二日後、美月は無事に退院した。
その頃、霧島家はすでに誠司と清夏の婚約を正式に発表していた。
その知らせを聞いても、美月の心は穏やかだった。むしろ、心の中でそっと二人の幸せを願った。
退院後の数日間は、九条グループの弁護士チームと連絡を取り合い、瑠奈がかつて学校で行ったいじめの証拠を集めていた。
この日、美月は九条グループの弁護士とカフェで会う約束をしていた。
弁護士は言った。「現在、瑠奈さんは警察に勾留されていますが、供述だけでは難しいです。当時の目撃者が見つかれば、かなり有利になります。」
昔のクラスメートとはほとんど連絡が途絶えていたが、一人だけ数年来ずっと繋がっている相手がいた。それこそが、今日弁護士に相談したいことだった。
「当時、小林雅子という同級生がいました。彼女は瑠奈に脚を折られ、熱湯を飲まされて喉を火傷し、今も声が元通りになっていません。」
「彼女の家は経済的に苦しかったので、佐藤家からお金を受け取って東京を離れました。でも私はずっと連絡を取り合っていて、時々支援もしていました。きっと証言してくれると思います。」
「それは助かります!」と弁護士。「彼女の連絡先をこちらにいただけますか?私たちの方で連絡を取り、東京に来てもらえるよう手配します。証人として出廷できるかどうかも確認します。」
「大丈夫です。昔住んだマンションはまだ借りたままなので、彼女が来たらそこに泊まれます。」
美月は小林雅子と連絡を取ってはいたが、もう何年も直接会っていなかった。
もともと内気だった彼女は、今では障害も抱え、さらに人付き合いを避けるようになっていた。だからこそ、説得は弁護士に任せるつもりだった。
瑠奈はすでに拘留されている。あの時の証人さえ見つかれば、きっと責任を取らせることができるはずだ。
美月は他の同級生にもコンタクトを取り、証人を探し続けていた。
一方、拘留された瑠奈は、佐藤家が雇った弁護士に早く会いたくてたまらなかった。
「証拠もないのに、どうして私を勾留するの?もうこんなに時間が経ったら釈放されるはずじゃないの?なんでまだ出られないの?」
二日間閉じ込められ、瑠奈は焦りと苛立ちを隠せず、弁護士と会ったときにはほとんど取り乱していた。
弁護士はなだめるように言った。「落ち着いてください。お父様が外で何とかします。しばらくはここで大人しくしていてください。数日したらまた状況を伝えに来ます。」
「分かったわ。」
瑠奈は勾留されていても、本当の意味で恐れてはいなかった。
何年も前のことだし、美月が訴えても証拠が見つかるはずがない。佐藤家なら自分を救い出せると信じていた。
最悪、お金でもう一度美月を黙らせて、直接謝りに行けば済むことだと思っていた。
その頃、佐藤家の父親は頭を抱えていた。
たった二日で佐藤家は複数の大口案件を失い、長年の取引先十数社も契約を打ち切ると通告してきた。
最初は原因が分からず情報を集めたところ、九条グループの差し金だと知った。
佐藤家はコネを使って司に会おうとしたが、結局会えたのは彼の秘書だった。
秘書は単刀直入に言った。「佐藤さん、今選べる道は一つだけです。娘さんを守るか、会社を守るか。瑠奈さんをかばうなら、佐藤家の会社は確実に潰れます。」
佐藤家は、ほとんど迷わずに決断した。
瑠奈はまたしても、見捨てられたのだった。
結局、弁護士が再び瑠奈に会いに来ることはなかった。
事件は順調に進み、弁護士は美月に「瑠奈が検察庁に送致されるのを待つだけです。裁判の際に出廷をお願いします」と伝えた。
美月はようやく安堵し、カラフルジュエリースタジオに通常通り出勤するようになった。
その日はイタリア映画祭の開幕日で、カラフルの社員たちはスマホでライブ配信を見ていた。
女優の星野夏がレッドカーペットを歩いたのは現地の朝で、日本ではちょうど午後だった。
彼女は金色のロングドレスに、吉田がデザインしたジュエリーを身につけ、いつもの可愛らしい印象とは違い、堂々とした華やかさを見せていた。
吉田は画面に映る星野夏に夢中で、スマホに顔がつきそうな勢いだった。
「このジュエリー、本当に素敵!星野さんの雰囲気にぴったり!」
そう言いながら、得意げに美月の方をちらりと見た。
吉田は美月と同期で入社したが、ずっと美月に一歩及ばないと感じていた。今日こそは胸を張れる日だと思っていた。
ライブ配信を見るだけでなく、SNSも頻繁にチェックしていた。星野夏とは事前に「SNSでタグ付けしてね」と約束していたのだ。
しかし、いくら待っても星野夏本人からの投稿はなく、代わりに事務所の公式アカウントがまとめ投稿をアップした。そこには、メイク、衣装、ブランドスポンサー、ジュエリーデザイナーとして吉田の名前もタグ付けされていた。
本人の名義ではなかったが、吉田は満面の笑みを浮かべていた。
星野夏は今人気急上昇の女優で、事務所アカウントにも多くのフォロワーがいる。投稿と同時に吉田のアカウントにも新しいフォロワーが一気に増えた。
吉田はSNSで「お嬢様デザイナー」のイメージ作りに余念がなく、「ジュエリーデザイナー」の肩書きも加わり、ますます星野夏ファンから注目を集めていた。
吉田は事務所の投稿をリツイートし、「星野さんの気品はどんなジュエリーも引き立てる」とコメントした。
さらに事前に手配していた業者に依頼し、「星野夏ジュエリーデザイナー」というワードをトレンド入りさせていた。
一通り準備を終えると、同僚たちの称賛の声をゆっくりと受け、カラフルのような小さな会社はもう自分にはふさわしくないとさえ感じていた。
賞賛の嵐を受けた後、吉田はわざと美月のデスクにやってきた。
「ねえ、あなたも星野さんのレッドカーペットの写真見てるの?」
美月のパソコンには星野夏の写真が表示され、ネックレスの部分が拡大されていた。
吉田は笑いながら言った。「拡大までして見てるの?私のデザインがそんなに気になるの?」
「この前、空港に送ったときもじっと見てたし、今日も大きくして見てるなんて、羨ましくて仕方ないのね?」
「盗み見したいなら、隠さずに聞けば?教えてあげてもいいわよ、私、心が広いから。」
美月は彼女に構わず、画面から目を離さなかった。
ネックレスだけでなく、ブレスレット、リング、イヤリングも拡大してじっくり観察していた。
しばらく見ているうちに、なぜあの日吉田のデザインに見覚えがあったのか、ようやく思い出した――この一式、すべてパクリだったのだ。