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絶望社畜だった俺が、システムで好感度を稼いで逆転人生を歩む件
絶望社畜だった俺が、システムで好感度を稼いで逆転人生を歩む件
ゼロワン
現実世界現代ドラマ
2025年06月30日
公開日
3万字
連載中
ブラック企業で心も身体もボロボロになり、死の淵を彷徨っていた上杉 徹(うえすぎ とおる)。 だがその瞬間、脳内に謎のシステムが起動した——『好感度システム』。 美人に近づくと、数値が上がる? 生死をかけたピンチで好感度が爆上がり? 攻略対象は、冷酷な女上司、癒し系ナース、そして命を狙ってくる美しきアサシンまで……? 戦闘も恋愛も、生き残るには「好感度」がすべて!? 絶望の底から這い上がる社畜が、数値と修羅場の海を泳ぎ抜け、逆転人生を掴み取る! これは、最底辺社畜が「好感度」を武器に成り上がる、ちょっと危険で、やたらと美人に囲まれる物語——!

第1話 地下通路の邂逅

新宿駅、午前一時の地下通路は、まるで死体安置所のように冷えきっていた。


上杉徹は、書類でパンパンに膨れた安物のビジネスバッグを手に、ふらつく足取りで歩いていた。

三年間着続けた紺色のスーツは肘の部分がテカテカになり、汗と安っぽいプリンターのインクが混ざったような酸っぱい臭いを放っている。


残業、また残業。これで三十一日連続だ。


徹の体はすでに何度も警報を鳴らしていた——動悸、目の前が真っ暗になり、耳鳴りは蜂の群れのよう。

足元の冷たく湿ったタイルはまるで磁石のように、彼の足裏を引っ張る。

脳内には焼けた鉄の塊でも詰め込まれたかのような熱と重さがあった。


なんとか一歩前に出た彼は、隣のステンレス製手すりを掴もうとした。

だが指先に滑って冷たい感触が伝わった瞬間——

世界が傾き、崩れ、漆黒の闇が襲いかかった。


意識は闇の中を漂っていた。頬に触れるのは冷たくざらついた地下のタイル。

埃、雨水、靴底の泥、そしてかすかに吐瀉物のような酸っぱい臭いが混ざり合っている。


「おい? 聞こえるか?」

ぼんやりとした声が遠くから届いた。


もうどうでもいい……このまま……

徹は自らを、より深い闇の中へと委ねようとした。


《コア起動中……対象番号47番の実験体と生命特性が一致……》


感情の一切を排した、電子ノイズのような声が突然、容赦なく彼の頭の中を突き破った。


《エネルギー閾値が不足……強制的に“好感度システム”を起動します……緊急エネルギーを消費して起動中……

ユーザー登録:上杉徹……登録完了》


徹は思わず大きく息を吸い込んだ。冷たい空気が喉を刺し、肺を焼いた。

激しく咳き込み、水中から這い上がるように激しく身を起こす。

肘と膝がタイルに当たって痛い。


揺れる視界がようやく安定したとき、彼の目の前に現れたのは、一本の長く真っ直ぐな脚。

透け感のある高級そうなストッキングに包まれている。


徹の視線はゆっくりと上がっていく。

体にぴったりと合ったチャコールグレーのスーツパンツが、引き締まった太もものラインを強調している。

同じ色のウエストを絞ったジャケット、その深いV字の胸元からは、アイボリーのシルクがちらりと光る。

ふくらみを押し上げるようにシャツが張っていた。


そして彼は顔を見た。


冷たい通路の照明の下、その肌は上質な磁器のように滑らか。細い銀縁メガネが知性を宿し、

栗色の緩やかにカールした長髪が頬とメガネの縁にかかっている。

口元は濃い色で、どこか事務的な冷たさを帯びていた。


彼女はわずかに首を傾けて、徹を見下ろしていた。

その視線には、明らかに評価と、ほんのわずかな、上から目線の……苛立ち?


