目次
ブックマーク
応援する
20
コメント
シェア
通報

第40話 お食事


玲子は彼らの手配に従った。


隣の部屋の人たちは招待を快諾したが、恥ずかしがってなかなか来ようとしなかった。


「うちのボスが言ってたんですよ。そちらのリーダーの顔を立てて、今回は特別に参加させてもらうって。」

向こうから何人かの綺麗な女の子が伝言しに来た。


メンバーたちの目が一斉に輝き、期待に満ちた視線が玲子に向けられた。


「玲子先輩、これはあからさまな挑発ですよ!」

「そうそう、俺たちにもチャンスをくださいよ!」


玲子は思わず笑い、断る理由もなく立ち上がった。

「たいしたことじゃないでしょ、ちょっと待ってて。」


彼女は隣の個室のドアを開けたが、中は異様なほど静かだった。


全員が一斉に入り口を見つめ、彼女が現れるとほっとした様子になった。


「こんにちは、私は……」玲子が言いかけたその時、向こうの人たちが一斉に入り口に押し寄せ、無理やり彼女を中に押し込んだ。最後に出て行った一人は「親切」にドアまで閉めていった。


玲子は訳がわからずにいたが、主役席に座る神崎航の姿を見て全てを理解した。


どうりでメンバーたちが見覚えがあると言っていたわけだ。きっと藤原雅人が以前彼と何かの仕事をしたことがあり、部下たちが顔を合わせたこともあったのだろう。


「わざとでしょ?」玲子は身をそらし、彼に目もくれなかった。


航は上機嫌に見えた。テーブルいっぱいのご馳走は明らかに「客人」のために用意されたものだ。


「座れ」と彼が促す。


玲子は口の端をわずかに動かし、鼻で冷たく笑った。

「誰に命令してるの?私はあなたの部下じゃない。」


彼女はほぼ確信していた。この「偶然の出会い」は航が仕組んだものだと。でなければ、社長自らが新人たちの懇親会に参加するはずがない。この空気、まさに鴻門の会だ。


「君はかつて俺の秘書だった。」航は怒ることなく、姿勢を直し、ほとんど貪るような視線で玲子を見据えた。その目は、彼女を底知れぬ渦に吸い込もうとしているかのようだった。「その他のこと、もっと色々知られたいのか?」


玲子の足が止まる。深く息を吸い込んだ。

「脅すつもり?神崎社長、あなたがここまで卑劣だとは思わなかった。」


藤原グループでは、藤原雅人が彼女のために「コネ」を使っているという噂が前からあった。それは彼女にとって良い影響ではなかった。やっと成績で自分の力を証明したばかりなのに。秘書だったこと自体は問題ないが、もし神崎航が話を盛れば、また悪い噂が立つのは目に見えている。


それだけは絶対に嫌だった。


今日の彼女はビジネススーツを着ていた。白いシャツの襟元にはシルクのリボン、黒のタイトスカートから伸びる脚は長く真っ直ぐだった。


航はしばらく彼女を見つめ、やがて何事もなかったかのように視線を外した。


玲子は彼から一番遠い席を選んで座った。


二人はまるで無理やり同席させられた見知らぬ人同士。しかし見知らぬ同士ならまだ愛想笑いもできるだろうが、彼らは終始顔を強張らせていた。


航が先に箸を取った。動作は優雅で落ち着いていた。


大きな円卓で、彼は自分の前の一品だけを口にした。


玲子もお腹が空いていたが、航と同じ卓で食べるのは絶対に嫌だった。あと三十分だけ我慢し、メンバーたちの会が終わったらすぐに帰るつもりだった。


「食べろ。」航が薄く口を開き、袖を少し巻き上げ、細くしなやかな手首を見せた。彼はいつも逆らいがたい威厳を纏っていた。


「お腹空いてない。」玲子がそう言った直後、彼女の腹が「ぐう」と情けなく鳴った。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?