすかに。


(そうだ……この服は魔法具の一種。魔力があるんだ) 


 目を閉じ、意識を両手に集中させたその瞬間。

 がちゃん、と鍵が壊れた。


「やった! 開いた!」


 思わず声に出して喜んでから、ハッとした。

 見張りがいるかもしれない。バレないようにこっそり脱出しなくては。


 足音を殺して、オリヴィアは暗い廊下を進む。


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?