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第34話 カードゲーム


藤原雅人は玲子の方を見て、同意するようにうなずいた。


玲子は手の中で急に熱くなったカードを握りしめ、捨てることもできず、持ち続けることもできずにいた。


「がんばって。」雅人は半ば冗談めかして彼女の肩を軽く叩き、励ました。


玲子はなんとか笑顔を作ったが、これで本当に進退きわまった格好だ。


ふと目を上げると、航が高橋円の華奢な肩をぐいと抱き寄せ、自分の胸元に押しつけているのが見えた。


高橋円は小さく悲鳴を上げ、頬を真っ赤に染めた。


その場にいる皆の視線はたちまち色っぽくなり、興味深げに染まった。


中でも井上流星は一部始終をはっきりと見ていて、首を振りながら小さく鼻で笑った。


雅人も何となく事情を察したが、こういうことは深入りしないのが一番だ。


玲子が最初にカードを出す番になった。彼女は多少テクニックを知っていた。


一方、渡辺旬と井上流星の隣にいる連れたちはまったくルールを知らず、カードの出し方もめちゃくちゃだった。


残る高橋円はどうやら、カード自体触れたことがないような様子だった。


神崎航はすでに彼女から手を離し、気のない様子でサイコロを手遊びしていた。


玲子はまさか自分がこのメンバーの中で一番になるとは思わず、危なげなく最初の勝利を収めた。


雅人の合図で、彼女は井上流星に対してあまり難しくない質問をした。わざと手加減したのは明らかだった。


第二ラウンド、玲子は相手の力量を見極めて安心し、口元にかすかな笑みが浮かんだ。


だが、誰かは彼女の思い通りにはさせたくなかった。


次のゲームで、航が高橋円にカードの出し方を指導し始め、狙いははっきりしていた――玲子を狙い撃ちだ!


玲子の手筋はことごとく断ち切られ、新しいカードを引くこともできなかった。


航の方も、結局はひどい手札に終わった。


鷸と蛤が争い、漁夫が利を得る。


二回目は吉田和也コンビが勝った。


「さぁて、どうしようかな。」吉田和也は目をきらきらさせながら、場の航と雅人の二組の間に漂う微妙な空気を見抜いていた。顎に手を当て、最終的に玲子に視線を止めて言った。「じゃあ、こちらの美人さんは、ここにいる異性の誰かとディープキス!どうだ?」


彼は今まで多くの美女を見てきたが、水野玲子の清楚で気高い美しさは一目で心を奪われるほどだった。まさに独り占めしたくなる美しさだ。


そして、これは密かに藤原雅人を助けるためでもあった。ふんふん、感謝は不要だぜ!


吉田和也が心の中でそうつぶやいた、その時――「ガシャン!」と鋭い音が響いた。


グラスの一つが粉々に割れたのだ。


「社長!大丈夫ですか?」高橋円は慌てて航の様子を見に駆け寄り、その顔には心配が滲んでいた。


航の握りしめた拳の甲には青筋が浮かび、表情はさっきよりさらに険しく、唇は鋭く結ばれ、顎のラインは弦のように張りつめていた。


却ってその場で一番平然としていたのは、玲子と雅人だけだった。


玲子は落ち着いて自分のグラスに酒を注ぎ、「できませんので、代わりに三杯飲みます。」と言った。


予想外の事態に、吉田和也は訳が分からず、内心で苦い思いをした。


三回目のゲームが始まり、今度は高橋円と神崎航のペアが勝った。


薄暗い照明の下、航は足を組み、目には底知れぬ暗い色が漂っていた。彼はこの夜初めて口を開いた。


「君、彼女を家まで送っていけ。」


彼は人差し指を軽く曲げて玲子の方を指し示した。


そして、ちらりと高橋円にも目をやった。


玲子を含め、その場の数人が驚いた。


女の私が、もう一人の女を家まで送るって?


これはまさに“大胆な挑戦”だ。


玲子は両手を広げて言った。「すみません、お酒を飲みましたから。」


「じゃあ、歩いて送りなさい。」航の口調は一切の妥協を許さなかった。


玲子の表情が凍りついた。どうやら彼女だけを狙い撃ちにしているようだ。


しかし、彼女も航の手段には警戒せざるをえなかった。


「神崎さん、」彼女の唇に冷ややかな嘲笑が浮かぶ。

「いっそあなたたち二人で部屋を取ったらどうです?家に帰る必要なんてないでしょ?」

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