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第37話 招かれざる客


「神崎社長って、あんなに傲慢で婚約者までいる人よ?まさかしつこく食い下がったりしないでしょうね?」


もしこれ以上彼が食い下がれば、彼女の言葉がそのまま真実になってしまう。


彼が誇りにしているわずかなプライドも、跡形もなく消え去るだろう。


「水野玲子、お前は本当に口が達者だな。」航の声は枯れて、ひと言ひと言が歯の隙間から絞り出されるようだった。


今度こそ、車のドアは無事に開いた。玲子は一矢報いた形になった。


彼女の姿は車の流れの中に小さくなり、やがて見えなくなった。


航はその方向をじっと見つめ続けていた。視界が空虚になるまで。怒りと無力感が胸を満たし、呼吸さえ苦しく重くなる。


抑えきれずに胸を押さえ、固く握った拳でハンドルを激しく叩きつけた。


玲子は今も以前のアパートに住んでいる。藤原雅人から電話がかかってきた。


「神崎に何かされなかった?」彼は心配そうな口調だった。


玲子は機嫌も悪くなく、ちょうどパックをしていた。「彼に何かされるほどじゃないわ。大丈夫。」


「今夜のあの雰囲気、自分でも考えてみなよ」雅人は親切に注意した。「彼、もしかしてまだ君に未練があるんじゃない?」


このところ二人はすでに打ち解けていた。


藤原雅人と神崎航は、表面上はただの知り合いだ。しかし神崎航は有名で、冷徹な仕事人間として知られている。


雅人も一度だけ彼と仕事をしたことがあるが、とにかくやりにくい相手だと感じた。だが今夜の彼は、まるで別人のようだった。


どうして玲子がそこまで彼を変えられるのか、不思議でならなかった。


「社長、冗談はやめてくださいよ」玲子は思わず頭が痛くなり、パックが割れそうになるほど笑い、「そこまで特別な人じゃないですから。仮にそうだとしても、私には関係ありません」


——あの仕事バカがもし本当に恋愛で悩むなら、それはきっと白石美咲のせいだ。心の中でそう付け加えた。


電話の向こうで雅人は困ったように首を振った。当の本人は気づいていないのだ。


入札の結果はほぼ藤原グループに決まりそうだった。


関係を円滑にするため、玲子はある政府関係者と夕食を約束した。


準備をしていると、受付から来客の知らせが入った。


外に出てみると、思いがけない人がいた。


「高橋さん?」


まさか彼女が訪ねてくるとは思わなかった。


二人は藤原グループビルの下のカフェで席についた。


「玲子先輩」高橋円は小さなノートを取り出し、真剣な顔つきで言った。「今回お伺いしたいのは、神崎様のお好みについてです。」


玲子は「神崎航」という名前を、できることなら自分の生活から完全に消し去りたいと思っていた。


まさかこんな形でまたその名前が出てくるとは。


「それなら田中さんに聞いたら?」


だが高橋円は、「田中さんは、玲子先輩がプライベート秘書だったから、自分より詳しいって言ってました」と返す。


玲子は目を閉じた。「もうとっくに辞めたって、彼も言ったでしょ?」


さらに何度か説得したが、玲子が応じないのを見ると、高橋円はしおらしく懇願し始めた。


「玲子先輩、お願いです!神崎様って、すごく気難しいって有名なんです。もし気に入られなくてクビになったら、私、新卒なのに、これからどうすればいいか……」そう言いながら、目が赤くなり、今にも泣き出しそうだった。


玲子はこういう様子が一番苦手だった。


「もし本当に辛いなら、早めに自分から辞めるのも悪くないよ」と親切心からアドバイスした。


高橋円は一瞬で黙り込み、唇を小さく震わせ、目の奥にはかすかな嫉妬が走った。


「私はこの仕事、大事にしたいんです」彼女は小さくつぶやいた。


玲子は困りながらも、高橋円の気持ちを理解した。


「オレンジとリンゴは食べない。料理はニンニクとレタスがダメ。チョコレートは嫌い。お茶は渋みが七割くらい。生活面では……」

玲子は流れるように、ほとんど考えずに言った。「彼は潔癖症よ。」

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