美月は半信半疑で首をかしげながら答えた。「まさか…でも、あの人、すごく落ち着いてるし、あんまり笑わないし、ホストってもっと明るくてノリが良いイメージじゃない?さっき、悠ちゃんが呼んだホストたちが『お姉さん!』って声を揃えていたの、ちょっと気持ち悪かったけど…」
思い出すだけで、美月は小さく身震いした。服装こそ似ているけれど、あの男のスーツは明らかに高級そうだし、背が高くてスタイルも抜群だ。何より、彼からはホストのような媚びた雰囲気が全く感じられず、むしろ近寄りがたい冷たさが漂っていた。
美月は小声で呟いた。「もしホストだったら、たぶん業績悪いだろうな…お金持ちの女性って、甘い言葉が得意な可愛いタイプが好きでしょ?彼が横にいたら、部屋の温度まで下がりそう…」
悠は聞き取れず、「何か言った?うるさくて全然聞こえないよ!ほら、飲もう!」とグラスを差し出した。
美月は気乗りしない様子で、「悠、もう疲れちゃったし、帰ろう?」と頼んだ。
悠は美月がまだ誠司のことを引きずっていると思い、再び怒りがこみ上げた。
「あんたがイギリスに行ったときもムカついたんだよ!あのくそ野郎、イギリスに家があるくせに、泊めてくれなくて、毎回ホテル取らされたし、それに、水野と一緒になってたなんて、本当最低!」
当時、美月は誠司が自宅に泊めることを避けていた理由が、そこに水野を隠していたからだとは知らず、彼が気を遣ってホテルを手配してくれたと思っていた。今振り返れば、すべてが自分の愚かさをあざ笑うかのように感じられた。
胸の奥がきゅっと痛み、美月の表情が沈んだ。「悠ちゃん、本当に帰りたいの。」
悠はそれ以上言うのをやめ、美月の手を取って優しく励ました。「分かった、無理しないで。別れてつらいのは仕方ないけど、これで良かったんだよ!長引くより、さっさと終わった方がマシだよ!」
「それに、九条家の御曹司が帰国したばかりで、お披露目パーティーがあるんだって、東京のセレブたちが集まるみたい、なんとかして招待状を手に入れてあげるよ。美月には、霧島誠司なんかよりずっと素敵でお金持ちな男性を見つけてあげる!」
美月は九条家の御曹司には全く興味がなく、悠の慰めの言葉を軽く流した。二人は早めに店を後にした。
――
一方で、個室では、九条司が三十分ほど席を外してから戻ってきた。
拓海は不思議そうに、「まさか、逃げたんじゃないだろうね?酒を飲まされるのが嫌?」と冗談を言った。
「ちょっと空気が悪かったから、外で少し休んでただけだ。」九条は答え、席に着くとグラスを手に取り軽く口をつけた。多くを語らず、周囲の会話に耳を傾けていた。そのうち、何気ない口調で切り出した。「霧島誠司、もうすぐ結婚する?」
一瞬、個室の空気が止まり、誰かが答えた。「ああ、来月の八日だ。俺も招待状もらった。」霧島家は東京でも新興の財閥で、その場の誰もが霧島誠司のことを知っていたが、どこか軽くあしらうような口ぶりだった。
「相手は小早川家のお嬢様らしいけど、小早川家が昔みたいに安泰だったら、霧島も逆玉だったのにな。」
「今や霧島家の方が勢いあるし、小早川家のお嬢様のことももう相手にしてないんだろう。」
「結婚前から愛人囲ってるの、ここだけの話じゃないでしょ?」
「あのお嬢様は後ろ盾もないし、あんな仕打ちされてもどうしようもない。」
「学生の頃から、霧島誠司に夢中だったし…恋愛馬鹿だったんだよ。」
九条司は静かに話を聞きながら、指先で無意識にグラスの縁をなぞっていた。拓海がそっと身を寄せて、「霧島家に興味があるのか?」と小声で尋ねた。
「イギリスで何度か会ったことがある。」司は淡々と答えた。「最近、モリトウグループが新しいプロジェクトを始めたらしい。モリトウグループや霧島誠司について、詳しく知りたい。」
拓海はすぐに察して、「分かった、モリトウグループの動きがあったら、すぐ知らせる。」九条がモリトウグループの事業に興味を持っているのだと理解したようだった。