亡くなったクラスメートのこともあり、叔父の口から敏感にならざるを得ないキーワードが出たことで、憲二さんをやり込めたはずのボクの気持ちも急激にクールダウンする。
「そうだね……それは、本当にそう思う。亡くなった
同級生のことを思い出し、ボクが言葉を選びながら言うと、憲二さんもすぐに反応した。
「なんだ、お前のクラスのあのコは、そんな所に遊びに行ってたのか?」
「うん、葛西の中学校時代の同級生から聞いた情報を元に、ミナミの街で情報を集めたら、目撃者がいたんだ。
「フン……生意気なこと言いやがって……それで、彼女の具体的な相手はわかったのか?」
突然、目つきが鋭くなった叔父の言葉に、ボクはフルフルと首を横に振る。
「残念ながら、そこまではまだ……ただ、葛西と一緒に
「そのコは、亡くなったコと仲が良かったのか?」
「いや、それが同じクラスだというだけのボクはもちろん、葛西の友人の湯舟も、二人が一緒に出掛ける仲だと知らなかったみたいなんだ」
「なんだ、そりゃ? 怪しいな」
「うん、それに県外のことだから、憲二さんの管轄外だとは思うけど……あの辺りには、10代の女の子にコナをかけて、大人相手のウリをやらせる人間が居るってさ」
ボクの言葉に、憲二さんは「なるほどな……」とつぶやいたあと、吐き捨てるように言った。
「まあ、彼女たちと同じ年代のお前に言うことじゃないが、さもありなんという感じだ」
「もし、葛西たちが、そういう事件に巻き込まれていたなら、県警が捜査するの?」
「いや、容疑者が県内の人間なら、管轄は府警じゃなくて、こっちになるがな……被害者との決定的なつながりが見つからない限り、
「そっか……そうなんだ……」
落胆して返答すると、憲二さんは、さっきまでの鋭い視線をやわらげて、ボクを諭すように言う。
「まあ、そう落ち込むことはない。亡くなったコの人間関係が明らかになるだけでも、捜査としては進展と言えるしな。他に気づいたことはないか?
なにかを意識しているのか、
「そうだね。今日、ミナミの街に出掛ける前に、葛西のお通夜に行ってきたんだ。お葬式は明日らしいけど、彼女の家には、白と黒の垂れ幕の他に、ウチの学校の教師一同と理事長から、葬儀用の大きな花輪が届いていた」
「ほう……それで?」
「それだけじゃなくて、ウチの担任の他に、学院の理事長と理科の斎藤先生も、葛西の家に来てたんだ」
「ふむ……担任だけじゃなくて、理事長や理科の先生まで、亡くなった生徒の通夜に来ているのはおかしい、と耕史は思ってるんだな?」
「うん……葬儀の花輪を出すってのが、どんな意味があるのか知らないけど、なにか、意図があるのかな? って……」
ボクの言葉に、「そうか……」と、つぶやいた叔父は、所感を述べる。
「まあ、その話しだけじゃ、なんとも判断がつかないが、あらゆることを疑ってかかるのは、捜査の第一歩だ。推理の根拠としては突飛なモノだったが、クラスメートが自殺していない、という見立て自体はハズレていた訳じゃないしな。お前の感じ取った違和感は、頭のスミに置いておこう」
「うん、話しを聞いてくれてありがとう、憲二さん」
「いや、被害者のコと一緒にミナミの繁華街に出掛けている生徒にたどり着いただけでもお手柄もんだよ。どこから情報を仕入れたんだ?」
「さっきも言ったかもだけど、葛西と湯舟の共通の友人だよ、中学時代の。ただ、湯舟自身は、仲が良いと思っていた葛西稔梨には、湯舟も知らない一面があったみたいだ。SNSの書き込みは、多分フェイクだけど、今年になって、普通の女子高生にしては金払いが良い時期があったみたいだし……」
「ふ〜ん、事件のニオイを感じ取るには十分な材料が揃ってるわけか……けど、残された家族には伝えにくい内容だなぁ」
軽くため息をつく憲二さんに、ボクは言葉を添える。
「うん……葛西のご家族には、自殺したと伝えてるみたいだね。三浦先生に聞いただけなんだけど……」
「そうか……まあ、容疑者不詳のままであれば、起訴もままならないし、事件も自殺として処理されるだけだしな。それも間違ってはいない」
憲二さんの一言は、真相を追求したいという、探偵事務所のメンバーであるボクと湯舟に重くのしかかるものだった。