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第5話 絶縁

美月がホテルに戻って間もなく、スマートフォンが鳴った。画面には「叔母 小早川華子」の名前が表示されている。どうせまた兄、哲の仕事のことでしょ、と分かっていても、電話は何度もしつこく鳴り続けた。仕方なく応答すると、いきなり叔母の大きな声が耳を打った。


「どうして電話に出ないの!心配したじゃないか!何かあったんじゃないかと思って!」


「ちょうど手が離せなかったの。何か用?」美月は冷静に答えた。


予想に反して、叔母は仕事のことには触れず、「しばらく帰ってきてないでしょう。明日、家でご飯でも食べていきなさい」と言った。


「最近忙しいから、また今度」と美月はそっけなく答え、電話を切ろうとした。


慌てたように叔母が言葉を重ねる。「ちょっと待って!大事な話がある。昨日、家政婦が物置を片付けてて、あなたのご両親の昔の写真が出てきたの。都合のいい時に……」


美月は一瞬息を呑み、すぐに遮った。「明日帰ります。」


翌朝、美月はタクシーで小早川家の郊外にある別荘へ向かった。ドアを開けると、リビングのソファにはきっちりと四人が並んで座っていた。叔父の健司、叔母の華子、兄の哲、そして妹の蕾。家族会議というより、まるで裁判のような雰囲気だった。


美月は彼らの態度にはもう慣れっこだった。単刀直入に切り出す。「写真は?」


叔母すぐに立ち上がり、詰め寄るような口調で言った。「最近、家に全然帰ってこないじゃない。大学に受かったらすぐに出て行って、それっきり!」


蕾が鼻で笑って言う。「今やもう上流階級の仲間入り。お金持ちのお嫁さんになるんだから、私たちなんて眼中にないんでしょ。」


美月は冷たい目で彼女たちを見渡す。「私を家族扱いしなくなったのはそっちでしょ。あの日、受験の日から、私たちはもう家族じゃない。」


受験の話が出ると、蕾の顔色がさっと変わり、他の三人もどこか目を逸らした。美月は皮肉な笑みを浮かべた。この家の人たちは表向きは家族でも、それぞれ自分のことしか考えていない。


両親が亡くなった後、叔父たちに養われていたとはいえ、必要最低限しかしてくれなかった。叔母は哲や蕾にはブランド品を買い与えても、美月には安物ばかり。靴が足に合わなくて痛くても、ボロボロになるまで我慢させられた……。ずっと耐えてきたけど、受験のあの一件が決定的だった。


叔父が場をなごませようと口を開く。「美月、あれは誤解だったんだよ。もう何年も前のことだし……」


叔母もすぐに同調する。「そうよ、家族なんだから、いがみ合っても仕方ないでしょ?」


美月は取り合わず、「写真をください」ときっぱり言った。


彼女が全く動じないのを見て、叔母のわずかな後ろめたさは一瞬で怒りに変わった。


「帰ってきていきなり写真って何よ!本当にこの家の一員だと思ってるの?もし私たちが引き取ってなかったら、今ごろ施設行きだったんだから!何年も世話してきて、感謝もせずに恩知らず!」


美月は手を握りしめ、呆れるしかなかった。


「恩は忘れていません。できる範囲のことは協力します。でも、お兄さんをモリトグループに入社させるのは無理です。どうしても入りたいなら、自分で公式サイトから応募すればいい。彼の実力なら、頑張れば可能性はあるでしょう。」


叔母は美月の鼻先を指差して、「結局、助ける気がないだけでしょ!そんな簡単なこと、あんたが一言言えば済むのに、なぜ哲に面接を受けさせるのよ!」


蕾も皮肉たっぷりに言う、「どうせ誠司さんの言うことしか聞かないんでしょ?みんな知ってるよ、誠司さんは水野さんしか見てないって。来月の結婚式だって、なくなるかもね!」


美月は彼女を見つめ、ふっと笑った。「その通りよ。結婚式は中止になった。私から断ったの。」


「嘘ばっかり!」蕾は鼻で笑う。「あんたが誠司さんのこと大好きなの、誰だって知ってる。自分から式をやめるなんて、絶対ありえない!」


美月は肩をすくめ、もう何も言わなかった。黙れば黙るほど、嘘だと決めつけてくる。だが、叔母は少し信じた様子だった、それは以前電話で話したことがあったからだろう。


「あなたが何かしくじったんじゃないの?もうすぐ結婚式なのに、こんな時にわがまま言って……」叔母は眉をひそめた。


蕾は面白そうに言う、「本当に誠司に捨てられたの?」


美月は疲れきった声で言った、「私のことは放っておいて。写真だけください。」


叔母は諦めず、「本当にどうかしてるわね!まだうちの娘気取り?小早川家はもう終わったのよ!霧島家と縁が持てるなんて、あんたじゃなくても夢のような話なのに。幼い頃の婚約がなかったら、誠司みたいな男があんたに回ってくるわけないでしょ!今すぐ謝りに行ってきなさい!」


蕾も嫉妬を隠さずに同意する、「そうよ、霧島家は今絶好調なんだから、他にもっといい人なんて見つからないよ。誠司は水野が好きでも、結婚する気はないんだし、あんたは満足してなきゃね。」蕾は昔から誠司に片想いしていて、美月が自分より美人で成績もよく、人気があることをずっと妬んできた。


美月は冷たく「もういい?誰と結婚しようが私の自由だ。あなたたちには関係ない。今日来たのは、写真をもらうためだけ。」と一言だけ言った


叔母はしつこく、「写真は後にして、まず誠司とのことを……」


美月は完全に心が冷えきった、「結局、写真なんて最初から無かったんでしょ?私を呼び戻して、お兄さんの就職の話をするためだったのね。ついでに私に説教も。」


リビングには重苦しい沈黙が流れた。答えは明白だった。美月は皮肉な笑みを浮かべ、踵を返して歩き出した。


玄関まで来たところで、蕾が突然追いかけてきて腕を掴んだ。「待って!まだ言うことがあるの!」


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