「ええ皆々様。紳士淑女の学友方。今宵は我が学園の伝統ある舞踏会に参加いただきありがとうございます。僭越ながらわたくし、ロモラッドが代表して音頭を取らせて頂きます。……今日はオールナイトだ! 朝までエンジョイしようぜ!!」
「「「イエーイ!!!」」」
「ヘイ、ノって行こうぜ!! 吹奏楽部、ミュージックスタート!!」
「「「「イェーーイ!!!!」」」」
今日は年に数回の我が学園の舞踏会。教師連中の支配が及ばない学生の独壇場だ。
飲めや騒げやのどんちゃん騒ぎ。まあ未成年だから全員アルコールは飲めないんだけどね。
それはおいといて、今日の為に密かに練習していたマンドリンの腕を披露する絶好のチャンスだ。
見よ、私のこの華麗なマンドリングテクニック!! 吹奏楽部と奏でるハーモニーを!!
「イエェェイ!! 私の演奏に一晩中酔わせてやるぜぇ!!」
「お待ちなさい!!」
なぜかこの騒がしい会場に透き通るように響いた女の声。
全員でそちらを見ると高そうなドレスをお嬢様が一人。と、後ろに従者。
はてて? あれは誰だ?
同じステージに立っていた隣の生徒会長に話しかけて、彼女の正体を尋ねた。
「あんな人いたっけ? 何かいかにもなお嬢様と言いますか、高飛車そうなご令嬢は?」
「あ、う~ん…………。そうだ思い出した! 彼女はコッテンパー家のご令嬢で、今度うちの学園に転入してくるんじゃなかったか」
ああ、あの公爵家の! でも一つ疑問がある。
「はえ~、なんでまた今の時期に? もう夏休み入っちゃうよ」
「そのあたりの事情は知らないよ。真面目そうに見えて意外と前の学校でブイブイいわせてたとか?」
「ほえ~、確かに気の強そうな顔はしてるけど。裏じゃ公爵の御父上も手を焼くはねっ返りって訳だ。きっとお嬢様口調だって表向きで、裏じゃ五千人の舎弟に向かってオラオラ言ってるんだ!」
「そんな人に入って来られてもね、やっていけるかな? 親の権力と強面の部下をけしかけて生徒会を裏で操ろうとか考えてるんじゃないだろうか?」
「マジ? ということは、そのうちクーデターを起こして学園長を亡き者に……」
「ちょっとそこ、聞こえてますわよ!? 勝手なことをおっしゃらないでくださいまし!!」
やっべ、聞こえてしまったみたいだ。
声は通る上に耳まで良いなんて、これは厄介だぜ。
「ええっと、それで一体何の用件でございましょうかお嬢様? 見ての通り今夜はささやかながら舞踏会などをしておりまして」
「この騒ぎの何処が舞踏会ですか! 精錬された品性などまるで見当たりませんわ!! それに何ですのさっきまでの演奏は?! やたらと耳に刺さって、貴族の好む優雅さとは無縁極まりませんわ!!」
と言われても、実質若者のダンスパーティーにクラシックなんか流せるわけないじゃん。
「そう……ですか。そこまで貴族的にまずいもんですかね?」
「当たり前ですわ。このような品性の無い催しなど、到底舞踏会などとは呼べません。祖先よりの貴き一族たる我々はこのようなものなど受け入れてなりませんの。お分かり?」
「ええ、はあ、うん……そうですね。お分かりですお分かり、あ~お分かりですのん」
「ふざけていらっしゃいますの? 思うところがあるのならハッキリと言いなさい!」
「いえ別に……伝統を重んじると言えば聞こえはいいけど、結局のところ新しいものを受け入れられない生きた化石みたいな価値観だなんてそんな……」
「なんですって!!?」
あら? どうやら怒らせてしまったみたいだ。
そんなつもり無かったんだけどなぁ。
大体、今ここにいる人間は堅苦しい貴族生活から一時でも開放されたいと思ってるような、子息の出来損ないの集まりなんだけれど。もちろん私を含めて。
