誠司がグループのチャットで悪口を書き込んだ瞬間、それはまるで水面に投げ込まれた石のように、瞬く間に波紋を広げた。
チャットのスクショはウイルスのように拡散していった。暇を持て余した裕福な若者たちは、普段から無駄遣いやゴシップを楽しんでおり、こんな刺激的な「インサイド情報」をシェアしないわけがなかった。
わずか10分も経たないうちに、下品なチャットのスクショは数えきれないほどのチャットグループに広がり、その内容が悠のもとに届いたとき、彼女の怒りは一気に爆発した。
悠はすぐに知人を通じて誠司のグループに招待してもらい、グループに入ると、真っ先に誠司を名指しして激しく非難を浴びせ始めた。怒りを込めたメッセージやボイスメッセージを次々と送り、他の人が1件送る間に、悠は7、8件もメッセージを送る勢いだった。
誠司は突然の猛攻撃に全く対応できず、反論しようとしたその瞬間、悠の新たな「砲撃」が始まった。結局、彼は何も言い返せず、みじめに悠をグループから追い出すことになった。
怒りが収まらない悠は、すぐに美月に電話をかけて訴えた。
「誠司なんて、本当に最低!口を開けば悪口しか言えないんだから!」
「役立たずの方がよっぽどマシよ!陰で人の悪口言うしか能がないくせに!」
「あんな奴と清夏はお似合いよ!神様もちゃんとゴミ回収してくれたわ!」
美月はあまりの大声に、思わずスマホを耳から離した。
「落ち着いて」― 本来なら被害者であるはずの美月が、逆に悠をなだめる番だった。「あんな人、他人を傷つけることしかできないのよ。気にしすぎて体調を崩したら損するだけ。」
悠は少し冷静になったものの、まだ怒りは収まらなかった。「しかも今度は自分が被害者みたいなボイスメッセージまで送ってきて!本当にムカつく!」
美月も誠司の中傷には腹が立ったが、感情を抑えて冷静に考えを巡らせていた。
「まずは落ち着いて。もうこれ以上直接やり合わない方がいいわ。」
「無理よ!」悠はきっぱりと言った。「何とかしてあのグループに再度入り込んで、徹底的にやり返してやるんだから!」
誠司に個別メッセージを何通も送ったが、完全に無視されていた。グループで公然と責めない限り、彼は逃げ続けるだけだ。
電話口の悠は今にも乗り込んでいきそうな勢いだったが、美月は急いで止めた。「感情的にならないで。むしろ、もっと言わせておいたほうがいいのよ。」
「何言ってるの?あのグループ、ますますひどくなってるのよ?!通報して潰してやりたいくらい!」
悠が送ってきたスクショをすべては見ていなかったが、目を通しただけでその内容がどれほど悪質かは分かった。
美月は怒りを抑えながらも冷静に言った。「グループはそのまま残しておいて。もっと言わせておけばいい。」
「それで我慢できるの?」
「証拠が必要だから。」と美月。「グループの中に、信頼できてスクショを撮り続けてくれる人はいる?」
「いるよ!」悠は少し誇らしげに答えた。「私が仕込んでおいたスパイがいるから、誠司は気づいていないわ。」
「じゃあ、その人に私に関する中傷をすべてスクショしてもらって。」と美月は真剣な表情で言った。
悠はすぐに意図を理解した。「任せて!」
電話を切った美月の目には、決意が宿っていた。
誠司は自分より強い相手には口をつぐむが、弱い相手を見つけると好き勝手に中傷している。
美月は嵐に一言声をかけ、仕事を早めに切り上げた。まっすぐ家には帰らず、記憶を頼りにオフィス街の法律事務所を目指した。
誠司がここまで好き勝手に中傷しているなら、その代償をきっちり支払わせなければならない――。
法律事務所に着いた時には、すでに午後4時半を回っていた。受付で「今日はもうすぐ業務終了で、今は弁護士が対応できないので、また日を改めてください」と言われてしまった。
美月はこのまま帰るわけにはいかず、別の事務所かオンラインでの相談を考えながらその場を離れようとした。
「小早川さん?」背後から少し驚いたような男性の声がした。
振り返ると、スーツ姿でカバンを持った男性がエレベーターから出てきたところだった。数秒見つめて思い出した。「西田翔太さん?」
「はい、僕です。」西田翔太はにこやかに近づいてきた。「どうかされましたか?」
「西田、弁護士なんですね。」美月は彼が大学時代から法学部だったことを思い出した。「ちょっと相談したいことがあるんだけど、タイミングが悪かったみたい…」
西田翔太は時計を見てから「ちょうど今終わったところですけど、よかったら私が相談に乗りますよ。」と案内してくれた。
「本当ですか?助かります!」このタイミングで昔の知り合いに会えたことで、美月は少し安心した。
会議室で、美月はスマホを差し出した。「ネットで、私のことを根も葉もないことで中傷している人がいます。訴えることはできますか?」
西田はスクショをじっくり見て、険しい表情になった。
「これはひどい……。全部が事実無根だと証明できれば、もちろん訴えられます。名誉毀損にあたりますし、民事だけでなく、刑事でも責任を追及できます。」
彼は美月を真剣に見つめた。今まで同じような被害を受けた人は多く見てきたが、これほど冷静に毅然としている人は珍しい。
さらにグループ名や投稿者の名前を見て、驚きを隠せなかった。「リーダーは……誠司ですか?」確かに大学時代、美月には婚約者がいて、二人の関係は良好だったと聞いていた。
しばらくして「誠司」という名前を見て、まさか今、彼女を中傷している中心人物がその誠司だとは思いもしなかった。
「もう別れました。」美月は淡々と答えた。「浮気したのは向こうの方です。別れてからは、ずっと嫌がらせを続けてきて……」
美月がすでに別れていると知り、西田は少し表情を引き締めた。「この証拠をすべて送っていただけますか?手続きを進めていきましょう。」
「今もまだ誹謗中傷が続いています。追加のスクショが必要ですか?」
「もちろん、集められるだけ集めてください。証拠が多ければ多いほど、裁判で有利になります。」
「分かりました。」美月の目には、強い決意が宿っていた。
反撃は、もう始まっている——