「手を貸しましょうか、上杉君?」


声は落ち着いていて澄んでいるが、脳内に響いた電子音と同様、まるで温度を感じさせなかった。


彼女は、小野理恵課長——就任してまだ二週間の、第三営業課の新しい上司。社内で“鉄の処女”と呼ばれている人物だった。


入社三年の徹にとっては、数回の全体会議で遠くに見ただけの雲の上の存在。

まさか、彼の名前を知っていたとは?——いや、ネームプレートが胸にある。


慌てて立ち上がろうとするも、膝がガクッと崩れ、また倒れそうになったその瞬間、

バラ色のマニキュアを施した手が、しっかりと彼の腕を支えた。


スーツ越しでも感じるその手の温もりと、冷たくも圧のある気迫。


「かなり状態が悪そうですね。救急車を呼びましょうか?」

まるでテンプレートのような言い回しだった。


徹は全力で体勢を立て直し、荒れ狂う心拍を抑えようとした。だが、その耳に別の音が割って入る。


《対象確認:Aランク初期ターゲット:小野理恵(28歳)。立場:ユーザーの現上司。初期好感度:10ポイント(基礎情報認識)》


徹はまばたきを強くし、幻覚を払った。


「す、すみません課長! ぼ、僕は大丈夫です! ちょっと、疲れてただけで……!」


彼は深々と頭を下げる。だがその勢いで視界が再び暗転しかけた。


理恵はその謝罪には応じなかった。

彼女の視線は、徹の青白い顔、深いクマ、そして胸に抱きかかえたボロボロのビジネスバッグを見下ろしていた。


徹は思わずそれを背中に隠した。


「丸山工業のレポート、ですよね?」

静かな声が、限界を超えた徹の神経を打ち鳴らす。


「明日、いや今日の午前十時の部長会議で使うって話だったはず。

締切は昨夜の七時でしたよね?」


彼女は手首の高級腕時計をちらと見た。「もう一時を過ぎてますよ、上杉君。」


徹は凍りついたような絶望に襲われた。

あの報告書だ! 昨夜の十時にデータモデルが全部崩れて、ほぼ作り直しになったやつ!

こんな状態の脳みそで、どうやって直せっていうんだ!?


「は、はいっ! 本当に申し訳ありません! い、今から家で直して……」

声はカラカラに乾いていた。


理恵は無言のまま彼を見つめていた。

その無言が、徹の心をさらに締めつける。


その時、数メートル先で電車の到着音が轟き、すべての音をかき消した。


機械油の匂いを含んだ突風が通路を吹き抜け、理恵の身体を叩いた。

きっちり整えられた栗色の髪が風に舞い、頬やメガネをなでていく。


その風を受けて、彼女はほんの少しだけ顔をそらした。

そのささやかな仕草が、冷たい印象をわずかに和らげた。


その一瞬、徹の視線は彼女のジャケットの襟元の隙間、鎖骨の下をとらえた。


米白のシルクシャツの奥に、わずかに覗く繊細なレースの縁取り——一瞬のきらめき。


風が止み、電車が到着し、騒音が遠ざかる。


理恵は再び背筋を伸ばし、メガネの奥の視線は再び冷たく鋭くなった。

まるでさっきの優しさが錯覚だったかのように。


彼女はもう徹を見ることなく、ただ冷たく言い放つ。


「午前十時。机の上に提出してください。遅れるなら、来なくていいです。」


そのまま、高いヒールの音を響かせながら、一直線に歩き去った。

前方のホームに降りてきた人混みの中に、彼女の姿は吸い込まれていった。


「午前十時……」


徹はまるで死刑宣告を反芻するようにその言葉を繰り返し、

鉛のように重たい足を引きずりながら、人の流れに乗って乗り換えホームへ向かっていく。


帰る家なんて、もうない。

都内の郊外にある、十平米にも満たない、ベッド以外は何も置けない、家賃が一ヶ月滞納中の“ハト小屋”があるだけだ。


今すぐ静かな場所が必要だ。

とにかく、あのクソみたいな報告書を直さないと!


徹は改札を逆流し、足を向けたのは——恵比寿駅の出口正面にある、二十四時間営業のファミリーマート。


そこならコンセントがあり、照明も明るく、誰も徹夜で働く負け組社畜なんて気にしない。


《ヒント:宿主の初期好感度ポイント:100。

スキル抽選ルーレットの使用を推奨。現状打破の成功率を最適化します。ルーレットの起動には50ポイントが必要です。》

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