東京大学卒、エリート――それが周囲が私につけたレッテルだ。
だが今、私は冷たい床に額をこすりつけて土下座し、星野黎子が吐き出した汚物を両手で受け止めていた。
「ほら、星野家の忠実な犬ってところか。」
かつての同級生が、露骨な軽蔑を込めて言い放つ。「金のために、プライドも何も捨てたんだな。」
「東大の名が泣いてるわ。ペットに成り下がって、まだ自分に誇りがあるの?」
そんな噂は、すでに実家にも届いている。
かつて私を誇りに思っていた親戚たちは、今や私を恥じている。必死に勉強してきた学生時代も、結局は金持ちに媚びへつらうだけの犬になるためだったのだと思われている。
でも誰も知らない。私がここにひざまずいているのは、病院のICUから毎日届く、目もくらむような金額の請求書があるからだ。
妹の命は、冷たい医療機器につながれて、秒単位で金が消費されていく。
星野黎子は、まるで使い勝手の良い道具を見るような目で私を見下ろしている。
真っ赤な唇から、冷淡な声が投げつけられる。「森川健太、星野家を離れたら、あなたなんて誰も必要としないわ。私以外に、あなたなんて誰も欲しがらない。」
私は目を伏せ、込み上げる嫌悪を隠した。
もうすぐだ。
私を屈辱のどん底に縛り付けた人身契約も、残りわずか一ヶ月。
・・・
深夜のクラブは騒がしく、星野黎子は女王のようにVIP席の中央を占め、取り巻きたちに囲まれている。
派手なスーツの男が彼女の肩を抱き、グラスを掲げて声高に叫ぶ。「黎子、誕生日おめでとう!今夜の会計は全部俺が持つ!」
星野黎子は鼻で笑い、男をぞんざいに押しのける。「その程度の金で、私にいくつ酒を奢れるっていうの?」
彼女の視線が鋭く私を捕える。真っ赤なネイルを塗った指先が無造作に私を指した。「そこのあなた、こっちに来なさい。」
私はすぐに立ち上がり、人混みを抜けて彼女の足元にしゃがみ込む。背中は自然と卑屈な弧を描いた。
「手を出しなさい。」
言われるままに手を差し出す。ぼんやりとした照明の下、掌のしわがくっきりと浮かぶ。
「ふん!」
唾が熱く、粘り気をもって私の手のひらに落ちる。
続いて、真っ赤な火が近づいてきた――星野黎子の指先の細いタバコだ。
熱い吸い殻が唾の上に押し付けられ、皮膚が「ジッ」と音を立てて焼け、鋭い痛みが走った。
「もういいわ、消えなさい。」彼女は軽く命じる。まるでハエでも追い払うように。
「かしこまりました。」私は何事もなかったかのように答え、その場を離れた。
この三年、これ以上の屈辱は何度も味わった。もう感覚も麻痺している。
手洗い場で冷たい水に手をさらし、汚れと火傷の跡を落とそうとする。
席に戻ると、迎えたのは嘲笑だった。
「お、犬が戻ったぞ!」
「さあ見せてもらおうか、お前がどこまでみじめになれるか。」
毒のある視線が針のように突き刺さる。
私は黙って蔑みを浴びながら、再び星野黎子のそばに立つ。
「星野専務、そろそろお時間です。」私は小声で告げた。
だがその言葉は、鋭い怒鳴り声でさえぎられる。「下衆が!私のことに口出ししないで!」
星野黎子は手近な硬いカードをつかみ、私の頬を激しく打った。
「行って!私のために部屋を取ってきて。今夜は帰らないから!」
カードの縁が頬骨をかすめ、赤い痕が残る。
「かしこまりました。」私は床に落ちたキャッシュカードを拾い、クラブを後にした。
隣は星付きホテルだ。
チェックインを済ませ、部屋のカードキーを手にした瞬間、星野黎子から電話がかかってきた。
「部屋番号を送って!」
「はい。」
「入口で待ってなさい!動いたらただじゃおかないから!」
「承知しました。」私は機械的に答えた。
この三年、私は彼女の命令に一度も逆らったことがない。
十分後、星野黎子がやってきた。
足元はおぼつかず、さっきの男にしっかりと寄り添っている。
男は彼女の腰に腕を回し、戦利品を見せびらかすような目で私を見下ろした。
「はは、素直なもんだね。待てと言われたらちゃんと待つ、うちのドーベルマンよりもお利口だ。」
星野黎子も冷ややかに私を横目で見て、唇を意地悪くつり上げる。「この人、私の家を出たら、もう犬にもなれないわよ。」
ふたりは好き勝手に嘲笑しながら、私を気にも留めず部屋へ入っていった。
男が足でドアを開け、ふたりは口づけを交わしながら中へ転がり込む。
私は背を向け、室内から漏れる甘い気配を遮断しようとした。
だが突然、重いクラッチバッグが後頭部を直撃した。
「今夜はここで見張ってなさい!一歩も動かないでよ!」
星野黎子の声がドアの隙間から響く。命令は絶対だ。「明日の朝、ここにいなかったらお父様に言いつけるわよ!どうなるか、分かってるでしょうね!」
心が冷たく沈む。「星野専務、ですが私は……」
「バタン!」
重い扉が目の前で閉まり、言いかけた言葉も閉ざされた。
――だが私は、病院に行かなければならない。あの無意識で眠り続ける妹のそばを離れられないのに。
彼女は雲の上の人間。泥にまみれる者の苦しみなど、決して分かるはずがない。
夜ごと、私は消毒液の匂いが漂う病室で妹の青白い顔を見守り、昼は星野グループという巨大な組織で、彼女の代わりに雑務をこなしている。
星野黎子の父――私の人身契約にサインした星野崇も、私を会社という歯車に固定しているだけで、娘が勝手なことに使うのを許すはずがない。
三年前、一枚の契約書が私の人生を縛った。
甲:星野グループ会長 星野崇
乙:森川健太
金額:日本円200万円
期間:三年
条項:乙は星野崇の娘・星野黎子に対し、絶対的な忠誠を誓い、いかなる命令にも従い、すべての要求に応じ、その身の安全と名誉を守ること。契約期間満了まで。
要するに、200万円で三年間、奴隷として尽くす契約だ。
妹が事故で手術室に運ばれたとき、あの「命の保証金」と引き換えだった。
だが、200万円では妹は三年間、目覚めぬまま病床に横たわり続けることしかできなかった。
千日以上、私は病院の付き添い用ベッドで身を縮め、星野黎子の屈辱に耐えてきた。
疲労と恥辱が重くのしかかり、息もできないほどだったが、不満を口にしたことは一度もない。
もういい。
私は思考を振り払い、気持ちを切り替える。
あと三十日。
三年間の「忠誠」は、すでに使い果たした。
星野黎子への借りは、これで終わりだ。もう、貸し借りはない。
彼女が投げつけてきた高価なバッグはホテルのフロントに預けた。
車に乗り込み、エンジンをかけ、闇夜の中へ走り出す。
バックミラーに、あの明るく灯るスイートルームが遠ざかっていく。
ハンドルを切り、私は街の反対側、灯りの消えないあの病室へと急いだ。