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第39話 朝の騒動


九条景を目覚めさせたのは、目覚まし時計でも自然な目覚めでもなかった。


頬に鋭く響く平手打ちと、火照るような痛み。


景はまだ目を開けていないのに、勢いよく跳ね起きた。


「このクソ野郎!」玲子の声はかすれ、乾いている。明らかにまだ酔いが残っている様子だ。


景は頬を押さえ、ようやく自分が叩かれたことに気づいた。


彼は一瞬で逆上し、跳び上がった。「ふざけんなよ!助けてやったのは俺だぞ、それでこの仕打ちかよ!」


玲子はズキズキする額を揉みながら、最後の記憶を思い出そうとした。チンピラに囲まれていた場面で意識が途切れている。今、見知らぬホテルで目を覚まし、隣に見知らぬ男がいる。誰だってまずは手が出るだろう。


景の顔をしっかり見ると、玲子は驚きつつもすぐに状況を整理した。「あなたなの?つまり……」


「じゃあ私たち……」下を向いて、自分が昨日の服を着たままだと確認する。


「助けるのに苦労したんだし、少し休ませてくれよ」と景は不満げに、語気も荒い。


だが、すぐに態度を変え、顎に手を当てて、からかうような目つきで言った。「それとも……何かあった方が良かった?望むなら応えてやってもいいけど?」


玲子は手を挙げて答えた。「それは私の平手がちゃんと狙いを外さないかどうか次第よ。」


景はすぐにビビって、また叩かれた頬を押さえた。


玲子はただ脅しただけで、水を探して喉を潤した。


「昨夜、あなたがいなかったら、本当に危ないところだったわ」と彼女は恩怨をはっきりさせる。九条景は遊び人に見えても、本質は悪くないと分かる。


「その態度?さっき叩いたのは誰だ?」景は体を伸ばしながら、ぶつぶつ文句を言う。


玲子は堪えて、「さっきは誤解してた、ごめん」と謝った。


「感動した?じゃあ責任取ってくれる?」玲子が黙っていると、景はまた調子に乗って顔を近づけた。


玲子は無言で目を白くした。


どうやってお礼を言おうか考える。お金?自分もほとんど持っていない。


「なあ、神崎のやつはどこ行った?お前、あいつの秘書じゃなかったのか?」景が何気なく聞く。


またその名前だ。


「辞めた」と玲子は話を早く終わらせたかった。


景は眉を上げて、手を叩いて喜んだ。「よくやった!俺に世話されたい?可愛いから特別に面倒見てやってもいいぜ?」


「結構です」玲子は、この遊び人とはほとんど縁がない。


景は図太い性格で、誰にでも気さくに話しかける。


「お前、九条家を見くびってるのか?!」と大げさに嘆いてみせる。「で、今はどこの会社にいるんだ?」


玲子は彼の騒がしさに頭が痛くなり、「別の会社」とだけ答えた。



ホテルを出て、玲子は会社へと急いだ。


まず昨夜の会食の内容と成果をまとめ、藤原雅人に報告した。


プロジェクトはほぼ成功、藤原グループの未来は明るい。


雅人は満面の笑みを浮かべた。


「やっぱり、君を採用して正解だったよ」


「みんなの努力です」と玲子は手柄を独り占めしない。


お祝いの意味も込めて、彼女はプロジェクトメンバー全員で懇親会を開くことにした。


「ねえ、隣の個室も会社の飲み会みたいだけど、なんか見覚えある人がいる気がする」と誰かがトイレから戻ってきて報告した。


「人が多いと盛り上がるし、いっそ誘ってみる?もしかしたら人脈も広がるかも!」と誰かが提案した。

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