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第78話 見覚えのある番号

嵐はスタッフを率いて監視カメラの映像を徹底的に確認したが、何も異常は見つからなかった。やむを得ず、システムからコピーしたばかりの映像を司の前に差し出した。


「九条さん、後藤さん、何度も確認したが、あの日の展示ホールの監視映像には特におかしな点は見当たらなかった。」


言い終わらないうちに、司の瞳に冷たい光が宿るのを感じ、慌てて付け加えた。「もしかしたら見落としたのかもしれない。もう一度、念入りに調べ直そうか?」


「もういいわ。」美月が一歩前に出て、冷徹な声で言った。「監視映像はとっくに削除されている。今見ている『正常な映像』は、以前の録画データを上書きしたものよ。」


嵐は困り果て、助けを求めるように後藤を見た。証拠がなければ、司に難癖をつけられているように見えかねなかった。


後藤が場の雰囲気を和ませようと口を開いたその瞬間、司の声が低く響いた。「後藤さん、自分の会社の監視カメラすら勝手に改ざんされるようでは、新しいショッピングモールのセキュリティを任せる自信はないね。」


その言葉は後藤にとって大きな痛手となり、思わず姿勢を正して応じた。「徹底的に調べます!技術チームをすぐに呼びます。たとえ上書きされていても、操作の痕跡は必ず見つけ出します!」


IT関連が本業の後藤はすぐさま技術担当に電話をかけ、通話が終わると嵐に目配せした。「監視映像を削除するには警備の協力が必要だ。まずは下の警備員全員を呼んでくれ。」


数分後、三人の警備員が連れてこられた。年配の隊長と、若い警備員が二人。


「吉田の監視映像削除を手伝ったのは誰?」嵐は単刀直入に聞いた。


警備員たちは互いに顔を見合わせたが、誰も口を開かなかった。嵐は今度は吉田に向き直った。「自分から言ってください。誰が手伝ったのか、教えてください。」


吉田の顔は青ざめ、唇が震え、声が出なかった。


そのまま沈黙が続く中、美月が突然、真ん中の若い警備員を指差した。「この人、前に吉田とこっそり話しているのを見たわ。吉田が彼にカードを渡していた。たぶん彼が映像を消すのを手伝ったのよ。」少し間を置いて、「もちろん私の言うことだけでは断定できないが、警察を呼んで事情を聞いてもらえばいい。二人ともあまり度胸がなさそうだし、きっと隠しきれない。」


ちょうどその時、後藤が呼んだ技術スタッフが到着し、すぐに操作を始めた。「確かに映像に削除や上書きの痕跡があります。バックエンドから操作履歴も確認できます。」


「なんてひどいことだ!」後藤は机を叩き、「すぐに警察を呼んでください!」


今回は嵐も迷わず、同僚の携帯を借りて110番に通報した。「警察、もうすぐ来るそうです。」


先の警備員はこれを聞くなり突然動揺し、隣の人を突き飛ばしてガラス扉の外へ逃げ出そうとした。「警察だけは勘弁してください!」


スマートフォンが床に落ち、画面が真っ黒になった。


彼は嵐を見つめ、顔を赤くしながら叫んだ。「吉田に金をもらったんです!お金に困っていただけで……だから手伝いました。警察だけは勘弁してください!」


嵐は怒りで吉田を睨みつけた。「会社のネックレスまで盗むなんて?安物とはいえ、これは立派な窃盗よ!」


その場にいた全員の視線が吉田に集まった。吉田は頭を下げ、胸がつかえるほど俯いた。「ほんの一日だけ身につけたかっただけ、翌日すぐ返したし、損害は出していません……弁償します、十倍でも払いますから、お願いです、警察だけは……」


後藤は全く取り合わず、冷たく言い放った。「警察に任せるしかないね。こういう不正を働く人は、カラフルには置いておけない。」


警察が到着しそうな気配が漂う中、例の警備員が突然暴れ出し、押さえていた手を振りほどいてエレベーターの方へ走りだした。


「捕まえろ!」と後藤が叫んだ。


だが一番早く動いたのは司だった。数歩で追いつき、警備員の襟元を掴んで、子猫のように引き戻した。後藤と男性社員たちもすぐに加勢して警備員を押さえ込んだ。


司は自分の手元のしわを軽く払うと、冷たい口調で言った。「そんなに警察が怖いってことは、まだ他に何かやましいことがあるんじゃないのか?」


「ち、違います……」警備員は震えながら、「ただ、家族に電話しておきたかっただけです。迎えに来てもらいたいだけで……それぐらいいいでしょう?」


司はちらりと彼を見てから、後藤に顎で合図した。


警備員は片手を離されると、慌ててスマートフォンを取り出し、震える指で番号を押した。電話は長く呼び出し音が鳴るものの、なかなか出なかった。諦めきれず、もう一度同じ番号を押しながら、小声で「早く出てくれ……お願いだから……」とつぶやいた。


美月はちょうどその位置から彼のスマートフォンの画面が見えた。その見覚えのある番号が何度も押されるのを見て、次第に顔色が険しくなった。


それは清夏の電話番号だった。


誠司が帰国したばかりの頃、清夏との関係はまだ公にしておらず、連絡を取るのもいつもこっそりだった。誠司は清夏の番号を連絡先に名前登録せず、毎回手入力していた。美月はその数字を何度も見ていたので、すっかり覚えてしまった——後に誠司は「宝物」として登録したが、美月の記憶にはあの番号が強く残っている。


この警備員がこんなにも必死に清夏の番号を繰り返しかけているのはなぜ?二人の間には何か関係があるのだろうか——美月は警備員の焦る横顔を見つめながら、心の中で疑問を抱いた。

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