疾風が顔を打つ!
驚いた二頭の馬が同時に前脚を上げた――
粗い手綱が一瞬で玲子の柔らかな手のひらを擦りむき、激痛に力が抜けて手綱を放してしまった!
馬は制御を失い、旋回しながら玲子を激しく振り飛ばし、彼女の額は隣のコンクリートの低い壁に強く打ち付けられた!激痛が全身を襲い、玲子は身を丸めて震えた。
白石を見ると、彼女の状況も同じくひどかった。体の半分を地面に引きずりながら、叫び声は次第に小さくなり、ついに手を離してしまった。
その場にいた女性たちはこんな場面を見たこともなく、顔面蒼白になり、パニックに陥った。
すぐに誰かが助けを呼びに行った。
景が知らせを聞いて駆け付け、三歩を二歩で玲子のそばへ走り寄った。
意識が朦朧とし、手のひらの血が足元の小さな芝生を赤く染めていた。
玲子は必死に目を瞬かせた。
混乱の中、ひとつの影が光を割って逆光の中から現れた。乱れた黒髪、全身に鋭い冷気をまとっている。
彼女はうっすらとその顔を見分けた――神崎航だった。
唇がわずかに動き、視線が一瞬だけ彼と交差したように思えた。
次の瞬間、玲子は航が数歩先で立ち止まり、身をかがめて、何のためらいもなく白石を抱き上げるのを目にした。
玲子の口元に苦い笑みが浮かび、ゆっくりと目を閉じた。一筋の涙が、音もなく目尻を滑り落ちる。
「何をぼんやりしてるんだ!救急車呼べ!」景は彼女のそばにしゃがみ込み、いつもの気ままな様子は一切なく、馬丁に向かって怒鳴った。「馬をちゃんと見てろって言っただろうが!これはどういうことだ!」
皆は息をのんで黙り込み、ただ助けが来るのを待つしかなかった。
病院で、玲子はずっと昏睡していた。
翌朝になってようやく目を覚ました。
病室には誰もいなかった。
彼女は身を起こし、周囲を見渡す。手のひらと額の傷はすでにきちんと包帯され、体のあちこちの擦り傷にも薬が塗られていた。
どうやら大事には至っていないようだ。
この病院には、もうすっかり常連になった気分だった。
玲子はベッドの背にもたれ、しばらくぼんやりし、布団をめくってベッドを降りようとした。
ドアのところから物音がして、目を上げる。
航は彼女が目を覚ましているとは思っていなかったようで、そのまま入ってきて、珍しく朝食をベッド脇のテーブルに置いた。
玲子の頭は真っ白になった。
白石美咲は、今や二人の間に越えられない深い溝となっていた。今では、普通の会話すら贅沢に思える。
最後に脳裏に焼き付いたのは、あの時、航が白石を抱き上げて立ち去る決然とした背中だった。
胸がひどく痛んだ。あの場面が緊急だったことは分かっている、そもそも何も期待すべきではなかったのだ。だが、目の前で見せられたその決定的な痛みは、今も鮮明に残っていた。
玲子は、まるで彼の存在を自動的に遮断するかのように、窓の外に視線を向け、靴を履く手を止めることはなかった。
「どこへ行く?」航が体を起こして尋ねた。顔色はどんよりと青ざめ、明らかに一晩中眠っていないようだった。
玲子は沈黙を守り、表情には何の波もなかった。
彼女は目の前のこの人間を、完全に無視した。
航は彼女のその様子を見て、瞳孔がきゅっと縮み、何かに激しく刺されたようだった。
胸がざわつき、どうすることもできない。
「玲子……」 ごめん。
謝罪の言葉は、結局口に出すことができなかった。彼は眉をぎゅっとひそめ、理由のわからぬ苛立ちが心の奥底から湧き上がってくる。
玲子はぶかぶかの病衣を着て、彼がいるせいで着替えることもできなかった。