白石は軽く笑いながら言った。

「航、彼女だからって、私に警告してるの？」

「彼女とは関係ない。」

航はそう言い捨て、馬鞭を振るって先に馬を走らせて行った。

白石は彼の背中をじっと見つめ、目に冷たい光が走った。

彼女はずっと玲子の動向に注意を払っていたので、航が彼女と何度も密かに会っていることは当然知っていた。

でも大丈夫、彼女には航を取り戻すための十分な資本も時間もある！水野玲子なんて、所詮あの顔を武器にしているだけじゃない？

一方、玲子はこの出来事で気分は少し乱れたものの、来てしまったからには楽しむしかない。

それぞれの馬の前には馬丁が手綱を引いていた。

「さあ、乗るのを手伝おうか？」

景が親切そうに声をかける。

玲子は思わず笑い、素早く鐙を踏んで馬に乗り、身をかがめて彼を見下ろした。

「子供扱いしないでよ？」

陽射しが降り注ぎ、舞い上がる彼女の髪は金色に輝き、横顔の輪郭がますます際立って見えた。

景は顔を見上げ、心臓が何かに急に掴まれたような感覚に襲われた。

玲子は全く気づかず、下を向いて手綱を調べていた。さっきの一瞬の美しさが、彼の心に深く刻まれたことなど知らずに。

景は心の中で悪態をつきながら、馬に飛び乗った。

男たちは皆、馬に乗れるので、遊び心が芽生え、すぐに競馬をしようと提案した。

景は競争心に火がつき、玲子に「ここで待っていて、動かないで」と念を押してから、馬を走らせて競馬場へ向かった。

玲子はあまり興味がなく、ただ傍観していた。

馬丁は彼女が乗馬に興味がないと見ると、一言注意をしてから安心して手綱を放し、他の馬の世話に向かった。

近くの女性たちは雑談していたが、玲子には話しかけなかった。玲子にとって好都合で嬉しかった。

彼女の気を引いたのは、むしろ航と白石のことだった。

思ったそばから、白石が馬を何とか操れるようになり、彼女たちの輪に加わってきた。

「男たちは男同士で遊んでるんだから、私たちも楽しまないとね？」

白石は親しげに声をかけた。

皆は白石家のお嬢様だと気づき、次々に同調してご機嫌を取った。

彼女たちは慎重に馬を進め、白石の後ろについて乗馬クラブの休憩所へ向かおうとした。

「玲子さん？まださっきの冗談を怒ってるんじゃないでしょうね？　あなたがいないと寂しいわ。」

白石は振り返り、玲子が動かないのを見ると、わざとらしく声をかけた。

その態度の変わり様には舌を巻くほどだった。

玲子はこれが善意でないことをよくわかっていた。

「怒ってないわ。ただ、行きたくないだけ。」

玲子は率直に断り、手綱を引き締めて彼女たちを避けて去ろうとした。

白石は玲子を見つめ、ポケットのスマホが「カタン」と地面に落ちた。

「あっ！私のスマホ！」

白石は叫びながら身を乗り出して拾おうとした。

その瞬間、彼女は太ももに力を入れて馬の腹をきつく締めつけた！

馬は痛みでいななき、皆が驚く中、突然前方へと猛然と駆け出した！

突然の出来事！

玲子は一番前にいて、後ろから馬が狂ったように自分に突進してくるのを見て振り返った！

白石は馬の上で今にも落ちそうになり、叫び声を上げていた。

玲子は手綱を引いて避けようとしたが、もともと馬の扱い方を知らなかった！

白石の馬は強い勢いのまま、彼女の馬に激突した——