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第32話 入札会


まるで自分が被害者かのように振る舞って……犯人はこいつなのに!


卑怯者!


玲子は彼に視線を投げることすら面倒だと感じ、無表情のまま黙っていた。


このやり取りで、席の交換はもう叶わなかった。壇上では司会者が開会の挨拶を読み始める。


突然、一つの手が彼女の手の甲に重なった! 手のひらには薄いタコがあり、指先がかすかに玲子の肌をなぞる。その動きは密やかで、他人には気づかれない。


玲子は力いっぱい振り払うこともできず、鋭い視線で睨みつけるしかなかった。


この程度の警告は神崎航にはまったく効果がない。彼は明らかにわざとやっている。


「神崎様は、今回の入札にどれほど自信をお持ちですか?」玲子はやむなく話しかけ、周囲の注意を引こうとした。二人の指はテーブルの下で密かに絡み合い、力比べをしていた。


航は皮肉な笑みを浮かべ、握る力をさらに強めてきた。「もちろんだ。」


玲子は徐々に苛立ち、声を押し殺して二人にしか聞こえないように言った。


「私がここで痴漢だって叫んだらどうする? どうせ神崎様は有名人だし、これ以上スキャンダルが増えても平気でしょ?」


言葉にはからかいと脅し、皮肉がたっぷり込められていた。


今回はようやく玲子が手を振りほどくことに成功した。赤くなった手首を押さえながら、航を冷ややかな目で見つめる。その視線は氷のように冷たく、一切の感情がない。


航は彼女の瞳の奥にある完全な無関心に気づいた。自分が何をしようと、もはや彼女の心には一片の波紋さえ起こせない――そんな静けさだった。


本当に、他人として扱うつもりなのか?


この認識は骨に喰らいつく虫のように、航の頭の中でぐるぐると回り、胸を重苦しく締めつけた。


そんなはずはない!


何も言わずに長い間消えて、辞職届をあっさり出し、すぐに別の男の下で働き始めた! 彼女を見た瞬間から、積もり積もった怒りが胸の中で渦巻いている。関係を清算したいだなんて――そんなの絶対に許さない!


これは政府主導の入札だ。各社はこれを機に政府とのコネを作ろうと必死だ。競争は熾烈を極めたが、雅人は泰然自若としていた。彼も航も、本当の勝負は最後にあると分かっていた。


航は黙り込み、何かを企んでいる様子で、高橋円に何度呼ばれても応じなかった。


玲子は他のことに気を取られる暇もなく、目前に迫るディベートに全神経を集中させていた。言葉の応酬で際立つことこそが肝心だ。職場で鍛え上げられた自信が彼女にはある。


やがて最終ラウンドに入り、何社かが脱落し、残ったのは重鎮ばかり。


高橋円の視線が空中で玲子と交わる。そこには探るような、値踏みするような色があったが、今はただのライバルだ。互いにそれ以外のことを考えている余裕などなかった。


玲子は渾身の力を込めて準備した入札書類を提出した。この提案書には彼女の多大な努力が注がれている。新しい切り口、際立つ特徴、明確な強み――藤原グループの提示条件は最上ではないかもしれないが、他社を圧倒するには十分だった。政府とのパイプを得られるなら、多少の利益を譲るのも惜しくない。


説明セッションでは、各社の責任者が激しく論戦を繰り広げ、誰も譲歩しない。玲子の論点は独特で、論理も明快。聞く者に鮮烈な印象を与えた。終わる頃には、彼女には八割方この案件を勝ち取れる自信があった。


激戦の後、口が渇ききっていた。玲子は雅人と共に会場を出る。


そこへ高橋円が近づいてきた。絶妙な笑みを浮かべて、こう声をかける。


「主催者が隣の個室を用意してくださったそうです。皆さん、どうぞ移動を。争ったからこそ、ここで和気あいあいと――だそうです。」

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