快速急行に乗り換えてから、目的の難波駅には30分も経たずに到着した。
「どうする? 浮き庭から聞き取りを始める?」
「そうだね。いまは、そこに集まる人が多いって言うから、
「わかった」
ミナミの街の象徴でもあるグリコの看板の最寄り出口や隣の駅まで続く地下街に直結する東改札口に比べると、難波駅の西改札口は、比較的、人の往来が少ない。改札口にほど近いB4出口から地上に出ると、熱帯夜の蒸し暑い外気が肌にまとわりついてきた。
そのまま高速道路の高架下の道なりに進み、道頓堀川に掛かる大黒橋を目指す。
午後8時近くの川沿いの遊歩道には、ボクたちと同年代の男女が、十数人ばかりたむろしていた。
彼らの見た目は、普通に学校に通っていそうな大人しい見た目の女子から、派手な髪の色の男女のグループなど、さまざまだ。
その派手な髪色のグループの中にいた薄い桃色のロリィタ服を着た女子が、初対面の人間を相手にしているとは思えないテンションで、ボクたちに話しかけてきた。
「あ〜、この辺では見ない人たちだ〜。どったの〜?」
あきらかに目の焦点が合っておらず、呂律も怪しいことこの上ない。
ボクと湯舟が困惑の表情を見せると、声をかけてきた少女のそばにいた女子が、彼女をフォローするように間に入ってきた。
呂律の回らない少女と同じく、夏仕様の薄い水色のロリィタファッションに身を包んだ彼女は、
「ゴメンね〜。このコ、サイレースを飲んでるからさ。なにか用なら、ウチが話しを聞くよ」
と、気さくに話してくれる。
水色の服の少女の言葉に甘えて、
「ありがとう。ちょっと、友だちを探してるんだけど……」
と、ボクが口火を切ると、夏季限定探偵事務所の相棒は、タイミング良くスマホをかざして、亡くなった親友の画像を見せる。
「このコなんだけど、この辺りに来てなかった?」
「う〜ん……ウチは知らないな〜。だれか、このコのこと知ってる〜?」
水色の少女がアスファルトの歩道につながる階段に腰掛けていたメンバーに向かって声をかけると、その中の数人がこちらに寄ってきた。
「ん〜、オミちん、どした? どした?」
「なんか、この二人が、このコを探してるんだって」
オミちんと呼ばれた少女が説明すると、彼ら彼女らは、
「ン〜? どれどれ〜?」
と、一斉に湯舟敏羽のスマホを覗き込む。
そんな中、最初に声を上げたのは、ボクたちに声をかけてきた桃色の服を着た呂律の怪しい少女だった。
「あ〜、アタシ、このコ見たことあるかも〜。たしか、グリ下の頃から、ここに来てたよ〜」
「トモちん、ホントに?」
水色の服を着た少女が桃色の服を着た少女の肩を軽く抱きながら、問い詰めるようにたずねると、
「ん〜、たしか、二人でここに来てた気がする〜。これって、向陽学院の制服だよね〜」
トロンとした目付きながら、記憶はしっかりと保っているのか、トモちんと呼ばれた少女は、ハッキリとボクたちの通う学校名を告げた。
彼女たち二人の言葉に、ボクと湯舟は互いに顔を見合わせる。
「そ、それって、このコかな?」
懸命にスマホを操作して、クラスメートの画像を探し当てた相棒は、ふたたび浮き庭の住人たちに女子生徒の目撃談をたずねる。
「ん〜、もしかしたら、そうかも〜。でも、わかんないや〜、ゴメ〜ン」
湯舟自身との関係性を示しているのか、伊藤家で名前の出た
「そうか……ありがとう。最初の写真のコは、良くグリ下や、この場所に来てたのかな?」
「アタシは、毎日のようにココに来てるんだけど〜。週に1回か2回くらいだったんじゃないかな〜。制服で、ココに来るコは珍しかったから覚えてるんだ〜。でも、このコたち、夜の8時には帰ってたからな〜」
「そっか〜、やっぱり、向陽学院のコたちは、ウチらとは違うね〜。きっと、イイトコのお嬢様なんだろうね〜」
ボクの問いかけに、ロリィタ服の二人は、へへへと自嘲気味に笑いながら答えた。
仲田美幸の実家のことは良くわからないけれど、少なくとも、葛西稔梨に対してお嬢様という評価については、少し違和感を覚える。
「ちなみにだけど、このコたちが、この場所に来ていた理由って、わかったりする?」
ボクが、桃色の服のトモちんにたずねると、彼女は、可愛らしい仕草で人差し指を唇の端に当てながら、
「う〜ん、話したことないから、わかんない」
と言って、キャハハと笑う。
それにつられるように、オミちんの方が言葉を継いで答えた。
「まあ、自分らで言うのもなんだけど、ココに来るコたちって、多かれ少なかれ、家や学校に問題を抱えているコが多いからさ。お嬢様にはお嬢様なりの悩みがあったんじゃないの? その辺りのことは、友だちの方が良く知ってると思うけど?」
その一言は、葛西稔梨の知られざる一面を知ったばかりのボクたちの心に、グサリと突き刺さる内容だった。
そして、水色の服を着た少女は、気になる言葉をつぶやく。
「最近じゃ減ったみたいだけど、