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第5話

 ざあざあと降り注ぐ熱いシャワーが気持ちいい。

 一体何時間セックスしてたんだろう。こんな耐久レースみたいなセックスは十代以来だ。しかも多分今までで一番よかった。

 彼との初めてのセックスのはずなのに、初めてな気がしないくらいに彼の身体は僕になじんだ。彼は男は初めてで、しかもノンケのはずなのに。

「体質? 才能? なんだろう……」

 もちろんその才能を開花させたのは僕の腕があったからだけど。腕。腕かな。どこかな。下半身かな。まあいいや。

 ノンケの子との初めてのセックスがこんなに気持ちよくなるなんて思わなかった。人生って面白い。感慨深い。僕は気分よく鼻歌を歌いながら、ボディソープで体の汚れを落としていく。

「……まあ、セフレくらいなら、ね」

 彼とはさよならのつもりだった。気になっていた子がいても、落として一晩過ごしたらおしまい。いつも一晩で満足していた。でも、ここまで身体の相性がいいなら話は違ってくる。また会ってもいい。セフレにしてもいいくらいだ。

「かわいかったしね。……かわいいし。うん。かわいい」

 彼の様子を思い出す。僕に何もかもをさらけ出して、身体中で僕を感じて、きもちよくなってくれていた。

「……かわいい……」

 バスルームの壁に、こつりと額をぶつけた。ほんの数メートル離れているシャワーだけなのに、壁一枚隔ているだけなのに、彼に会いたくなる。一緒にシャワーを浴びればよかった。死んだようにぐったりしてたから、起こすのも忍びなくてそのままにしてきてしまった。彼に早く触れたい。キスしたい。抱きしめたい。

「楓真くん……楓真」

 口の中で呟くと、それだけで幸せな気持ちになる。

 縋って来られるのは苦手だ。身体を繋げた後、次はいつ会える? と甘い声で言われると寒気がした。それをかわしてさっさとホテルを出るのに苦労した。相手が誠実なノンケならもっと執拗に追い縋ってきた。酷い目に遭った。けど、彼になら縋られても全然許せる。むしろ嬉しい。もっと一緒にいたい。そうだな、一緒に朝ご飯を食べようかな。誰かと朝ご飯を食べるなんて、一体何年ぶりだろうか。

 会社ではガードが固くて無口な彼の身体が、あんなに饒舌でエッチだなんて誰が信じるだろう。世界で僕しか知らない秘密だ。あの子の秘密。なんて幸せなんだろう。

「かわいかったな……ふふふ」

 ボディソープが沁みるな、と思ってふと腕を見ると、噛み傷ができていた。いつの間にか彼に噛みつかれていたらしい。

 何故かわからないけど嬉しくて愛しくて、僕は噛み傷に唇を寄せた。


「楓真お待たせ。バスルーム先に使わせてもらったよ。ねえ朝ごはん……楓真? ……楓真くん……?」



 僕がバスルームから出ると、楓真くんの姿はどこにもなかった。

 楓真くんの服も、ネクタイも、なにもかも。




 脱ぎ捨てられた服があったはずの場所で、僕は呆然と佇んだ。

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