夏休み中ということもあり、葛西の葬儀に出たときの制服姿のままでクラスメートの自宅を訪れるのも不自然だということで、ボクと湯舟は、それぞれ自宅に戻って着替えてから、午後2時に
二人とも、クラスの中で
このあたりは、さすが、2年3組の中心人物と言ったところだ。
白と水色のチェック柄のトップスに、丈の短いデニム生地のスカート、トップスとお揃いの色のミュールというコーデの湯舟敏羽は、特別に目立つコーデと言うわけでも無いのに、駅前の人々の目を引いているようだった。午前中に制服姿を見ているだけに、ボクとしては、そのギャップに少し驚く。
改札口の近くで、待っていてくれた彼女に、
「お待たせ! 遅くなってゴメン」
と、声をかけると、湯舟は笑顔を返してくれる。
「ううん、大丈夫。こっちも、いま来たばかりだから」
「いや、この蒸し暑い中、ホント申し訳ない。それと、仲田の自宅を調査してくれて、ありがとう」
「クラスの女子なら誰かしら、彼女のお宅のことを知ってると思ったからね」
「さすがは、我が事務所が誇る名探偵だ」
「フフッ……褒めても、なにも出ないけどね」
そんな会話を交わしてから、二人でクラスメートの自宅に向かう。湯舟は、いつものベスパ。ボクは、久々の曇り空で蒸し暑さを感じる中、ロードバイクを全力で漕ぐ。
幸いなことに、仲田美幸の自宅は、下り坂中心の道のりの先、自転車で十数分の場所にあった。
亡くなった葛西や今日の葬儀にも参列していた伊藤敦子と違って、今日の訪問先の女子生徒は、湯舟敏羽と親しい間柄というわけではない。
当然のことだとは思うけど、緊張した面持ちで我が相棒が仲田家のインターホンを押すと、すぐに上品な雰囲気の中年女性が玄関にあらわれた。
「向陽学院2年3組の湯舟と野田です。美幸さんとお話しが出来ないかと思って、訪問させてもらいました」
湯舟が、ストレートに訪問の理由を告げると、怪訝な表情をした母親と思われる女性は、室内に声をかけ、仲田美幸本人を玄関先に呼び出しくれた。
突然あらわれたクラスメートを前に、彼女は、やや驚いた表情を見せる。それも、そうだろう。夏休みの最中に、クラス内でも、特に仲が良いとは言えない生徒が自宅を訪ねて来て、しかも、それが男女のペアなのだから……。
「午前中に稔梨のお葬式が終わったんだ」
「あ、うん……そう、らしいね」
「三浦先生から連絡が来なかった?」
「えっと……家の電話は、お母さんが受けるから」
湯舟の問いかけに答える仲田に対して、ボクも相棒の肩越しに声をかける。
「キミに聞きたいことがあるんだ」
「私に? えっと……」
「亡くなった葛西のことについてだ」
「えっ……でも……」
そう言った仲田美幸は、玄関先から一度、室内を振り返ったあと、なにかを決心するように唇を固く結んでから、
「二人に上がってもらえれば良いんだけど、
と、ぎこちない表情で答えた。
ボクと湯舟は互いに顔を見合わせてうなずいたあと、相棒が柔らかな口調でクラスメートに声をかけた。
「わかった。じゃあ、先に行って待ってるね。急がなくて良いから……ゴメンね、急に押しかけちゃって」
不安そうにうなずいた仲田美幸が玄関の扉を閉じたあと、ボクたちは、ふたたびアイコンタクトを交わす。
「それじゃ、行こうか? この辺りのワクドって、
ベスパのエンジンを掛けずに問いかけてくる湯舟敏羽に、ボクは短く応える。
「たしか、そうだったと思うよ」
「ねぇ……野田くんは、いまの仲田さんの反応、どう思った?」
仲田美幸の自宅から少し離れた場所まで愛車を手押しする相棒に、ボクはまた短く答えた。
「やっぱり、自宅を訪ねて正解だったね」
「どうして、そう思うの?」
「葛西の名前を出したときの彼女の表情を覚えている? あれは、なにか隠し事をしていて、それが発覚しそうになったときの表情だよ。一瞬、目が泳いだあとに、瞬きが増えただろう?」
「さすがは、警察官を身内に持つ優秀なパートナーね! 取り調べのときは、そういうことに注目すれば良いんだ」
「初歩的なことだよ、ワトソン君。もっとも、こういうことは、オトコのボクより、女性の方が鋭く見抜いているんじゃないかと思うけどね。でないと、恋人の浮気を見抜いたり出来ないだろう?」
ボクが少しだけおどけた口調でそう言うと、相棒は、「たしかにそうかも……」と言ってクスリと笑った。
実際のところ、こうして、仲田美幸の自宅を訪問した成果は大いにあった。
スマホを使った通話だけじゃ、さっきの表情は見られないし、仲田がボクたちを自室に招かなったのは、彼女自身が家族に聞かれては困る事情を抱えている可能性があるということだ。
はたして、ファーストフード店で、どんな話しが聞けるのだろう―――――?
ボクは、緊張しながら、国道沿いのワクドナルドに向かった。