そう、ここは貴族の通う学園と言っても、貴族の三男坊だか四男坊だかが半ば厄介払いで押し込められるような落ちこぼれの学校だ。
そんな学校だから教師の目は厳しいし、学園の畑からスイカの一玉でもちょこっとチョロまかそうとしたら厳しいお叱りを受けるような、そんな場所なのだ。
しかし、私は諦めない。ここで引き下がってはマンドリン奏者(初めて一週間)の名折れだ。
「へへへ、冗談ですよお嬢様。まあそうかっかなさらず……いやしかしほんと真っ赤っかなお顔ですな。何をそこまで怒っているのか知りませんが、どうです? 吹奏楽部の演奏に合わせて一晩中貴族としての説法など解いてみては?」
「あ、貴女は……!! 貴族としてのあり方とはこのような場で易々と語るものではありませんわ! もう我慢出来ませんわ!! その性根を叩き直してご覧に入れます。お互いの従者同士で決闘で行きましょう。……プランセート」
誰? と一瞬思ったがその声に反応して後ろにいた従者が前に出た。
あ、こちらのイケメンさんがプラさんね。
「お初にお目にかかりますお嬢さん。私、こちらのルーゼルスお嬢様の付き人をさせていただいておりますプランセートという者。以後お見知りおきを」
そのイケメンさんは私に挨拶をすると綺麗に腰を曲げて頭を下げた。
これはこちらもきちんと答えないと、私も令嬢の端くれとして名折れだ。
「あ、どうも。私はロモラッド・ド・レモレッドです。そちらのお嬢様にはいつもいつもお世話になっておりまして」
「我々は初対面のはずですが?」
「もはや初対面とは思えない程、仲良くなる見込みがあるということでここは一つ。どうです? 当学園が誇る料理研究会の作った食事など頂きながら今後の学園生活についての話でも」
「結構ですわ。こちらのプランセートと貴女の従者で、貴族の伝統に乗っ取った決闘を行っていただきます。貴女も一流の貴族足らんとするならば、この決闘を断るなどできないはずですわ」
一流って言われても、家は三流貴族の家系なんだけど。
それとも、午前様で酔っ払って帰ってきた父ちゃんを引っ叩く母ちゃんみたいのを一流と言うんだろうか? あの人、一応隣国の王家のいとこだから。
……いや無いな。それに従者って言われてもね……。
「すいません、私の従者は今郷里に帰ってまして。呼び寄せるとなると数日掛かりますが?」
「……ぅ。うんん!! であれば仕方がありません、この場はわたくしの勝利として貴女を手始めとしてこの学校の人間に正しい貴族意識というものを植え付けて差し上げますわ」
うえ~やめてくれよぉ。チラッと周りを見渡すと私と同じことをみんな考えていたのか全員嫌な顔してる。
……仕方がない、ここは一丁ひと肌脱ぐとしよう。
「まあ従者はいませんけどね、ここは私自身が決闘に応じるということで。それでよございませんかね?」
私がそう言うと、二人は顔を突き合わせて話し合いを始めた。
「お嬢様、この場合はどうでしょうか? 流石に貴族の子息と決闘をする事など……」
「いえ、いっそここは引き受けるべきですわ」
「お嬢様!? しかしそれは……」
「この貴族の何たるかを軽んじる者どもに、真の在り方を示す為には、いっその事分かりやすい力を見せる必要があるのやもしれません。あなたがやりすぎないように手加減をすれば問題無いでしょう」
「……分かりました、お嬢様の仰せのままに。……ではロモラッド嬢、申し訳ありませんがわたくしと剣を交えていただきます」
「はいわかりました。……ヘイ! というわけで今宵のプログラムに決闘が組み込まれたぜ! みんなも是非楽しんでいってくれよな?!」
「「「イエイイエーイ!!!」」」
「だから一体何なんですのこのふざけたノリは!!?」
「お嬢様落ち着いてください!」