港街の一番の繁華街でもある
憲二さんくらいの年齢の男性が着て、センスが良いと(女性に)思ってもらえる服が、どの店で扱われているかわからないけれど、衣料品を取り扱う店が並ぶこの通りなら、それなりのお店が見つかると考えたのだ。
センタープラザなど店舗が密集している商店街は後回しにして、まずは山の手側の店を見て回ろう、と計画して、喜多野方面に伸びる道を北上する。
道沿いには、比較的低い階層のビルが並ぶ中、人通りの多い交差点の一角に、周りのビルより頭2つ分は高いマンションが建っていた。
(そういえば、憲二さんは、三浦先生の住んでいるマンションがトアロードにあるって言ってなかったっけ?)
そんなことを考えながら、建物を上まで見上げ、最上階から下に向けて何階建てか数えてみる。
1…2…3…4…5…6…7…8…9…10…11…12……。
13階建てか――――――。
そんな確認をしながら、最下層の地上階のフロアに目を向けると、マンションの向こう側から、ボクが知っている人影が見えた。
(あっ、山本理事長……!)
思わず声が出そうになるのを必死にこらえながら、目撃した人物を目だけで追うと、初老と言って良いその男性は、交差点の信号を渡って、道を挟んだ向かい側の歩道を歩き、そのまま、マルハチパーキングと看板に書かれた駐車場に消えて行った。
夏休み中なのに、わずか5日ほどの間に三度も理事長に遭遇するなんて、なかなかレアな確率ではないだろうか?
ちょっと、バグを疑いたくなるエンカウント率に驚きながら、何気なく視線を街なかのマンションに戻すと、ボクは、ふたたび声を上げそうになる羽目になった。
(三浦先生!)
やはり、憲二さんが、「向陽学院の教師ってのは、良い給料をもらってるんだな。トアロードなんて、あんな街なかのマンションに住んで……」と言ったのは、ボクの聞き間違いではなかったのだ。
(どうして、三浦先生の住んでるマンションの近くに理事長が歩いているんだろう―――?)
そんな疑問が湧き上がってきて、学院の関係者が顔を出していた葛西家のお通夜や葬儀の光景を思い出し、ボクの頭の中に、さっきまで忘れようとしていた、二人のクラスメートの姿がよみがえる。
これまで、事件の翌日、お通夜、そして葬儀の日、と亡くなった
担任教師は、初老と言って良いその男性と同じく、交差点の信号を渡り、道を挟んだ向かい側の歩道を歩き出す。
(先生は、理事長とどこかに出かけるのかな?)
そう考えていると、三浦先生は、マルハチパーキングと看板に書かれた駐車場の前を素通りして、
慌てたボクは、先生に気づかれないように気をつけて向かい側の歩道に渡り、十数メートルの距離を保ちながら、彼女の後をつける。
「いつまで探偵ごっこを続けるつもりだ?」
「もうこの件は警察に任せるんだ……おまえたちがやることは、夏休みの課題と……あとは、健全な交際だけだ」
前日、憲二さんにそう忠告されたにもかかわらず、ボクは、相棒の
保護者兼叔父とクラスメートに申し訳なく思いつつ、人生で初めての尾行を行いながら、ボクはどこかでワクワク、ドキドキする感覚を味わっている自分に気づく。
少し大きめのバッグを肩に掛けている先生は、十数メートル離れた位置からでも比較的、見分けることが容易で、初体験であるこの行動も、やってみれば、さほど難しくはなかった。
私鉄やJRの線路をくぐって、センター街のセンタープラザ西館という商業ビルに入って行った先生が、エレベーターではなくエスカレーターを使ったこともあり、ボクはその姿を見失うことなく尾行を続ける。
大きめのバッグを持っている割には、特に買い物をする予定はないのか、いくつかの店舗で商品を購入することもなく見て歩きをしていて、そのまま、隣のビルのセンタープラザに移動して行った。
ここで、ボクは自分の行動を尾行から別のモノに変える決断をする。
三浦先生が、センタープラザの3階フロアに入って、最初の角を右折して海手側の通路に進路を取ったことを確認すると、ボクはダッシュして、左手の山の手側の通路に入り、そのまま、さらに隣のビルであるさんプラザとの合流地点まで駆け抜ける。そこで、折り返して、海手側の通路をもと来た方向に歩き出した。
この海側の通路は、有名なフィギュアショップやアニメグッズの販売店、ゲームセンターがある他には、先生が歩いているであろう通路から一番奥の場所にアンティークショップがあるだけなので、アニメやゲームに興味がない人間は、これらの店舗を素通りするだろう、と考えたのだ。
そして、ボクの推理どおり、先生はフィギュアショップやゲームセンターを素通りして、ボクが折り返した地点にあるアンティークショップの方向に向かって、ゆっくりと歩いて来た。
そうして、距離にして4〜5メートルの場所に、担任教師の姿を確認したボクは、思い切って、
「あっ、三浦先生!」
と声を掛けてみた。